2024年12月04日

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百貨店20年春 改装の焦点 独自の価値創出カギ

「コロナショック」による影響が懸念される中、百貨店業界では「従来型百貨店」からの脱却を目指した改装が粛々と進んでいる。今春は、伊勢丹新宿店と日本橋三越本店の第2期リモデル、阪急うめだ本店の中層階など、大都市の基幹店の改装が相次いでいる。強化領域はラグジュアリー(特選・時計・宝飾)とビューティー(美)で、加えてフード(食・飲食)の拡充や雑貨(生活・服飾)の再編も目立つ。いわば百貨店の「強み」を発揮できる領域だ。一方で専門店導入による「ハイブリッド型」の新しい百貨店モデルの構築に向けた店舗構造改革も相次ぐ。特に地方都市・郊外立地百貨店の改革で主流と化している。各店各様の立地環境の変化に応じて、独自の「リアル百貨店」ならではの価値を創出し、これを対象顧客に的確に提供できるかが問われている。

 

 

 美と特選の拡大に拍車 専門店との融合に活路

△百貨店 2020年春の主な改装

三越伊勢丹が昨春から段階的に進めてきた伊勢丹新宿店と日本橋三越本店の本館を対象にした第2期リモデルが3月に完成する。伊勢丹新宿店のリモデルコンセプトは「毎日が、あたらしい。ファッションの伊勢丹」で、同店のブランドメッセージでもある。これを進化させて新しい価値の創出と差別化を行うことで、心の豊かさを創造できる店づくりを目指している。このためにリアル店舗の強みとデジタルサービスを融合させて、顧客一人ひとりとのよりパーソナルな関係が構築できる販売サービスの改革にも取り組んでいる。

日本橋三越本店のリモデルコンセプトは「世界最高のおもてなし百貨店」で、「モノ」を中心とした従来型の百貨店から「ヒト」によるおもてなしを中心とした新時代の百貨店づくりに挑戦している。もう少し具体的に言うと、デジタル技術を活用した「新しいおもてなし」の仕組みを導入して顧客一人ひとりに寄り添うためのおもてなしの技を磨き、これに商品、環境、サービスを掛け合わせた、同店ならでは百貨店づくりを目指している。

両店共にデジタル技術を活用しながら、各々の「強み」を磨き上げている。第2期リモデルの主な対象領域は、伊勢丹新宿店がアートギャラリー、リビング、時計、宝飾、婦人靴、化粧品、婦人服(2階)、三越本店が屋上、紳士服、時計、宝飾、美術だ。三越本店は第1期で化粧品や特選を強化し、パーソナルショッピングデスクを新設した。共通の強化領域は「ラグジュアリー(特選・高額品)」と「ビューティー」だ。

 

阪急うめだ本店は、5階から7階を対象に、1月より段階的改装を進めている。強化領域はインターナショナルブティックス(宝飾、時計)、化粧品、大人の女性向けの婦人服で、都市型百貨店が強化すべきカテゴリーだ。このうち宝飾、時計、化粧品(プレミアムスキンケア)売場は移設・大幅増床改装する。「憧れアッパーマーケット」の取り込みを強化していくため、富裕層をターゲットに「希少性、限定性、こだわり」を切り口に品揃えとサービスを充実させる。「デスティネーションストア」の魅力を際立たせ、より広域からの集客を狙っている。商圏の広域化と深耕化に向け、同店の強みをさらに磨き上げていく改装だ。

 

東急百貨店が「食事業」強化の一環として渋谷で進めている「東横のれん街」と「東急フードショー」の改装も注目される。3月末で閉店する東横店の「東横のれん街」を渋谷ヒカリエShinQsの地下2・3階に移設・拡大して4月に新生「東横のれん街」を構築。次いで7月に、この旧東横のれん街跡を活用して東横店の「東急フードショー」を増床・改装する。百貨店の強みである「デパ地下」を進化させるための移設・増床・改装だ。

 

一方、地方・郊外百貨店では、昨年に続き今春も専門店の導入によるハイブリッド型百貨店への店舗構造改革が相次ぐ。近鉄百貨店草津店、大丸下関店の全館規模の改装は、地方・郊外店改革を象徴する。

 

両店の新しい百貨店づくりに共通するキーワードは「ハイブリッド」と「地域共創」だ。地域共創とは、地域活性化に貢献できる売場の開設や情報発信活動などによって、地域共に成長する百貨店づくりだ。これを象徴するのが共に導入した東急ハンズの新業態「プラグスマーケット」。同社と百貨店が協業して、東急ハンズの都市型MD、各地域独自のモノ・コト集積、生活サービス型専門店を融合させた、いわば「ハイブリッド編集」ゾーンだ。

 

こうしたハイブリッド型の構築や百貨店が強みとする領域の拡充は、各店各様の地域・立地特性に応じた独自の価値創出を目指した改装に他ならない。これが、わざわざ足を運びたくなる「リアル百貨店」の存在価値の向上につながる。