<2025年業界回顧>変革期の百貨店改革が着々と 事業拡大への戦略投資を継続
※以下、弊誌「ストアーズレポート」2026年1月号の抜粋です。
百貨店業界は2030年以降を見据えた変革期の真只中だ。25年(令和7年)の業界を回顧すると、大手百貨店グループを中心に、「ブランド価値」の中核を担う百貨店事業を中心にグループの持続的成長を着実なものにしていく経営体質への転換を目指した改革並びに重点施策に、「攻め」と「守り」のバランスをとりながら積極的に取り組んできた年だったといえよう。
「攻め」では、全国の百貨店で大小の改装が活発化し、物産展やコンテンツ催事など大型催事や各種イベントが集客力を発揮している。取引先と協業したブランド・コンテンツ開発も積極化した。「守り」では、コロナ禍で取り組んできた構造改革によるコストコントロール力が高まり、百貨店事業では業務改革や働き方改革を伴う新たなビジネスモデルへの転換も進んでいる。
重点戦略が進展、結実 名古屋エリアで劇的変化

名古屋・栄エリアでは再開発が盛んに行われている(写真は「ハエラ」イメージ図)
J.フロントリテイリング(JFR)が24年度(25年2月期)より進めている中期3カ年経営計画は、2030年に目指す姿「価値共創リテーラーグループ」の実現に向けた「変革期」と位置付け、百貨店やSCなど「リテール事業の深化」と飛躍的成長に向けた「グループシナジーの進化」、これらの重点戦略の実効性を高めていくための「グループ経営基盤の強化」に注力している。
中期計画2年目の25年度は、基幹店舗の大改装、自社保有コンテンツの開発などリテールの深化戦略が進み、シナジーの進化戦略では名古屋栄エリアの開発、心斎橋エリアの物件取得や開発参画、グループ内カードの集約化に取り組んできた。
25年は特に中期計画の最重点エリアである名古屋・栄で「進化・深化」戦略が前進した。松坂屋名古屋店の段階的大改装、名古屋パルコの改装、26年初夏開業予定の商業施設「HAERA(ハエラ)」の開発など、エリア全体をデスティネーションにしていく「街づくり戦略」だ。
松坂屋名古屋店では、高質・高揚消費層の支持拡大を目指し、ファッションやアートなどを中心にした2年に及ぶ改装が一部を除き年内にほぼ完成した。ハエラは、地上41階建ての複合施設「ザ・ランドマーク名古屋栄」の地下2階~地上4階に入居する商業施設。J.フロント都市開発、大丸松坂屋百貨店、パルコが連携して、新たなラグジュアリーモールを開発する。JFRはグループ外の地域の施設やサービスとも連携して、エリアの魅力向上や活性化に向けた基盤整備を着実に進めている。

名古屋駅では名古屋鉄道主導の再開発が進むが、25年12月にスケジュールが「白紙」となった
この名古屋の中心街では、名古屋鉄道が日本生命や近畿日本鉄道などと共同で行う名古屋駅周辺の再開発計画を公表。対象エリア約3万2700平米に高層ビル2棟を建設する。26年度からビルの解体工事にとりかかり、27年度に新ビルの建設に着手し、「1期」工事で33年度中に駅の一部、ホテル、オフィス、名鉄バスセンター、商業施設の一部を完成させて、駅の全面刷新や商業施設の開業を含む「2期」工事が40年代前半に竣工する計画。
これに伴い開発エリアのビルで営業している名鉄百貨店本店、近鉄百貨店名古屋店は、26年2月28日で営業終了する。が、名鉄は12月12日、26年度中に予定していたビル解体に着手できなくなったと発表。解体などを担う大手ゼネコンが事業参画を見送ったためで、解体後の複合ビルの着工、完成時期も「未定」となり、計画全体を見直す事態を招いている。名鉄百貨店本店は予定通り閉店するが、名鉄バスセンターと名鉄グランドホテルの営業終了が未定となった。
海外戦略や事業領域拡大 取引先との連携で活発化

高島屋はベトナム・ハノイの都市開発に参画している(写真は起工式の様子)
大手百貨店では、中長期視点でグループの持続的成長に向け、新事業や新市場の開拓を積極化させている。他の企業との連携や提携、出資やM&Aなどへの戦略投資を増やしている。さらに東南アジアなどを中心に、現地の優良企業と提携して海外事業の成長戦略も着々と進めている。
JFRは、コメ兵とリユース事業を手掛ける合弁会社を25年3月に設立。リユース業界との合弁会社設立は、百貨店業界で初の取り組み。松坂屋名古屋店や大丸東京店などで8月よりブランド品の買取専門店「めぐらす」の出店を開始した。リユース事業は、JFRの重点戦略である「リテールの深化」を具現化した「自社コンテンツの保有・開発」の一環で、MD(商品)、IP、サービスの各領域でコンテンツ開発を進めている。
東南アジア進出では、グループ総合戦略「まちづくり」のもと、海外事業をグループ成長戦略の柱の1つにしている髙島屋が業界で先行している。海外事業の成長ドライバーと位置付けているベトナムでは、東神開発がベトナム・ハノイ市で参画している大規模タウンシップ開発「スターレイクプロジェクト」 内で、大規模複合ビル「ウエストレイクスクエアハノイ」の開発計画を進めており、8月2日に起工式を行った。
第Ⅰ期計画では、27年秋の開業を目指し、地下3階、地上10階建ての複合ビルを建設。上層階(7~10階)がオフィスフロアで、地下1階~6階にハノイ初出店となる髙島屋 (百貨店)と専門店で構成する商業フロア「ハノイタカシマヤショッピングセンター」を開発する。さらにベトナムの富裕層向けの住宅の内装事業を手掛ける新会社を5月に設立した。
再開発・競合激化で閉店 休業日増、働く環境を整備

商業施設「アイシティ21」に百貨店機能を統合した井上
地方都市や郊外立地の中規模百貨店の閉店も続いている。井上は松本駅前の本店(7階建て、売場面積8300平米)の営業を25年3月末に終了した。同社が運営する郊外立地の商業施設「アイシティ21」の百貨店棟に本店機能を統合して営業を継続している。アイシティでは改装に取り組み、百貨店が運営する新たなSCの創造に挑んでいく。髙島屋は2店舗の閉店を公表した。26年1月7日に大阪の堺店(2万5396平米)が、8月3日に京都の洛西店(8079平米)が順次閉店する。
京都の藤井大丸は、本館(約1万6000平米)の営業を一時休止して建て替え開業に踏み切り、今年5月6日に営業を一旦終了する。創業160周年を迎える30年度中の再開業を目指している。建て替え中は本館周辺エリアに複数の路面店を開設して、将来を見据えた街づくりを進めていく。
百貨店業界では、取引先を含め従業員の就業環境の改善や働く場の魅力向上による人材確保の一環として、休業日増が広がってきた。髙島屋、大丸松坂屋百貨店、阪急阪神百貨店は25年から元日に加え1月2日も休業し、3日から初売りを開始した。3社は26年も継続し、今年は東武百貨店や東急百貨店も加わった。
百貨店業界を取り巻く環境は厳しいままだが、コロナ禍の劇的環境変化を経て、百貨店の復活・進化、改革継続とともに、各社各様に目指す姿の実現に向けた基盤整備が進んできた。持続的成長への「変革期」の真只中にあるものの、インフレ局面下で、前年に続き26年も百貨店事業を核に、中長期視点で「守り」を固めながら、「攻めの戦略」を加速させていくステージになりそうだ。