2026年01月19日

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高島屋玉川店、チャレンジで「心的躍動感」喚起し成長一途

ポップアップストアを誘致する際にも独自性を追求しており、昨年は二子玉川にアトリエを構える遠藤湖舟氏の写真を「バーンロムサイ」のビジュアルに使用した

高島屋玉川店が2025年度(25年3月~26年2月)に掲げたキーワードは「チャレンジ」だ。25年3月1日付で副店長から昇格した中村良樹店長の下、社員にチャレンジを促してきた。その具現化の1つが、高島屋の「TSUNAGU ACTION(ツナグアクション)」と連動しながら、玉川店ならではのエッセンスを注いで積極的に取り組んできたサステナブル活動の深化だ。25年7月5~6日には、自転車にフォーカスした「TAMAGAWA CYCLE FESTA」を初開催。同10月2~14日には多摩美術大学生が廃材を用いて制作したアートを展示し、同12月3~9日には廃棄予定のボウリングのピンをアートとして再生させる「ボウリングピン 再生アート展」を3年ぶりに開いた。いずれも従来の延長線ではなく、チャレンジを盛り込んだ。サステナブル活動以外ではポップアップストアなどでも新機軸を打ち出しており、高島屋玉川店は変化を恐れず、果敢に攻めて成長力を育む。

TAMAGAWA CYCLE FESTAは、イタリアのビンテージ自転車の祭典として知られる「エロイカ」を日本で手掛ける一般社団法人エロイカジャパンとの協業で開催。西館1階のアレーナホールを会場に、ビンテージ自転車を扱うショップ、自転車のフレームビルダー、電動アシスト自転車の販売店、グラフィックデザイナーの小林寛氏、茨城県スポーツ推進課、土浦市政策企画課などがブースを構えた。

高島屋では、かつて大阪店が自転車のショップを誘致したが、近年は欠落したカテゴリーとなっている。しかし、日本最大級のスポーツバイクの祭典「サイクルモード東京」を昨年見学した担当者が会場の熱気に驚くとともに、とりわけ賑わっていたエロイカジャパンのブースでビンテージ自転車を通じた「モノを大切にする姿勢」に共感。ツナグアクションの1つとして自転車にフォーカスしようと考え、イベントのプロデュースを依頼した。

玉川店に白羽の矢が立った理由を、エロイカジャパンの江口誠一理事長が説明する。「東京五輪を機に西東京では自転車が盛り上がっている。玉川店の近くにはサイクリングコースが多く、自転車を愛する“コア”な人々からファミリーまでが来やすい地域でもある。一方、自転車は(身近な移動手段として定着したがゆえに)低く見られがちだが、高島屋玉川店の周辺に住む人々はニュートラルに見てくれる」

内容も“高島屋玉川店らしさ”を追求して工夫を凝らした。親子や親子三世代での来店が多いため、単にビンテージ自転車にフォーカスするのではなく、衣料品やアートなどを交えて自転車を文化として紹介。幅広い人々が楽しめるようにした。会期を2日間と短くしたのは、個人店が多く1週間などの休業を求めるのは難しいからだ。

出展者は主にエロイカジャパンが選定したが、玉川店は新進気鋭のグラフィックデザイナー、小林氏にメインビジュアルの制作を依頼。初めてのイベントにオリジナルのメインビジュアルを用意するのは珍しいが、玉川店は本館1階の共有部分「グランパティオ」などを使ってアートを頻繁に展示しており、客の関心も強いため、その足を引き込めるようにした。メインビジュアルはポスターやフライヤー、サイネージ、スタッフ証などに採用。衆目に印象付けた。

新進気鋭のグラフィックデザイナー、小林寛氏のブース。小林氏の愛車も展示された

デザインした小林氏は「百貨店で自転車のイベントを開催するのは珍しく、良い意味でのカオスと楽しさ、高島屋の品格を、両方感じられるようなデザインを心掛けた。自転車は直線と円弧だけで描けるシンプルさが最大の魅力。ゆえに図形とカラーを選び抜いてデザインした。それでいて、いかに美しく、そして楽しくできるか。そこにこだわった」と想いを語った。小林氏は元々、自転車が好きで、自転車をモチーフにした作品も多い。まさに適材適所だった。

7月5日は多くの客が開店を待ち、玉川店にとっての新客にも多くリーチできたという。次回は未定だが、好評を受けて継続する方針だ。

10月2~14日には、多摩美術大学の博士課程に在籍する路平氏が廃材を用いて制作したアート「サーカス列車」をグランパティオに展示。複数のアートが列車のように連なって絵本を形成しており、押すと音やメッセージが聞こえるボタンも設けてある。カラフルで愛らしい絵と面白いギミックに、足を止めて楽しむ親子が多かった。

多摩美術大学の博士課程に在籍する路平氏(写真)が廃材を用いて制作した「サーカス列車」

絵本作家を目指しているという路平氏は「子供達に遊びながら作品を感じてもらいたい。ポイントは子供の共感。誰もが知る動物や野菜などを描きながら、自然の風景をサーカスで表現した。気に入っているのは、惑星をジャグリングする太陽。ストローで太陽の光を、缶などのふたで惑星を表現した」とコメント。玉川店から「(ツナグアクションで)学生か卒業生の作品を展示したい」と相談された多摩美術大学社会連携部社会連携課兼大学戦略室課長の黒田雄記氏は「廃材を使った作品で、個性がある」と路平氏を推薦した理由を述べた。

同店と多摩美術大学は特に19年以降、協業が加速している。同店は「美大生をはじめ、これからも若い才能を1人でも多くのお客様にインプットしてもらいたい」と強調する。産学連携で「二子玉川は近隣に美大がある街」としてPRし、同店と多摩美術大学のプレゼンスを高めていく。

12月3~9日には、本館4階の自主編集売場「CSケーススタディ」にアーティスティックなボウリングのピンが並んだ。ハマボールで使われ、廃棄予定のボウリングのピンを回収し、アーティスト集団「C-DEPOT(シーデポ)」の10人がアートとしてよみがえらせ、2万2000円で抽選販売した。クリスマスのプレゼントとしても最適で、実際に「当たったら贈りたい」という客の声が相次いだ。クリスマスに間に合うように配送する。

廃棄予定のボウリングピンを回収し、アーティスト集団「C-DEPOT(シーデポ)」の10人がアートとしてよみがえらせた

同店は22年にも廃棄予定のボウリングのピンをアートに再生して抽選販売したが、テーマを定めたのは初めて。同店は「前回と同じではつまらない。ひとひねりしてクリスマス仕様にした。クリスマスという統一感はありつつ、それぞれに個性があり、贈って喜ばれるのは間違いない」と自信を示した。

玉川店のチャレンジには①新規性②社会性③文化性――の3つの軸がある。イベントや展示に限らず、ポップアップストアを誘致する際にも反映されており、25年は二子玉川にアトリエを構える遠藤湖舟氏の写真を「バーンロムサイ」のポップアップストアのビジュアルに使ったり、ゴジラと伝統工芸を融合させた「ゴジラ日本伝統工芸」のポップアップストアを開いたりしてきた。同店の3~12月の売上げは、5月を除いて全て前年を上回っているが、大規模な改装は実施しておらず、チャレンジの成果にほかならない。

「心的躍動感をいかに生み出すか」。同店の巧みな戦略が、百貨店の役割と本質を浮かび上がらせる。

(野間智朗)