2024年11月15日

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【関東主要百貨店<食品>パネルディスカッション】アフターコロナを飛躍への足掛かりに

百貨店やその取引先の幹部を中心に、約40人が参加した

ストアーズ社は10月24日、「関東主要百貨店<食品>パネルディスカッション」をリーガロイヤルホテル東京で開催した。大丸東京店、髙島屋横浜店、松屋銀座店の食品の責任者を招き、「アフターコロナを飛躍への足掛かりに」をテーマに、約4年ぶりに“平常”を取り戻した人々が外出を楽しみ、“デパ地下”も賑わいを増す中、今後の飛躍につなげるための戦略を語っていただいた。

パネリストは、前半で「2023年度上期の施策と成果」について、後半で「2023年度下期の施策と展望」と「求められる“次代のデパ地下”とは」について、それぞれ言及。立地や顧客特性、競合相手などを踏まえた上で、どう独自性を磨き上げていくか――を前提に、具体的なトライ&エラー、手にした収穫、今後の改装などが披露された。

■パネリスト■

大丸東京店 営業3部部長 冨士川直樹 氏

高島屋横浜店 販売第4部(食料品・食堂)部長 今井裕美 氏

松屋銀座店 食品部部長 柏木雄一 氏


〇一巡目:「2023年度上期の施策と成果」

店舗の催事との連動企画が奏功

大丸東京店 営業3部部長 冨士川直樹 氏

冨士川部長は、冒頭で関西のイメージが強い「大丸」の東京都での変遷を説明。大丸東京店の開業や移転・増床、食品売場の改装などの歴史もひもときながら、2023年度(23年3月~24年2月)の上期の業績および①客単価②出張者、旅行者、インバウンドの増加③販促④応援消費⑤改装――という5つのキーワードに言及した。

①は2桁増で、食品売場と管轄を同じくするレストラン街の料理と酒類の見直しが奏功。②は客の居住地が多様化し、ラグジュアリーブランドと食品売場やレストラン街の買い回りが増えているという。③は店舗の催事「AKB48 大衣装展~オサレカンパニーの世界~」と連動し、AKB48のメンバーのステッカーが入った弁当を販売。SNSで拡散され、集客力に弾みが付いた。④は福島県の“訳あり”の桃を7月14日から3週間、金・土・日曜日に販売。連日800個が完売した。⑤はベーカリーや菓子など一部のショップを入れ替え、売上げが倍増したゾーンがあるという。

地元商材の拡充で「横浜人」誘引

高島屋横浜店 販売第4部(食料品・食堂)部長 今井裕美 氏

今井部長は、まず高島屋横浜店の主に3カ所からなる食品売場の概要と特長、客層について語った。客層は「横浜人」と表現。横浜に対する愛が強く、「自分のブランド」を抱えており、他の地域で売れ行きが良いブランドを持ち込んでも容易に買ってくれないという。

23年度上期の戦略は、アフターコロナにおける客の行動パターンを分析し、地元商材の取り扱いを強化。自主編集売場では地元のブランドの開拓や開発に注力し、インターネット通販サイトでは地元商材の掲載を増やした結果、ネット通販では横浜や神奈川のブランドの売上げが大きく伸びた。地元商材以外では、子供の日や母の日、彼岸といった歳時記でのケーキや「朝生」が好調。コロナ禍前の19年を上回った。コロナ禍で増床した売場の検証や課題抽出も上期に着手。生菓子や小分けなどの必要性が浮き彫りになり、ショップの入れ替えを検討中だ。

一方、コロナ禍では客の行動範囲だけでなく、店頭の販売スキルやマネジメントがシュリンクし、それが上期の大きな課題だったと指摘。客足が戻ってきただけに、危機感を露わにした。

接点の増強と生鮮の改装に成果

松屋銀座店 食品部部長 柏木雄一 氏

柏木部長は、大都市の大型百貨店に比べて食品の売上げ構成比が低い現状を明かし、存在感を示したいと意欲を燃やした。もっとも、売上げは好調。上期は特に鮮魚、昨年8月末に専用の自主編集売場を構えて話題を集めた冷凍食品、ワイン、ビアガーデンなどがけん引した。松屋銀座店の強みであるインバウンドについても触れ、店舗としては大きく伸ばし、客の多国籍化も進んだが、食品売場におけるシェアは1桁の前半という。

23年度上期の戦略は、新客の獲得と既存顧客の来店促進が骨子。①顧客接点の増強②アフターコロナのニーズの取り込み③リアル店舗の価値、魅力向上――に取り組んだ。①はフードデリバリーのプラットフォームを増やし、その売上げが高伸長。②は「コンテンツ催事」と呼ぶ漫画やアニメなどの催事と連動したレストラン街でのコラボレーションカフェが“凄い売上げ”を記録した。以前の「ウェルビーイング」から「ミートパワー」(=肉、人と会うのダブルミーニング)にコンセプトとメニューを刷新したビアガーデンも200人以上の団体の予約が入るなど、売上げが大きく伸びた。③はベーカリーや菓子などを拡充し、好結果を収めた。

課題は生鮮三品で、上期中にリニューアル。精肉と鮮魚はショップを入れ替え、青果は新装し、上々のスタートを切った。

熱視線を浴びる冷凍食品売場についても言及。「おいしくて再現性が高い」を重視して商品を仕入れ、すでにラインナップは100を超えた。冷凍食品はロスが少なく、生産者、加工業者、松屋、客の「四方良し」となっているとも強調した。


〇二巡目:「2023年度下期の施策と展望」と「求められる“次代のデパ地下”とは」

「五感で感じるワクワク感」追求

大丸東京店 営業3部部長 冨士川直樹 氏

冨士川部長は、下期の業績が上期に比べて改善傾向にあり、下期の戦略として①旅行者、出張者、インバウンド対策②集客につなげる情報発信③売場のスクラップ&ビルド④安心・安全の対応――の4つを挙げた。

①は中でもインバウンドに照準を合わせる。訪日外国人が観光に行く前と行った後の「せっかく消費」を狙い、レストラン街などで1万円や1万5000円のハイクオリティなメニューを用意するほか、来年2月の中国の春節に合わせてSEO対策やデジタルサイネージの活用などを講じる。②はSNSを重視。オケージョンを中心に、高級感や稀少性、サステナブル、人気ランキングなどを切り口に商品の情報を積極的に発信し、客とのタッチポイントを増やす。

③は周辺の再開発に伴いオフィスやホテル、劇場、コンベンションセンターなどが充実していくため、それらに集う人々のニーズに合うよう、売場をアジャストしていく。④はHACCPに準じているが、ショップは自社と大丸松坂屋百貨店からのダブルチェックを求められており、販売員らの負担が大きい。百貨店業界として人手不足も深刻化しており、業務の取捨選択を進めて販売員らの疲弊を抑制する。

パネルディスカッションのテーマの1つである“次代のデパ地下”については、「五感で感じるワクワク感」がキーワードとみる。「パパブブレ」は子供や訪日外国人がかぶり付くように見て、時には歓声が上がるほどで、リアル店舗の強さであり、子供にとっては大人になっても残る思い出だと判断。商品から環境、サービスまで、五感で感じるワクワク感を提供していく。とりわけ、匂いや音、動きが大事という。これらは人がいなければ成り立たないため、BOPISや商品発注のAI化、タブレット端末などを使った多言語対応といった省力化、接客に専念できる体制の構築も不可欠と指摘した。

編集力、タイパ、持続可能に磨き

高島屋横浜店 販売第4部(食料品・食堂)部長 今井裕美 氏

今井部長は、下期の戦略で①歳暮商戦②初商③「フーディーズポート2」と呼ぶゾーンの見直し④地域との協業強化――の4つを掲げた。①は中元商戦で外商顧客の受注をお得意様サロンからギフトセンターに移した結果、利便性が向上して売上げが伸びたという成功事例を紹介。初商はコロナ禍では予約販売のみだった福袋を店頭でも再開し、売上げの大幅な伸長につなげる。

③はブランドの入れ替えでなく、高島屋横浜店が基本的なしつらえや什器の調達などを担い、初期費用を抑えて期間限定で出店できる場所を設け、地元のニッチなブランド、新興のブランドなどを誘致する。④では、新たに横浜市のふるさと納税に参画。店舗とネット通販の両方で訴求する。近隣のホテルとの協業も検討中だ。アフターコロナで会議が増え、ホテルのレストランでは供給し切れない現状があり、同店が弁当などを送る。

“次代のデパ地下”については①編集力による新たな価値②タイパ(タイムパフォーマンス)を意識した売場への再構築③持続可能――の3つを示した。①は百貨店の強みを「流行や文化を感じる、新しい発見の場」と定義し、その拠点として自主編集売場をブラッシュアップする。具体的な手法として、成熟したマーケットに対応できる人材の育成を挙げた。②は店内の買い回りの最後がデパ地下であり、時間の満足度を上げなければならないと強調。例えばフーディーズポート2では午前中が弁当、昼が菓子、夕方が冷凍食品と売れ筋が時間帯によって変化する。そうした客の行動変化に対応する。一方で、改装ではイートインやレストスペースを削減したが、物産展でレストスペースを設けた際に買上げ点数が増えたため、その必要性を再考する。

③は「持続可能な販売体制と地球環境への配慮」を指す。目下、廃棄量の把握と管理に多くの労力を費やしており、効率化が欠かせない。そこで冷凍食品の活用を本格化する。一般的に惣菜売場で閉店前の売り切れを防ぐのは難しいが、冷凍食品も取り扱えば、ロスを削減しつつ品切れを防げる。他のカテゴリーも含めて冷凍、冷蔵、常温のミックス化を進める。持続可能な販売体制の実現に向け、百貨店がプラットフォームを担うデジタルトランスフォーメーションも必要と指摘した。

「地産銀消」と「共創」にアクセル

松屋銀座店 食品部部長 柏木雄一 氏

柏木部長は、上期をベースにヒト・モノ・環境を整えるとともに「ブランド戦略」を推し進める。ブランド戦略とは「誰もが知っていて、誰でも買えるわけではないブランドの充実化」を意味する。新客を呼び込むためには、ブランドの力が大きいからだ。12月15日に「ザ・ペニンシュラ ブティック&カフェ」をオープンしたが、次世代顧客を獲得する上で重要な洋菓子のショップも導入する。

顧客満足度の向上も追求し、イートインやジュースバーなども強化。20席のイートインを擁するザ・ペニンシュラ ブティック&カフェの誘致は、その一環だ。客が一息入れられる場所を増やし、買い回りの促進、ひいては買上げ点数の増加を狙う。店内の美装化、顧客目線に基づく案内看板の変更なども行い、新客が再来店したくなる環境を整備する。

ESも重視。研修や資格取得の支援など社内の教育制度を充実させるほか、銀座店の営業時間を短縮(9月1日に開店時間を午前10時から同11時に変更)するといった、松屋の改革の現状を明かした。営業時間が短縮されて以降も売上げは伸びているという。

新しい収益モデルにもチャレンジしており、冷凍食品の卸売をスタートさせたという。外部に倉庫を借り、商品の開発や取り扱い店舗の拡大に傾注するなど本気だ。

“次代のデパ地下”については「地産銀消」というキーワードを提示した。コロナ禍を経て「ローカル」や「多様性」といった言葉が注目されており、松屋銀座店でもバレンタインデーの催事で「日本再発見」が好調だったという。その上で「共感」が今後のスタンダードになると分析。食材などを再発見し、生産者やシェフらとコミュニティをつくり、同店から情報を発信していく「共創」に乗り出す。次世代のための仕事でもあるという。成功体験は、すでに存在する。06年に発足した都市型養蜂「銀座ミツバチプロジェクト」に参画し、その蜂蜜や蜂蜜を使った菓子などを販売してきたが、手土産需要で売上げを伸ばしている。冷凍食品でも銀座の名店と組んで「銀ぶらグルメ」を手掛けるが、こうした共創を増やしていく方針だ。

(司会:野間智朗)