2024年04月28日

パスワード

購読会員記事

百貨店の歳暮商戦は「集いの場」を彩る“ごちそう”充実化

百貨店業界では歳暮商戦が真っ盛りだ。「アフターコロナ」で迎える初めての年末年始は親族や友人らとの集いの場が増えるとみて、各社は楽しさや華やかさ、驚きを演出できる“ごちそう”を充実させた。中でも冬の定番、鍋料理には力が入る。多くの百貨店でカテゴリー別の売上げが首位の洋菓子、あるいは新型コロナウイルス禍で需要が増えたカジュアルギフトや割安な自宅用の強化も目立つ。デパートニューズウェブのアンケート形式での取材によれば、11月上旬時点での売上げはインターネット通販もギフトセンターも各社で明暗が分かれたが、歳暮商戦は11月末~12月初旬にピークを迎える。情報発信やギフトセンターでの試食および試飲などで購買意欲を喚起し、前年実績のクリアを目指す。

百貨店業界では歳暮商戦が真っ盛り。11月末から12月初旬にかけてピークを迎える

ギフトセンターの開設に合わせて11月7日に西武池袋本店で歳暮商戦について説明した、そごう・西武の平手健介リーシング本部リーシング二部フード担当は「アフターコロナで入店客数が増えている中、昨年よりギフトの動きは良いと予測する」と力を込めた。その上で「親族や友人らと集まる機会の増加を見据え、産地や素材にこだわった鍋料理を前面に打ち出すとともに、気軽に贈れて自家需要も見込めるカジュアルギフト『みんなの冬グルメ』を昨年の17SKUから32SKUに増やした」(平手氏)。

そごう・西武は「集いの場」をテーマに、鍋料理やカジュアルギフトを充実させた

コロナ禍で売上げが伸びた、値ごろ感のある自宅用も強化。ネット通販サイト「e.デパート」の限定品を歳暮商戦では初めて展開する。中元商戦で初めて販売したが、売れ行きは上々。品揃えを約2倍に増やし、さらなる拡販につなげる。

物価の高騰で節約志向が強まり、歳暮商戦も買い控えは懸念されるが、平手氏は「見通しは明るい。まだまだニーズはあると捉えている」と強調する。実際、ギフトセンターに先んじて10月12日にスタートしたネット通販は、10月末までの売上げが前年の約1.1倍。カジュアルギフトの売上げは前年の約5倍に膨らんだ。

松屋もギフトセンターをオープンした8日に銀座店で歳暮商戦の見通しなどを発表。飯田尚思松屋銀座食品部ギフト担当バイヤーは「中元商戦は期間中の入店客数が前年比で2割増、客単価が同じく2%増と伸びた。歳暮商戦の初日に当たる今日も驚くほどギフトセンターが賑わっており、好発進と言える。売上げ目標はギフトセンターが同15%減、ネット通販が同15%増、外商が同100%、トータルで同100%。ギフトセンターのマイナスは足元で入店客数が減少しているためで、10月20日に始めたネット通販は前年と同じ日数で比べて同7割増で推移している」という。

他の百貨店も総じて、ネット通販を伸ばしつつギフトセンターの数字を落とさず、トータルで前年実績を堅持する計画だ。ネット通販はコロナ禍で一段と伸びたが、なお潜在顧客は少なくないと判断。品揃えや販促などを工夫して利用を促す。

小田急百貨店は「日本全国送料無料」、期間中に対象商品を1万円以上購入した人に500円分のクーポンを渡す「早めがおトク!お買い上げでオンラインクーポンプレゼント」を展開。京王百貨店は食品や酒類を中心にネット通販限定商品を強化し、新規会員登録者に500円分のクーポンを配布する。そごう・西武は値ごろな自宅用を歳暮商戦では初めて販売するほか、最大で7000円分の「nanacoギフト」が抽選で当たるキャンペーンを実施。高島屋は対象商品を対象カードで1万5000円以上購入した人に2000ポイントをプレゼントし、外部のグルメ系ウェブサイトとのタイアップで情報発信も強化する。

東急百貨店はネット通販限定商品や産地直送品を拡充。東武百貨店は対象商品を購入した人のうち抽選で100人にギフトを贈呈する。松屋はギフトセンターからネット通販への移行を推奨しており、①940点が送料無料②松屋ポイントカードの利用でポイント2倍③初めての利用で6480円以上購入した先着1000人に1000円分のクーポンを贈呈④早期特別優待ギフトを送料無料――をネット通販限定の特典とした。三越伊勢丹はネット通販限定商品を特集。紙のカタログでも代表商品を紹介して利用を促す。

近鉄百貨店は「全国マーク」の4320円以上の商品を11月30日の午後6時までに注文すると、送料をギフトセンターの半分に当たる全国一律275円にするほか、「近畿2府5県送料無料おすすめギフト」を用意。また、歳暮ギフトを購入した全ての人に来年1月以降に使える500円のクーポンを配布する。京阪百貨店は10月12日~12月23日に「ネット割ず~っと 15%オフ&10%オフ」(約720点)を、10月12日~11月30日に「ネット割&近畿2府4県送料無料ギフト」(約30点)を展開中だ。

ネット通販の滑り出しは「前年に対して微減で推移。和菓子や洋菓子が人気の上位を占める」(小田急百貨店)、「10月31日時点で前年の約1.1倍」(そごう・西武)、「10月31日時点で前年比29%増」(大丸松坂屋百貨店)、「例年に比べて購入者が少なく、前年を割っている状態。売上げの大きい早期優待会後半に期待」(東武百貨店)、「洋菓子やビール、カタログギフトの注文が多い」(松屋)という。

アフターコロナとして初めて迎える歳暮商戦だけに、ギフトセンターへの回帰も見込まれる。関係者は「年配はギフトセンターを訪れ、手続きを待つ一連の行動を楽しみにしている」と指摘する。事実、三越日本橋本店や西武池袋本店、松屋銀座店などのギフトセンターは開設日に開店直後から大勢で賑わった。試食や試飲も復活し、購買意欲が高まりそうだ。

松屋銀座店はギフトセンターを開設した初日に多くの人が訪れた

それだけに、品揃えの魅力が問われる。各社は独自性の強化に余念がない。小田急百貨店は全国から厳選した「とっておきのグルメ」、話題の店の味を楽しめる「レストラングルメ」「今注目のエリアセレクション」を特集。今注目のエリアセレクションは、京都府と福井県にフォーカスした。京王百貨店は「笑顔が集う、ひとときに」をテーマに「(コロナ禍での)行動制限を意識した『旅気分』や『お取り寄せ』から、家族や友人と過ごす大切な時間を彩る『手軽に華やかに』や『気持ちがアガる』を主役にした」(同社)。カタログの巻頭特集は「心華やぐ冬のごちそう」で、時短・簡単・便利だけでなく、華やかさやワクワク感も併せ持つメニューとシーンを提案する。人気の洋菓子や鍋料理などもバリエーションを増やした。

そごう・西武は「集いのごちそう」をテーマに、産地や素材にこだわった特集「惚れぼれ、にっぽん。」、全国の有名店の味を取り寄せられるみんなの冬グルメをメインに訴求。昨年の歳暮商戦でも、産地や素材にこだわった特集の売上げは前年の約1.2倍と好調だった。大丸松坂屋百貨店は「節約意識はあるものの“少し贅沢する”動きがみられるため、稀少性や独自性、隠れた名店の発掘など『心を満たす身近な贅沢』を感じられる商品を取り揃えた」(同社)。例えば「入手困難な有名スイーツ」「知る人ぞ知るあのレストランシェフの味」「全国ご当地グルメ」などだ。

高島屋はカジュアルギフトの需要の増加を踏まえ、新規にカードタイプのカタログギフト「e美味マルシェ」を導入。4種類のコースからなり、受け取った人はカードの裏面に記載されたアドレスや二次元バーコードを読み込み、約150~160点から好きな1品を選ぶ。価格は5500~3万3000円。大丸松坂屋百貨店と同様、“プチ贅沢”志向にも照準を合わせ、名店の味や逸品をギフト化した「名店とともに」、稀少性や素材、技を極めた「至高の美味」なども提案する。

東急百貨店はオリジナルの「極味伝心」で特別なスイーツ、老舗や名店が誇る美味などをラインナップ。新商品として「≪紀伊長島≫×≪ラペ≫ラペ監修 特製スープ付き本クエ鍋」などを扱う。自家需要への対応も強め、「金賞ワインセットや無洗米、訳あり品など普段使いに割安感や上質感、利便性といった付加価値を持たせた商品をブラッシュアップした」(同社)。

東武百貨店は話題性やトレンド性のあるギフトを集めた別冊子「Delicious TIME」を新規に投入。チーズグルメ特集や世界のごちそう特集、ご褒美グルメ特集などからなり、「若年層の中には話題性やトレンド性を重視する人がいる。楽しい見た目、プチ贅沢気分を味わえるギフトを提案し、新しいお客様の来店につなげる」(同社)。毎回好評の特集「逸品伝心」は、みかん特集、いちご特集、クリスマスの集い特集、新年のお祝い特集などで構成。歳暮だけでなく、クリスマスや年末年始の需要も引き出す。

松屋は心身を温める「プレミアムあったかグルメ」、物価の高騰を背景に「百貨店クオリティーのデイリー食材」(同社)を集めた「プレミアム実用グルメ」、都市養蜂「銀座ミツバチプロジェクト」から生まれた「銀座はちみつ」を使った「プレミアム銀座スイーツ」などで特徴を鮮明化。三越伊勢丹は数年来の「みらいへつなぐ贈りもの」を継続し、「サステナブル」を切り口にしたギフトを充実させたほか、三越創業350周年を記念して三越が始めたとされる「お子様ランチ」や「全国物産展」にちなんだギフトも提案する。

近鉄百貨店は、同社が運営するレストランやカフェで利用できる「グルメカードギフト」を初めて販売。アフターコロナで外食を楽しむ人にアプローチする。売上げが好調な自宅用は前年から40点を増やした。京阪百貨店は「バイヤー推奨ギフト」の52点を中心に、約200点からなる送料込みギフトを主に訴求する。

阪急阪神百貨店の「阪急」のれんは、①友人をもてなし、家に舞い込んだ福②年末、遠方の大切な人へ届ける福③憧れの器の産地を訪れ、見つけた福――の3つのシーンをイメージした「福をむすふストーリー」、阪急うめだ本店の地下2階で「地域創生」「文化継承」「環境保全」を軸につくり手の想いが詰まった美味を紹介する「Hankyu PLATFARM MARKET」のギフト、ケーキをギフトとして全国に贈れる「CAKE LINK」がメイン。「阪神」のれんは、阪神梅田本店で全国の食品を紹介してきたノウハウを生かし、地元で愛される人気店のグルメを集めたギフト、つくり立ての味わいを簡単に楽しめる冷凍食品のギフト、親子三世代で集まる食卓を彩るごちそうのギフトなどを提案する。

歳暮商戦のピークが迫っており、各社は“前年超え”を目標に、リアルとデジタルの両軸でギフトの拡販に傾注する。

(野間智朗)