2021年10月21日

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百貨店 構造改善の潮流と進度 最終回

Photo by ROBIN WORRALL on Unsplash

百貨店業界では、構造改善が急ピッチで進む。2019年における最大の潮流は、都心、郊外、地方を問わず加速する専門店との融合で、3月5日にグランドオープンした日本橋髙島屋S.C.、9月20日に新装開業した大丸心斎橋店の本館は、その象徴だ。食料品や化粧品など百貨店が優位性を発揮できるカテゴリーの拡充、デジタルの本格的な活用も目立った。特に食料品は売場の新装が相次ぎ、増加する共働き世帯や単身世帯の中食需要や時短需要に対応する。デジタルの活用はインターネット通販の強化に限らず、新たな情報発信拠点の構築、カードの〝アプリ化〟、「RPA」まで多様化しつつある。百貨店が強みとする接客を磨き上げるだけでなく、小売業で人手不足が深刻化する中、それを維持ための「働き方改革」にも、各社は力を注ぐ。2019年の潮流から、20年を占う。

 

 

百貨店の強み融合 

令和元年は、販促のデジタル化も新たなステージに突入した。従来のカードの代替となるアプリの発行が活発化。消費者の志向や行動を踏まえ、接点の増加に繋げる。百貨店の強みに特化したインターネット通販サイトの開設、ウェブサイトやSNSなどへの情報発信拠点の構築にも意欲的だ。情報発信では、化粧品や食料品など百貨店と親和性の高いカテゴリーで効果が表れてきた。ネット通販サイトで商品を見ながら担当者と会話、質問して購入できる「ライブコマース」を推進する三越伊勢丹では、歳暮ギフトで過去最高の視聴者数と売上げを記録。ネット通販と接客の融合にも伸び代がある。販促のデジタル化にも“百貨店ならでは”の追究は欠かせない。

 

 ライブで質問に回答 「地方」のEC ストライプ社と提携

 デジタル販促 加速 SNSは写真から動画へ

 

2019年は、三越伊勢丹や大丸松坂屋百貨店、近鉄百貨店、阪急阪神百貨店らがアプリを次々に配信した。新客や既存顧客との接点を増やすとともに、関係性を強めるためだ。アプリは従来のカードよりも利便性が高く、今や50代や60代もスマートフォンを使いこなす。カードには財布などに入れると嵩張る欠点もあり、多くの小売業者はアプリに移行。百貨店業界も追従する。

 

各社のアプリは既存のカードと連携し、店舗などの最新の情報に加え、クーポンや独自の特典を提供。3月に配信が始まった「三越伊勢丹アプリ」はイベントやサービスの予約が可能で、5月にデビューした「大丸・松坂屋アプリ」はランクアップの制度を採用し、階級に応じて駐車場の利用が無料などのサービスを得られる。9月に登場した「近鉄百貨店アプリ」は「Kマイル機能」を搭載。ログインや特定のトピックスの閲覧でKマイルが貯まり、30に到達すると店舗やインターネット通販で使えるクーポンを貰える。

 

12月に誕生した「阪急メンズ東京アプリ」は「ショップスナップ」が特徴的だ。140のショップが、画像と短文で最新の商品やコーディネートを投稿する。写真共有アプリ「インスタグラム」に近く、視覚に訴えて衝動買いを促す。インスタグラムで検索し、直感的に商品を選んで購入する若年層は多い。消費者の新しい購買行動を捉えた、効果測定に耳目が集まるトライだ。

 

ICTの進展に伴い、消費者の購買行動は目まぐるしく変化する。それに馴染むビジネスモデルの積み上げが百貨店には求められていく。例えば、ネット通販と対面販売の融合だ。三越伊勢丹が17年度から取り組む「ライブコマース」は、そのポテンシャルを示す。

 

ライブコマースは、ライブ配信で担当者が商品の背景やこだわりを伝え、視聴者からの質問に答える。小島愛理香MD統括部ライブコマース担当が、経緯と意図を説明する。「ネット通販に掲載する静止画には紙媒体と同様の情報量しか盛り込めず、バイヤーや作り手のこだわり、背景などが十分に伝えられない。ライブコマースであれば、お客様とコミュニケーションを重ねながら、商品の魅力を伝えられる」。

 

衣料品や化粧品、食料品など様々なカテゴリーで試行錯誤してきたが、19年の歳暮商戦で過去最高の視聴者数と売上げを記録。「国立博物館×三越伊勢丹コラボレーションギフト LIVE」と題し、同社と国立博物館が協業したギフトを、担当者がインフルエンサーのカツセマサヒコ氏をゲストに招き、ネット通販サイトを使ってリアルタイムでPRした。配信の終了後には、店舗が近くにない視聴者から問い合わせと注文があったという。ライブコマースの恩恵だ。結果的に、店頭の歳暮ギフトの売上げも伸びた。

 

 

強みを生かす―。その方向性は、ネット通販でも顕著だ。三越伊勢丹は、2月に化粧品に特化したネット通販「ミーコ」を、3月にはネット通販限定のSPA型婦人ファッションブランド「アーム イン アーム」を、10月にネット上で紳士シャツのオーダーが可能な「ハイ・テーラー」を、それぞれ開始した。

 

一方で、弱いカテゴリーを“移管”する百貨店も現れた。大和とトキハは、ストライプデパートメントと提携。ストライプデパートメントが百貨店向けに開発したプラットフォーム「ダース」を利用し、9月12日に衣料品や雑貨などを扱うネット通販を開いた。主にF2層(35歳~49歳)向けの衣料品や雑貨などを揃える「ストライプデパートメント」に相乗りする形だ。トップページには百貨店の名称を掲載するが、約1000ブランドからなる商品の入れ替え、いわゆる「ささげ業務」、配送といった運営はストライプデパートメントが担う。

 

百貨店は自社のネット通販などから顧客を誘導する一方、実店舗に1カ月に2回の頻度でポップアップショップを開設。サンプルを並べ、試せるようにして、ネット通販でネックとなる着心地やサイズ感などへの不安を拭う。ストライプデパートメントは、売上げの3%を手数料として、さらに新規会員を1人獲得するごとに500円を百貨店に払う。百貨店には、イニシャルコストや運営コストもかからない。特に地方百貨店は、資金や人員などの問題でネット通販の運用が難しい。ストライプデパートメントによれば、20年春のスタートを視野に約20の百貨店と交渉中で、まさに新たな潮流の兆しだ。

 

ICTは日進月歩で、販促に役立つデジタルメディアも“世代交代”していく。百貨店業界では、ようやくインスタグラムの活用が本格化してきたが、すでにSNSは写真から動画にメインステージを移しつつある。ティックトックだ。15秒~1分間の動画を作成および投稿できるプラットフォームで、中国のバイトダンス社が運営する。日本では17年8月に配信され、文字や音楽を付けられる、顔や肌を加工できるなどのエンターテインメント性が、女子高生をはじめとする10代の支持を獲得。販促に用いる企業も枚挙に暇がない。百貨店業界では髙島屋が19年9月、中国版にアカウントを開設。同10月末時点でフォロワーは約20万4000、動画の累計再生回数は約1700万に到達した。

 

ティックトック以上の速度で浸透するデジタルメディアが20年に誕生しても不思議ではない。春には次世代ネットワークサービス「5G」も始まる。百貨店業界は新興のデジタルメディアの活用に慎重だが、廃れてからでは人も金もムダになる。“炎上”を避けるための“手綱”は要るが、デジタルに強い人財に権限を与え、柔軟かつスピーディーに流行を採り入れ、新客の開拓を目指すべきだ。