2025年07月29日

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津松菱、選べるガチャガチャなど 独自ショップで店頭魅力化

出版社や作家と直接取引して運営している書店「食べる本屋さん」

三重県津市に構える津松菱は、独自性の高い施策で活路を切り拓いている。昨年は、出版社と直接取引する書店「食べる本屋さん」や、カプセルトイを選んで買えるショップ「選べるガチャガチャランド」などをスタートした。書店やカプセルトイショップはどの百貨店でも見かけるラインナップだが、同店に入るショップは一風変わった運営形態で、その独自性によって高い集客力を発揮している。

地方百貨店の多くはインバウンド消費が少なく、国内客の購買意欲も富裕層を除きあまり旺盛ではない。同店を取り巻く環境は決して易しくないが、谷政憲社長は「我々百貨店は、生活をより豊かにする嗜好品を求められる。地域の皆様の文化力を高める発信をしていきたい」と方向性を述べる。

地域のコミュニティの場になる書店「食べる本屋さん」

このような方針の下、昨年12月にコミュニケーション書店「食べる本屋さん」を4階に開いた。同店と「デパート新聞社」が共同で運営し、出版取次を通さず、出版社や作家と直接取引している。取引先は中小の出版社が多いため、大手出版社のベストセラーはないものの、一冊一冊の本に作者や出版社によるメッセージが添えられている。店内にはテーブルや椅子が設置され、お茶やコーヒーを飲みながらスタッフや客同士で交流できる。

オープン以降好評を博し、今年3月には売場を拡大。店内では作家のトークショーや、地元の高校生によるイベントも開催され、狙い通りコミュニケーションの場になっている。

中身を選べる「ガチャガチャランド」が集客力を発揮

昨年は、客数が少なかった7階のテコ入れも行った。2月に、地元の歴史あるダンス教室「ダンススタジオ ビーボックス」のスタジオをオープン。同スタジオは子供向けのコースが多く、子供やファミリー層との接点にする狙いがあった。実際、キッズから高校生、ファミリーの来店は増えているという。

カゴに入ったカプセルトイを選んで買える「選べるガチャガチャランド」

夏には、同階に「選べるガチャガチャランド」を導入。最近はカプセルトイ販売機を置く百貨店が増えているが、通常は機械を回してランダムにカプセルが出てくるのに対し、同ショップはカプセルトイがそのままカゴに詰められて並ぶ。客は事前に中身を確認し、好きなものを選んで購入できるという珍しい形態だ。鎌倉に1号店があり、津松菱は2号店となる。運営は、ガチャガチャランドの企画元と同店が共同で行っている。

事前に中身を選べるという稀少性から、熱心なマニア層がSNSなどで情報発信し、それを見た客が全国各地から足を運んでいる。常務取締役営業本部長の川合正氏は「土日の客の約3割は県外の方。東京や富山、大阪、岡山など本当に様々な場所から来ている。さらに、観光などの用事のついでではなく、このショップを目的に来ている方も多い」と驚きを語る。カプセルは定期的に入れ替わるため、リピーターも付いている。

7階フロアが活性化、他百貨店での展開も開始

同じく7階に開いたレストラン「そば処 銚寿庵」も好調だ

さらに12月には、銚子電鉄がプロデュースする飲食店「そば処 銚寿庵」をオープンした。40年以上のキャリアを持つ料理長が務めており、以前の和食レストランと比べると売上げは約3倍(~今年5月)で推移している。

こうした取り組みによって7階が活性化し、2024年度(24年3月~25年2月)の入店客数は前年を上回った。他のフロアも回遊する、いわゆる「シャワー効果」もみられている。川合氏は「他のフロアにも、こうした集客力の高いコンテンツを導入していけるのが理想」と話す。

今年は「選べるガチャガチャランド」を他の地方百貨店に輸出する取り組みも始めた。同店がパッケージ化したものを、他の百貨店にノウハウなどを教示し、販売手数料を貰うビジネスモデルだ。すでに第1弾として、JU米子髙島屋で7月中旬から1カ月間の開催がスタートし、8月には山陽百貨店(兵庫県姫路市)でも開催が決定している。川合氏は「催事場でなくても、30~50坪あればガチャガチャランドは展開できる。お客様はそれを目当てで来るので、デッドスペースでも問題ない。良い集客装置になるのでは」と語る。

元々同店では、地域商社事業として三重県の産品を集めて物産展としてパッケージ化し、他の百貨店で開催する取り組みを続けてきた。人口減少や高齢化が続く商圏地域では新たな顧客の獲得が難しいが、他地域での展開は伸びしろが見込める。同店の収益を支える事業としても成長が期待できそうだ。

(都築いづみ)