百貨店のおせち、オードブルや鍋など多様化進む 年末年始の集いのお供に(上)
大丸松坂屋百貨店は有名な料理人やソムリエ、インフルエンサーらとの協業を今年も強化。独自性を追求する。右から2番目が世界的なソムリエの田崎真也氏、同3人目がSNSで人気の石橋絵理さん、同4人目が「京天神 野口」の野口大介氏
物価高の今こそ、需要あり――。大手百貨店が2026年のおせちのラインナップを発表した。年末年始は昨年に続き最大で9連休となるため、親族で集まる機会が増えるとみられる反面、物価高からおせちの価格には敏感になると予想。親族や友人の集まり向けの和洋中、肉、スイーツなどのおせちを用意するとともに、物価高対策の値頃なおせち、限定品、コラボ品なども揃える。
25年のおせちの売上げは、大丸松坂屋百貨店が前年比4%増、高島屋が前年並み、東武百貨店が7%増と堅調だった。原材料の高騰に伴うおせちの価格上昇なども要因にはあるが、景況感に比べると健闘している。パーティーのオードブルやおつまみ、“年末年始のごちそう”として利用されることも多く、26年も需要は底堅いとみて、各社は多様な楽しみ方ができるおせちを企画した。
大丸松坂屋、冷凍やふるさと納税など販路の拡大に本腰
大丸松坂屋百貨店は、消費の二極化を踏まえて低価格帯と高価格帯を充実させるとともに、需要が年々増えている冷凍、おつまみやオードブル、ふるさと納税なども強化し、前年比4%増の売上げを狙う。
25日に報道陣に発表し、おせちを担当する浅川幸治氏は品揃えのポイントに①お値打ち②贅(ぜい)を味わう③ユニーク④冷凍⑤地産地消――の5つを挙げた。①では3年連続で販売個数が1位、売上げが3位と人気の「京都・祇園 京彩宴」の「天禄 和・洋風二段」(1万1880円)の価格を据え置いたほか、新規に「宮川町ほった」の「100品目おせち 和・洋・中華風おせち二段」(2万1384円)を取り扱う。
②は大丸松坂屋百貨店のおせちの担当者と有名店や料理研究家、著名人らが共同開発する「大丸・松坂屋 オリジナルおせち」がメインで、47種類を揃える。料理研究家の大原千鶴さんが監修するおせちは7年連続売上げ1位で、今年は「口福おせち 午 和風三段」(3万1500円)の名称で販売。新規では「京天神 野口」の「和風おせち 二段(〆鯛カレー付)」(3万5640円)に注目が集まる。
③では、若年層の購買意欲を喚起するため、SNSで人気の料理家・石橋絵理さんが初めて監修した「“えり”すぐり おつまみアソート おつまみ風一段」(1万7800円)を用意。「金沢まいもん寿司」の「本鮪・のどぐろ入り 迎春紅白握り」(9720円)は、おせち商戦で初めての握りずしだ。
「金沢まいもん寿司」の「本鮪・のどぐろ入り 迎春紅白握り」(9720円)は、おせち商戦で初めての握りずし
④は全国への配送が可能で、売上げは好調。20年と25年を比較すると、売上げは5倍になった。26年用は、世界的なソムリエである田崎真也氏がフランス料理のフルコースをイメージして監修した「Le Menu 22 plats 洋風三段」(2万9800円)などを揃え、さらなる伸長につなげる。
売上げが好調な冷凍おせちを強化
⑤では「北陸づくし 和風二段」(2万3800円)や「九州旬味箱(炙り鯖明太子寿司付) 和風二段」(2万5000円)が初登場。前者は北陸の食文化が表現されており、後者は博多大丸の社員が九州のモノやコト、ヒトなどを発掘する「九州探検隊」がプロデュースした。
同社は新型コロナウイルス禍でも、おせちの売上げを伸ばしてきた。25年の売上げは20年比で約1.3倍だ。アフターコロナを迎え、年末年始に旅行する人が増えた24年はマイナスだったが、25年は前年比4%増と挽回。同業他社だけでなく、総合スーパーやテレビ通販などとの競合も激しいが、ふるさと納税の強化、昨年に続くテレビ番組とのタイアップなどで販路を拡大し、売上げの伸長を狙う。
インターネット通販サイトで9月19日から、店舗では10月1日から、おせちの注文を受け付ける。
そごう・西武、“カジュアル”や推し活消費に照準
そごう・西武は、物価高騰を受けてコストパフォーマンスに優れたおせちを新たに投入したほか、ニーズやシーンなどに合わせて食べ方をアレンジできるカジュアルなおせち、推し活消費に照準を合わせたおせちなどを拡充し、昨年を超える売上げを目指す。
いわゆる「コスパ」が求められる中、おせちではボリューム感を追求。和・洋・中の味が楽しめる「美味づくし/和洋中四段重『宴』」(2万3220円)は同社限定で、三段重の価格という。おせちを担当する長岡俊範氏がメーカーと直接交渉し、価格を抑えた。大丸松坂屋百貨店と同じく宮川町ほったの100品目のおせちも取り扱う。
カジュアルなおせちでは、「レストラン ヒロミチ」の小玉弘道氏、「銀座 和久多」の亀山昌和氏、「HYENE」の木本陽子さん、「赤坂璃宮」の譚澤明氏の4人がコラボレーションした「夢の4シェフコラボ 和洋中オードブル一段重」(1万9440円)が目玉。4人の料理人で一段重を作り上げるのは珍しい。長岡氏は「良い意味でおせちらしくなく、若い人も手を出しやすい」と期待を寄せる。
また、25個のカップに料理が収められている「『新宿 割烹 中嶋』×『オテル・ド・ヨシノ』/和洋折衷カップおせち二段重」(3万2400円)はコロナ禍で登場して以降、売上げが伸び続けており、昨年は関東地域での売上げが1位だった。長岡氏は「カップに入っていて取り分けやすく、他の料理とも一緒に食べやすい。コロナ禍では衛生面で支持されたが、今は『ライフスタイルやシーンなどに合わせやすい』と好評だ」と人気の理由を説明する。今年は全店で買えるようにして、さらなる拡販を狙う。
旧来のおせちとは一線を画す、他の料理と組み合わせても楽しめる商品を訴求
旺盛な推し活消費にもフォーカス。そごう・西武限定として「仮面ライダーおせち 2026 二段重」(2万4840円)を展開する。一の重は仮面ライダーを、二の重は敵であるショッカーをイメージした食材を詰め合わせ、重箱の側面には仮面ライダーの目を想起させるハニカム構造の柄、仮面ライダーに登場する「立花レーシング」やショッカーのロゴを施し、仮面ライダー1号の刺繍が入ったマフラータオルを付けるなど、細部までこだわり抜いた。26年は仮面ライダーの55周年でもあり、“初代”を知る60代の購買意欲を喚起する。仮面ライダーおせちを企画した中山茉莉花さんは「当時を知る人が楽しめるように工夫した。お孫さんも含めて親子三世代が集う正月に最適」と話した。
「仮面ライダーおせち 2026 二段重」には、仮面ライダー1号の赤いマフラーをイメージしたタオルが付く
そごう・西武はネット通販サイトで9月4日から、店舗では10月1日から、おせちの注文を受け付ける。売上げ目標は、当日販売を除き前年比5%増とした。
(野間智朗)