三陽商会「キャストコロン」が急成長 徹底的な“働く女性”目線に秘訣
今春夏には撥水機能に加え、UV対策機能や透湿性も持つ「雨の日シリーズ」を展開する
三陽商会のウィメンズブランド「キャストコロン」が躍進を遂げている。2024年度(24年3月~25年2月)の売上高は、既存店の前年比で15%伸長。暑さのせいで全社的に苦戦した秋も売上げが伸び続けた。スタイリング提案やアウターのバリエーションを強化したことで、セット率や客単価が上昇し、実需に合わせたMDカレンダーも追い風となった。今春には同社分類の「チャレンジ領域」から「基幹事業」の1つへと昇格し、さらなる成長を目指す構えだ。
キャストコロンは19年にスタートしたブランドで、コンセプトは「働く女性のモードな実用服」。メインターゲットは30~40代の女性、価格は2万円~3万円台が中心となる。通勤とプライベートの両方で着用できる、日常に取り入れやすいデザイン性が特徴。機能性にもこだわり、防シワ、ウォッシャブル、撥水、接触冷感、UV対策などの機能を多くのアイテムが備えている。
ブランドディレクターの是永亜美氏
コーディネート提案やアウター拡充で、単価とセット率が向上
これまでは単品での企画が多かったが、昨年はボトムを中心としたコーディネート提案を充実させた。同ブランドはビジネスシーンで使いやすいパンツスタイルを基軸としており、パンツに合わせるトップスやアウターのスタイリングを用意。中でもアウターのバリエーションを拡大した。秋は近年気温が高くなっているため、軽く羽織れるカーディガンからブルゾン、ジャケットなどの種類を増やし、端境期への対応を強めた。
事業統轄本部事業本部エポカ・キャストビジネス部キャストコロン企画課長兼ディレクターの是永亜美氏は、「これまでのトップス&ボトムにプラスして、羽織りものも提案するというサイクルができた」と説明する。これによってセット率や客単価が上昇し、セット率は約1.5前後だったのが約1.8にまで上がった。
もう1つ、好調の要因として、実需をベースにしたMDカレンダーがある。同ブランドはフリー客の割合が高く、売上げシェアは約7割に上る。フリー客は基本的に今着られるものを求めるため、そうした商品展開を行っていた。最近の消費者は実需買いの傾向が強く、特に異常気象の多いここ数年はその傾向が顕著になっているため、消費動向とうまく一致した形だ。
セットアップで使えるアイテムも増やしている(写真は今春夏の「シアージレ」(2万6400円)と「シアーパンツ」(2万9700円)のセットアップ)
ベーシックの中にあるデザイン性、機能性で競合と差別化
とはいえ、フリー客が購入に至るには商品の魅力が欠かせない。特にキャストコロンの店舗は半数が百貨店に入っており、同じフロアに入る他社のキャリア向けブランドと明確に異なる特徴を打ち出す必要がある。そこで決め手となるのが、ベーシックさとデザイン性の両立だ。是永氏は「意識しているのは、『どんな人でも着られるベーシックなデザインの中に、ほんの少しエッジを効かせる』ことや『他とは違う目を引くデザインであっても、自分の手持ちのアイテムにもコーディネートしやすい』こと」と語る。
実際、ベストセラーの「バックボタンブラウス」(2万2000円)は正面から見るとオーソドックスなブラウスだが、背面にボタンディティールがあり、さりげなくモードなテイストも感じられる。こうした絶妙なバランスが支持され、ポップアップなどでは年齢を問わず幅広いフリー客が購入しているという。
加えて、機能性の高さもポイントだ。ウォッシャブル、軽量、ストレッチ性、防シワ、撥水など、着用時の快適さと手入れの簡易さにつながる機能が多数盛り込まれており、仕事や家事、育児などで日々忙しい女性から愛用されている。「フリーで買ったお客様で、お手入れの楽さも含めて気に入って下さり、リピーターになった方もいる」(是永氏)。
“働く女性目線”を徹底できるのは、ディレクターの是永氏が三陽商会のプロパー社員であることも一因かもしれない。同社ではブランドの立ち上げ時に外部のディレクターを起用することも多いが、キャストコロンは是永氏が19年から一貫して務めている。「クリエイティブな面は信頼できるデザイナーと密に連携しながら、私自身がお客様と同じ視点に立って、服に求められる機能性や実用性を重視してつくり上げている」という。
今夏は雨でも着られる撥水ウエアや、セットアップを強化
袖にストラップが付き、ロールアップにもできる「雨の日ロールアップスリーブブラウス」(2万2000円)
今シーズンは、「雨の日でもおしゃれを楽しみたい」をコンセプトにした「雨の日シリーズ」を4月に発売した。軽量で伸縮性と透湿性に優れたポリエステル100%を素材に使用し、撥水機能とUV対策機能も付加している。23年から展開している「雨の日美脚パンツ」(1万9800円)に加え、新たに「雨の日ロールアップスリーブブラウス」(2万2000円)、「雨の日ジャンスカワンピース」(2万9700円)を用意した。
中でもロールアップスリーブブラウスは、その名の通り袖を捲って8分袖で着たり、羽織りものとして着たりもできる優れモノだ。発売から早速人気を博し、5月の売上げ上位となっている。6月以降は、夏は単価が落ちやすいことからブラウスセットアップの種類を増やし、これまで手薄だった7月後半~8月の品揃えも厚くする。
高島屋横浜店のポップアップの様子
長期的には、認知度の拡大にも力を入れたい考えだ。「良い商品を適正価格で販売しているという自負はあるので、それを様々な方に知っていただきたい」(是永氏)。まずは5月28日から6月10日までの2週間、高島屋横浜店でポップアップストアをオープン。初日には店舗からインスタライブを行うなど新規客獲得に取り組む。今後はSNSの強化など、発信ツールを増やすことも検討している。
(都築いづみ)