2025年12月26日

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ブラックフライデーは定着した?百貨店各社の取り組み

2014年に日本に導入され、10年以上を経た今、ブラックフライデーの認知度はほぼ100%に近い

認知度は95.5%、市場規模は約2500億円との見込みも出ているブラックフライデーは、百貨店業界でも各社が取り組み、手応えをつかんでいる。日本に導入された当初は「年末需要の先食い」とも言われたが、小売業だけでなく旅行業など様々な業界が参入し、多種多様なアプローチで展開している。高額商品よりも日用品や食品の消費を喚起する施策として進められていることが多い日本で、“百貨店のブラックフライデー”の現状はどのような様相を呈しているのか。アンケート取材から報告する。

物価高や円安で高まる節約志向に照準を合わせるそごう・西武

そごう・西武は、物価高や円安が長期化の様相を呈し、節約傾向にある消費者ニーズに応える形で、2024年から全店とECサイト「e.デパート」で開始している。今年、店舗では昨年同様、デパ地下の生鮮品や日替わりの惣菜、特別買い得品などが好評で、全店計で目標比5%増を達成した。

「有名店の弁当を1080円均一で提供したことや良質な肉の特価提供などが売上げにつながった。衣料品については早くから寒さが厳しくなり、11月前半から下見に訪れていたお客様も含めて来店促進につながったと感じる」と担当者は分析する。

ほかにも好評だったのは、洋菓子のお楽しみ袋や鍋商材、寿司などの食品。タオルや寝具も好調で、「節約志向が高まる一方、本当に欲しいもの、良いものは惜しまず購入する傾向があった」という。

「西武・そごうのブラックフライデー プレミアム」は11月21~30日まで、百貨店ならではの商品を最大限お得に提供するために、会員限定の優待会とプラスポイントフェアも同時に実施した。さらにプレミアムなプログラムとしてプレゼントやマグロの解体市体験など、取引先各社とともに用意した。「今年の結果とお客様の声をもとに、早くから検討していく」(同)と来年に向けて準備を進める予定だ。

東急、マグロ解体ショーなどイベントも豊富に

東急百貨店は「TOKYU DEPERTMENT STORE BLACK FRIDAY」と銘打ち、11月27日~12月3日まで、渋谷ヒカリエ ShinQsや吉祥寺店、たまプラーザ店、札幌店、日吉東急アベニューなどで開催した。ブラックフライデーへの関心の高まりに合わせ、23年から実施している。年度後半の売上げと新規顧客獲得が主な狙いだ。

昨年に引き続き、買い得品の提供と併せ、1000円割引クーポン企画も行っており、クーポンはセール開始2週間前の11月13日から配布した。対象店舗で5000円以上買うと1枚(最大2枚)利用できるという割引率の高さから、前年を上回る利用を実現した。「お客様からの期待、当社のブラックフライデー企画の認知度の高まりを実感している」と事業推進室事業戦略部営業企画担当の江口由佳氏は語る。

生鮮食品やワイン、菓子など幅広く買い得商品を揃え、マグロ解体ショーやフルーツの詰め合わせイベントも実施。「お買い得さだけでなく、楽しみながら買い物できる時間の提供も魅力になっているのでは」(同)。来年も実施を予定している。

アメリカでは11月の第4木曜の感謝祭翌日の金曜日に行われるが、日本では11月23日の勤労感謝の日前後から行われることが多い

既存のセールをブラックフライデーとし、実施しているあべのハルカス近鉄本店

 あべのハルカス近鉄本店は19年頃から、この時期のセールのタイトルを「きんてつのブラックフライデー」と改め、毎年開催してきた。今年は11月19~28日まで実施した。売上高は目標比104%を達成し、客単価も上昇した。「お客様の購買意欲向上に貢献している」と担当者は実感している。

勝因となったのは、服飾雑貨や家庭用品、食品に重点をおいた施策だ。気温低下に伴い防寒商材が好調で、強化した服飾雑貨、特に金製品などのアクセサリーが伸長した。文化サロン教室と連携した体験レッスンや特別割引など学びのメニューも導入し、独自性を打ち出している。

EC利用率の高まりを受け、高島屋ECは他社に先駆けてスタート

高島屋は22年、コロナ禍でEC化率が高まったことに着目し、ECサイト「高島屋オンラインストア」で全国の顧客に向けたサービスとして始めた。「ブラックフライデー」が世間に浸透しつつあったが、大規模に開催している他社ECサイトがまだなく、先駆けて開催に踏み切った。

今年で4回目を迎えており、他社との差別化を図るため、価格訴求だけでなく、百貨店ならではのお得感が実感できる商品を揃えた。贅沢なグルメ食料品やブランド家電、貴金属、ランドセル、呉服、レストラン、サロンのチケットなど、品質にこだわった商品を買い得な価格で販売した。

開催日程は11月19~29日で、タカシマヤアプリ会員には17日から先行販売を初開催した。前年以上の利用があり、前年比40%増で売上げ目標も達成した。新規顧客も増加している。

好評だった商品は、今年の令和7年とかけ、税込みで7777円均一、77777円均一など「ラッキーセブン価格の大特価商品」や年末年始需要の肉や海産物の「贅沢グルメ」、まとめ買い用の「ストック食料品」といった手頃感のあるもの。「ボイルズワイガニ爪肉むき身」(1kg、7344円)や「北海道産ボイルタラバガニ半むき身」(500g×2パック、1万800円)、「北海道産ホタテ貝柱」(3780円)も人気上位を占める。

EC事業部販売部コンテンツグループグループマネジャーの堀田達哉氏は「前年以上にお得感、特別感のある買い物を楽しみたいニーズやクーポンなどのサービスの使い方が上手い顧客が多いと感じた」と話す。

リアル店舗では、23年から高島屋横浜店で展開を始めており、今年は物価高の影響か食品に人気が集まり、お茶や靴下の詰め放題などは開店と同時に行列ができるほどだったという。EC、実店舗ともに、年に一度のビッグセールとして、今後も顧客ニーズは高そうだ。

ポイントアップやクーポンなどの施策も重要な呼び水になっている

地方百貨店は需要喚起、開店記念祭と連動など多彩な仕掛け

水戸京成百貨店は、物価が高騰する昨今において、消費を促し、購買意欲を高める施策として、11月18~30日に「ブラックフライデーセール」を初開催した。チラシやSNS告知も行い、初めてということもあってか、反響は良好だった。期間中の来店客数は前年比で111.7%、売上高は同112.5%となった。

均一価格や詰め放題、ハッピーパックなどの限定企画を用意し、対象商品は20~70%割引で販売した。大抽選会や国産ウィスキー購入権の抽選会といったイベントも行った。和洋菓子のハッピーパック、精肉や惣菜、コーヒー豆の増量サービス、クッキーの詰め放題、特価の家庭用品、ハンドバッグや財布のアウトレットセールなどが人気を集めた。

「スーパーやSCのイメージが強いためか、限定品、激安品の需要が強いように感じた」と経営統括室経営企画担当課長の圷喜久雄氏は言う。来年も実施する予定で検討しているところだ。

高松三越は、三越伊勢丹グループの方針として22年から開催している。「顧客の関心がある行事」と位置付けており、今年は11月26~30日まで実施。ショップカードのポイントアップも奏功し、食品フロアを中心に前年より好調に推移した。

洋菓子セット、生鮮お買い得価格、特価アパレル品、大特価宝飾品が好評だった。「よりお得感のあるセット品が好まれる傾向が強まった」というのが、営業統括CRM担当の玉井遼平氏の感想だ。

アプリでの発信を行ったこともあり、普段は食品フロアにしか立ち寄らない顧客が婦人服売り場を訪れるような回遊性のきっかけづくりに貢献したという。来年も開催予定だ。

11月28日が開店記念日の東武宇都宮百貨店は、開店記念祭の施策の1つとして18年に開始し、8回目となる今年は11月27日~12月3日に「ブラックフライデーSALE」を行っている。昨年は開店65周年ということもあり、来店プレゼントや地元メディアの報道などによって大盛況となったことから、前年に比べ今年の入店者数は微減したものの、売上げは前年比111.2%と伸長している。

好評な理由としては、開店記念日の11月28日に開催しているため、東武カードをはじめとする東武グループならではの特典が同時に展開できること、トブポアプリポイントアップ、組織顧客カード割引の拡大、開店記念プレゼントなどサービスの充実度が挙げられる。

人気が集まったのは、精肉売場での対面量り売り29~30%割引やゴディバブラックフライデーハッピーバッグ、スワロフスキー15%割引、1100円婦人手袋、1万1000円婦人靴、3万8500円羽毛掛布団など、食品や生活必需品、衣料品だった。総務部総務課担当課長の水野佑美氏は、「消費の二極化の進行」を実感し、生活必需品はより低価格のものが好まれる傾向だったと言う。来年も開店記念日に合わせて開催を予定している。


アンケートの中には「スーパーやSCのイメージが強いためか、限定品、激安品の需要が強い」という回答が散見されたが、これは「百貨店ならではのブラックフライデー」を確立できる伸びしろとも捉えられる。なぜなら、節約志向は高まる反面、本当に欲しいもの、良いものは惜しまず購入する消費者は少なくない。百貨店ならではの良質な商品が買い得な価格で提供されることは、消費者の購買意欲を喚起する良い機会となりそうだ。

各社、売上目標を達成し、新規顧客も獲得している。各種詰合せなどのイベント、アプリやクーポンの活用、グループ会社の強みを生かすといった独自の魅力を打ち出せる施策が必ずあるはずであり、それらが実現していけば「百貨店のブラックフライデー」はますます盛り上がっていくに違いない。

(北野智子)