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<2025年首都圏基幹百貨店店長パネルディスカッション>変革期の百貨店、あるべき姿を目指して

ストアーズ社主催の「首都圏基幹百貨店店長パネルディスカッション」を2025年12月11日(木)に開催した(リーガロイヤルホテル東京にて)。松屋銀座本店、東急百貨店、高島屋新宿店、西武池袋本店(発言順)の店長をパネリストに迎え、「変革期の百貨店、あるべき姿を目指して」をテーマに、各店各様の将来の「あるべき姿」の実現に向けて、短期・中長期視点で取り組んでいる重点戦略・戦術を語っていただいた。

パネリストには前半と後半に分けて、前半では25年度の重点戦略、優先的に取り組んできた具体的な施策と成果などについて、2巡目は26年度並びに中長期視点で店づくりの方向性、独自の価値創造に向けた重点戦略、具体的な営業施策について言及していただいた。(司会:ストアーズ社編集長・羽根浩之)


【25年度の総括、営業戦略の成果】

開店100周年企画を連打、企業価値の向上につなぐ

松屋銀座店

 石脇 聡子 本店長

松屋銀座本店にとって2025年は開店100周年の大きな節目であり、記念すべき特別な1年。石脇聡子店長は「1年を単なる記念で終わらせるのではなく、次の100年をデザインするための飛躍の1年にする」と位置付けて、「銀座と共に歩み、共に未来を描く、銀座と運命共同体」である百貨店として、松屋銀座ならではの100周年企画について言及した。

100年に一度のアニバーサリーイヤーとして、「つなぐ、つながる、つなげる」をテーマに様々なイベントや企画を連打してきた。次の100年をデザインしていくために、4つの柱を設定して、各々具現化に取り組んだ。1つが「ID顧客の深耕」、2つ目が「非ID顧客とインバウンドの取り込み」、3つ目が「ブランディングによる企業価値の向上」、4つ目が「施策のバランスと反復による効果の最大化」である。

この柱のうち、ブランディングによる企業価値の向上を目的とした具体的な3つの取り組み事例について言及した。

1つ目が「銀座の街並びに地域との連携」の具体的な取り組み。20年より開始している地域共創プロジェクトの事例を挙げた。同プロジェクトは「日本各地で継承されている伝統工芸・産業・文化を、絶やすことなく新たな機会創出と発展へとつなげること」を使命として、「地域の魅力を銀座から発信することで、地域発展への社会貢献と収益化の両立」を目指している。

地域共創活動は主に地域の魅力、伝統に根差した真摯なモノづくりを店内装飾やショーウィンドウの演出に活用する「装飾プロジェクト」をはじめ、自治体と連携しながら地域の伝統工芸や産業、文化を「デザイン」とコラボレーションさせてリブランディングしていく「地域のブランディング活動」、「観光推進活動」に取り組んでいる。100周年企画では、高級麻織物「奈良晒(さらし)」を使用した松鶴マークの暖簾、長野県飯田市の水引を用いたディスプレイや胸章などの事例を挙げた。銀座との連携では、「銀座木村家」のコッペパンに、銀座の名店の逸品を挟んだオリジナル商品「銀座をつなぐコッペパン」の限定販売などを紹介した。

2つ目が「文化の発信」で、8階イベントスクエアで9月26日~10月13日まで開催した日本デザインコミッティー主催による「Tsu-tsu-mu展 世界をやさしく繋ぐデザインの作法」を象徴的な事例として説明。「松屋が長年大切にしてきたデザインの価値を文化的な側面から広く発信し、『デザインの松屋』というアイデンティティを改めて確立する重要な機会となった」という。

3つ目が「記憶に残る体験型エンターテインメントの提供」で、秋の全館イベント「松縁祭(しょうえんさい)」(10月29日~11月11日)で実施した初企画「閉店後のお化け屋敷ミッション」を象徴的事例として挙げた。閉店後の空間でスリルある謎解きに挑戦する特別なハロウィンイベントで、社員自らお化けに扮した。10月31日(金)と11月1日(土)の2日間、参加者60名(小学生以上、未成年は保護者同伴)の限定企画。オンラインによる事前抽選制だったが、3000名もの応募があったという。

「お客様への価値提供は従業員の熱量なしでは実現できないと確認できた貴重な機会となった」、続けて「100周年の経験を生かし、お客様と商品をつなぐだけでなく、文化のプラットフォームとしての役割を忘れずに変革を続けていきたい」という思いを強めた。

営業施策で独自の勝ちパターンの構築に挑む

◆東急百貨店

 石田 晃也 店舗運営事業部部長

東急百貨店の大小17店舗を束ねる店舗運営事業部の石田晃也事業部長は、東横店と本店の閉店後の「基幹店なきビジネスモデル確立」に挑んでいる中で、25年度の指針と具体的な取り組み、加えて25周年を迎えた東急フードショーについて言及した。

東急百貨店は100年に一度と言われる渋谷の再開発に伴い、20年3月に東横店、23年1月に本店の営業が終了し、現在、店舗運営事業部を軸に、基幹店なきビジネスモデルの構築に取り組んでいる。同事業部の25年度の方針として、「営業利益予算達成に向けた営業施策の実行」と「東急百貨店の店舗運営スタイル確立に向けた3つの取り組み」を掲げており、前者の取り組みについて説明した。

営業施策の実行では、「東急百貨店の売り出しにおける勝ちパターンの確立」をテーマに、5つの取り組みを紹介した。1つ目が全社共通施策として実施した「最重点週の取り組み」。「精度販促、カード会員の特典、共通商品の施策、人気の催事・イベント・ポップアップなど、最重点週を決めて各店で成果を上げた施策やイベントを大型店(吉祥寺店、たまプラーザ店、札幌店)で実施した」。

2つ目が全社共通のフードの強化施策で、強化週を設定して「東急フードショー誕生25周年」イベントを行った。3つ目が重点カテゴリー戦略に基づいた「フード」と「ビューティー」施策と渋谷エリア特化策。ビューティーでは、渋谷の街をビューティーの聖地へと導き、顧客に新しい価値の提供を目指す「シブヤビューティージャム」を展開。渋谷エリア特化策では、10月11日に渋谷エクセルホテル東急で開催し大盛況だった「シブヤSAKEスクランブル」の事例を紹介した。

4つ目が重点月を設定した全店施策とプラスアルファの施策の実施で、3月、6月、11月、12月に重点施策を講じてきた。5つ目が効果的な顧客施策の実行で、10月に東急カードのポイント制度が、「さらに貯まりやすく、使いやすい」制度にアップデートされたことから、これを活用した販促策を強化してきた。

25周年を迎えた東急フードショーは、当時「デパ地下」という言葉が頻繁に使用されるきっかけになった話題の売場で、店内厨房やイートイン売場など、出来立て感、ライブ感やシズル感が「デパ地下」を席巻した。石田氏が開発メンバーだったこともあり、裏話を含めて、革新的な取り組みとその本質に言及した。マーケティング、マーチャンダイジング、オペレーションの視点で当時を振り返った。

東急フードショーとは、東急百貨店のもう1つのフードブランドと化していた「東横のれん街」と一線を画す、「日常のデイリーの延長線上の『高質な日常』をコンセプトにした百貨店の新たな一大デイリーマーケットゾーン」。MDでは、当時は「中食」という言葉が使用されておらず、ミールソリューション(食事問題の解決)が食品スーパーで注目されはじめていた程度で、「惣菜」ジャンルが確立されていなかった頃。レストランや飲食店が手掛けるテイクアウト商材の開発、東急沿線を中心に評判の和菓子や洋菓子ショップとのスイーツの開発などに取り組んだ。オペレーションでは効率化を目的に、「ショップごとの会計から、集合レジへの転換が一番のポイントだった」と振り返った。

いくつもの課題に直面し、知恵を絞り克服してきた結果、百貨店の食品売場が新たな「デパ地下」へと進化した勘どころが明らかになった。

改装、イベント、つなぐアクションで「実力」徐々に

◆高島屋新宿店

 澁谷 裕子 店長


24年度(25年2月期)に悲願だった売上高1000億円を突破した高島屋新宿店の澁谷裕子店長は、悲願達成の下支えとなってきた段階的改装、イベント、そして高島屋グループが注力している「TSUNAGU ACTION(ツナグアクション)」について述べた。

同店は高島屋の店舗の中で最も歴史が浅く、開業は1996年10月。26年に30周年を迎える。新宿は言うまでもなく各百貨店の基幹店が林立しているエリアであり、開業から「売上高地域4番店」を強いられてきた。しかしながら新宿駅および周辺の再開発に伴う環境変化への対応、コロナ禍を経て「少しずつ実力をつけてきた百貨店」で、中長期計画の目標より早期に1000億円を達成した。

この間、ハウスカード、友の会、外商などで構成する組織顧客が着実に増え、新規顧客の開拓も進んできた。段階的改装とイベントにフォーカスして、その実力の一旦に言及した。

段階的改装では、10期5年に亘り進めてきたラグジュアリーの拡大・改装が12月で一旦完了する。店舗環境をフルに生かし、1店舗当たりの面積を広げて、「メンズとレディスの複合型の品揃え、ゆったりと接客できる環境の整備」に取り組んできた。

地下1階「デパ地下」は24年度下期から3期に分けて改装した。高島屋の大型店の中では食品の売上高構成比が低いため、強化していくべき領域。菓子と惣菜の強化を中心に、特に高島屋のオリジナルブランドである「フォション」、「ペック」、「ダルマイヤ―」と自主編集「味百選」と「銘菓百選」を刷新して、より独自性を強めた。

イベントでは、組織顧客の比率(売上高シェア)が他の大型店に比べ低い実情を逆手に取り、「不特定多数のお客様が来店しやすい環境と捉え、非百貨店商材と非組織顧客に焦点を当て、企画を進めてきた」。

ツナグアクションは、高島屋グループのESG経営を象徴する活動であり、「この地球を次の世代へつなぐために私たちができること」を考えながら、顧客や取引先と協業・共創して取り組んでいる。エコ&エシカルな商品やサービスを通じてサステナブルなライフスタイルを提案し、社会課題解決と利益増大の両立を目指している。

「PLANET(プラネット)」(=美しい地球と豊かな資源を未来へ)、「SOCIAL(ソーシャル)」(=日本・地域の伝統や文化を伝え、広げていく)、「PEOPLE(ピープル)」(=すべての人の自由と平等、笑顔に寄り添う)という3つのテーマに基づき、取り組んできた活動事例を紹介した。

25年度の重点施策は、26年の開業30周年につなげていくための取り組みでもある。

新しい百貨店、非日常と日常のバランスを追求

◆西武池袋本店

 寺岡 泰博 本店長

「新しい百貨店」に生まれ変わるために、開業以来初の全面改装を手掛けている西武池袋本店は、7月に3階コスメティックスフロア、9月に「デパ地下」が開業し、11月から12月にかけて1、2階並びに4~6階のインターナショナルブティックとフレグランス、ジュエリー&ウォッチの各ショップが順次オープンしている。寺岡泰博店長は目指す新しい百貨店づくりの進捗について言及した。

同店は「顧客に上質との出会いを提供し、特別な高揚感を与えられる百貨店」を目指して全面改装中。伝統的な「デパートメント(区分された)ストア」から脱却していくため、「INCLUSION(インクルージョン)」をテーマに、現代の多様で柔軟な時代性に合わせ、「婦人」と「紳士」両方のカテゴリーを同一のショップ内に揃えるブランドを中心に展開する。各フロアはフランス語の家や建物を意味する「MAISON(メゾン)」を建築デザインコンセプトに、各々が「クラス感」、「洗練」、「アート」を兼ね備え、かつ、くつろぎの場を提供する空間を創出していく。

売場面積が改装前より半減(約4万8000㎡)するため、「以前のようにフルライン、フルターゲットの百貨店の組み立ては難しく、ラグジュアリー、コスメ、食の領域を柱に、それぞれのカテゴリーキラーを目指している」。

現在、第3弾が順次完成しているが、当初計画よりも遅れが生じており、その理由も説明。「取引先には多大なるご迷惑をおかけしており、大変申し訳なく思っている。完成した暁には必ず恩返ししていきたい」と強調した。

改装オープンしたカテゴリーのうち、「デパ地下」にフォーカスして言及。今回、「非日常と日常のバランスを考えながら、百貨店らしく、西武らしい価値提供にしっかり取り組んでいきたい」考えで、「百貨店らしい非日常の価値提供も大事だが、一方で地域と共存して成長してきた百貨店でもあり、日常性も大事にしたデパ地下を意識した」という。デパ地下(地下1階スイーツ、地下2階惣菜)には166ショップを集積し、うち40ブランド超を新規に導入。11月10日には地下1階に約40ブランド、100種類を集積した自主編集の「BENTOステーション」(約60㎡)を新設した。非日常と日常のバランスに留意しながら、「いつ来ても発見がある、毎日来たくなる」という西武池袋本店ならではのデパ地下を目指した。


【26年度の指針と重点施策、あるべき姿を目指した価値創造】

次いで後半の発言は、前半の現状を受けて、「各店各様のあるべき姿の実現に向け」、26年度以降の中長期視点を踏まえた重点戦略、優先的に取り組む施策や課題、リアル店舗の魅力化への方向性などを語っていただいた。

グローバルデスティネーションへの「攻めの体制」築く

松屋銀座店 石脇本店長

松屋銀座本店の石脇店長は、26年度について「目指す姿を実現していくための『攻めの体制』を確立する極めて重要な1年となる」と位置付けている。攻めの体制を確立していくための2つの課題を挙げ、課題解決への重点取り組みについて言及した。

松屋のミッションは「未来に希望の火を灯す 幸せになれる場を創造する」。そのために「日本トップレベルのプレミアムリテーラーとなることを実現し、銀座という国際的な舞台においてグローバルデスティネーションとなること」を目指す姿に掲げている。

26年度は、この目指す姿の実現に向けた「攻めの体制」を構築していくフェーズ。攻めの体制確立に向けて、2つの課題解決に注力していく。1つ目が「増大する新規業務に対応し、成長戦略の実行エンジンとなる人と組織の力を最大化すること」、2つ目が「CRM戦略、オムニチャネル戦略の新しい会員プログラムの基盤を構築すること」である。

人と組織の力の最大化に向けては、「BPRによる生産性向上と人事・組織体制の整備を断行する」という抜本的な業務構造改革に取り組む。要は「お客様の価値創造に直結しない非効率的な業務プロセスを根底から見直し、捻出された人的・時間的なリソースはすべて顧客価値創造と営業力の強化に再配分していく」ための業務構造改革であり、「百貨店の当たり前にメスを入れていかなければならないタイミングが来ていると感じている」という健全な危機意識の表れであろう。

業務構造改革と併せて人材戦略も推進していく。先行して25年度下期に人事・賃金制度の抜本的改革に着手した。9月より、これまでの職能資格制度と職務等級制度から「役割等級制度」に変更した。従業員の社歴や年齢にかかわらず、与えられた役割に基づいて報酬や序列を決定する人事制度で、松屋では役割の難易度に応じて7段階で構成しているという。併せて360度アセスメントを通じた伴走型人材育成にも力を入れていく。

2つ目のCRM戦略とオムニチャネル戦略の基盤構築については、「リアル店舗でのID顧客の母数拡大と嗜好性に応える適切な情報発信で、客単価の向上を促進し安定基盤の強化を図っていく」。同時に、24年11月27日にローンチした「matsuyaginza.com(マツヤギンザドットコム)の取り扱いブランドの拡大と、ID顧客数の増大に全力であたっていく」と強調した。

最後に次なる顧客戦略として27年春に開始予定の新たな会員プログラムの導入について紹介した。この意義は「お客様と松屋の関係性を進化させることにある。お客様一人一人に寄り添った特典を提供できる仕組みになっており、より魅力的なプログラムを目指していく」。

「百貨店として選ばれ続ける存在となるためには、従来の延長線上ではない一歩踏み込んだ変革を乗り越えていかなければならない。大変厳しい道のりだが、人と組織の力を最大化し、開店100周年事業で培った一人一人の熱意で、松屋銀座ならではの顧客体験を創造していく」と「攻めの姿勢」で臨む考えだ。

新たな店舗運営スタイル確立への自己革新を加速

◆東急百貨店 石田部長

東急百貨店は25年8月1日付で、東急グループの事業再編に伴い商業施設運営事業の統括機能を具備した事業統括会社「東急リテールマネジメント」の傘下となって新たなスタートを切っている。石田部長は、新生・東急百貨店の店舗運営スタイルの確立に向けた3つの取り組みを述べた。

東急グループの商業施設運営事業再編の目的は、「東急沿線を中心に長年培ってきたノウハウを組み合わせて、経営効率を高め、各社の良さを生かしながら魅力ある街づくり、商業施設づくり、店づくりを進めていくためで、東急百貨店は百貨店としての強みを発揮していくことが求められている」。

百貨店の強みとは何か。「最大の強みは『お客様』だが、百貨店と名乗った時点で幻想領域が拡張される。これを事業者の観点で、3つの側面から百貨店の強みを捉え直した」という。側面とは「機能」、「構造」、「機構」である。

機能とは「全体を構成する個々の部分が果たしている固有の役割」で、具体的には売場、商品、サロン、サービスなどだ。構造とは「物事を形づくっている組み合わせや仕組み」で、カテゴリー構成や契約形態、組織・人員体制などである。機構とは「特定の目的を達成する仕組み」で、日々活動するルーティーンワーク、業務フローなどである。「これら3領域における特徴付けや強みを総合的なバランスを持って創出していくことが大事だと考えている」と、百貨店の強みを発揮していくための前提となる考え方を述べた。

その上で、「現場力をより強くしていくことを前提に、業務の効率化・平準化に向けて、現場力強化と表裏一体となって推進している」3つの取り組みを紹介した。

1つ目が「営業における業務フローの実践」、2つ目が「ホスピタリティ向上に向けた9つのメソッドの実行」、3つ目が「運営における業務の効率化」である。それぞれ「高度な平凡性」をテーマに取り組んでいる。高度な平凡性とは「日常当たり前にできる水準を高くすることと、平均的にどうしたら無理なく成果を高められる仕組みを構築できるか」という観点で実践していくことだ。

営業業務フローの実践とは「全店舗・事業所が同じサイクルやスタイルの観点で営業計画の立案、実行、検証ができるようにしていく」ため。9つのメソッドの実行は「お客様と取引先に選ばれる店舗・事業所になるためには、品揃えとサービスをさらに磨き上げていかなければならない。そのためには東急百貨店で働きたいと思ってもらえるようなモチベーションを上げていく取り組みが必須で、ESからCSへと循環するサイクルをつくっていくためにメソッドに取り組んでいる」という。3つ目の業務の効率化は、店舗運営業務を精査しながら、仕組み化と併せて実行中で、会計業務の簡略化など具体的な事例を紹介した。

周知のように渋谷駅および駅周辺エリアは100年に一度と言われる大規模再開発が進行中だ。東急百貨店の店舗運営スタイル確立を目指した様々な改革は、再開発完成後も存立していくための自己革新だ。これを成し遂げた時こそが、「新生・東急百貨店」の船出となろう。

2031年を見据え、ビジネスモデルの抜本的変革に着手

◆高島屋新宿店 澁谷店長

26年に開業30周年を迎える高島屋新宿店の澁谷店長は、高島屋創業200周年にあたる31年をターゲットにした抜本的なビジネスモデル改革、30周年企画、顧客づくり、人材の重要性について説明した。

24年度に1000億円店舗まで成長したとはいえ、「駅の乗降客数、訪日外国人の来街者数など新宿の街のポテンシャルを考えると、まだ成長途上」の店舗。経営視点でも、「『持つ経営』を選択して、利益体質に転換できたが、ROICの指標はまだ低い」という経営課題を抱えている。

今後、持続的成長を遂げていくためには、現状の延長線上では難しいことから「中長期視点でビジネスモデルを抜本的に変革していく必要がある」。改めてグランドデザインを描き直し、高島屋創業200周年を迎える31年をターゲットに、ビジネスモデル変革を進めていく考えだ。

抜本的変革に向けて、高島屋グループの優位性を生かす取り組みがポイントになる。優位性とは、国内外の主要都市を中心に大型店をバランスよく配置している「店舗の立地特性」、商業開発や金融業などの「優良なグループ会社」、組織顧客を中心とした「幅広い顧客基盤」である。「3つの優位性をアセットとして、今後の百貨店を考えることが大きなミッション」で、その実現に向け、25年度は「シームレス」がキーワードになっている。「優位性をさらに昇華させていくため、お客様視点でグループの各事業が等距離にある状態の『シームレス化』を実現して、お客様にストレスなく、かつ感動を与えることができる購買体験を創出していく取り組み」だ。

百貨店と、グループ企業の東神開発が開発・運営する専門店との融合も、シームレス化の象徴的な取り組み。百貨店と専門店がシームレス化していくためには、「百貨店らしさを際立たせていく必要がある」。

百貨店らしさのうちMDで鍵を握るのが「平場」だ。人も労力もかかり、利益面も厳しいとはいえ、「比較購買ができる百貨店の平場はお客様にとってメリットが多く、さらに魅力を磨き上げながら、いかに効率を上げていくか。平場の再構築に取り組んでいく」意向だ。

ビジネスモデル変革は中長期視点の重要なミッションだが、26年度の重点施策は開店30周年企画の連打であろう。中心となるイベントでは、集客力の高い食関連とアートとコラボレーションした新企画、アート関連の新企画などを連打していく。

3点目の重点施策として、顧客づくりの重要性に触れた。タカシマヤカード、高島屋アプリやポイント連携をフックにした顧客づくりに注力していくという。

そして最後に人材の重要性を挙げた。人材のエンゲージメント、従業員満足度向上を最優先に人材の確保、育成に取り組んでいく考えを示した。高島屋新宿店は、新宿駅エリア再開発に伴う劇的な環境変化を好機に転換していくために、1000億円達成と30周年を機に次なる持続的成長フェーズに入っている。

顧客、取引先と共に気持ち込め「百貨店文化」を後進に

◆西武池袋本店 寺岡本店長

全館改装が進行中の西武池袋本店の寺岡店長は、前半に続き目指している「新しい百貨店」の創造への進捗と「百貨店文化」を後進に残していくための意気込みを語った。

同店が目指す新しい百貨店の創造は、店舗面積が半減した中で、フルラインからラグジュアリー、コスメ、食品の3領域にフォーカスしたMD構成になるが、そのため顧客層も多少変化せざるを得ない。「これまでは西武線沿線の地域のお客様がベースとなって支持をいただいてきたが、改装完成後は沿線に加え、従来アプローチしてこなかった新宿、銀座、丸の内などのエリアにも攻め込んで、これまで以上に広域商圏から集客していかなければならない」考えを示した。

もちろん西武線沿線の地域顧客も大事にしていく。「一部で営業を継続していたとはいえ、2年近く多くのブランドが営業を休止していた状態で、流出していかれたお客様も少なくない。これまで支えてくださったお客様をもう一度呼び戻していかなければならない」。

11月から12月にかけて順次オープンしている第3弾の改装についても言及した。1階、2階、4階、6階のインターナショナルブティック(メンズ&レディス)、1階のフレグランス、5階のジュエリー&ウォッチの5フロアを対象に、新規18ショップを含む47ショップが順次完成している。

玄関口の1階フロアには、5つの大型インターナショナルブティックと10のフレグランスブティ ックを集積して、同店の「顔」となるゾーンを形成する。12月5日にオープンしたフレグランスコーナーは約300㎡を有し、世界観を存分に発信している一つ一つのブティックが軒を連ねる最大級のフレグランスゾーンだ。

インターナショナルブティックフロアは、テーマである「インクルージョン」を象徴する空間で、婦人と紳士の両カテゴリーを同一のショップ内で展開する大型ブティックを集積。「特別な空間で、品揃え、サービスで他を圧倒するメガショップの集合体を形成している」。

まだ完成途上だが、新しい百貨店づくりへの期待をひしひしと感じているようだ。「店頭に立っていると、復活を待ち望んでおられたお客様からお礼の言葉をいただいた。改めてお客様に支えられていることを実感できた。お客様との、取引先との、信頼関係を誠実にしっかりとつくり直して、精一杯の気持ちを込めて新しい百貨店をつくり上げていきたい」と強調した。そして最後に「百貨店文化を後進に残していきたいのが私の強い思いであり、取引先との共通認識の中で新しい百貨店を創造していきたい」と締め括った。

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