大丸松坂屋の「デパコ」、多面的なコンテンツで購買意欲を喚起 デパコスメディアの最前線(上)
「デパコ」では新商品紹介や読み物記事、占いなど、月に約100本のコンテンツを投稿している
今やファッションやトレンドの発信源が、SNSやネットメディアとなっている。リアル店舗やオールドメディアは、情報発信の手軽さやスピード、拡散性でインターネットには敵わない。しかし近年は百貨店もネットを活用し、新客獲得や組織顧客化に努めている。とりわけ新客との接点になる化粧品カテゴリーでは、化粧品単独のオウンドメディアを立ち上げ、百貨店ならではの情報発信に取り組んでいる。
連載『デパコスメディアの最前線』は前後編で、前編は大丸松坂屋百貨店の「DEPACO(デパコ)」、後編は東急百貨店の「SHIBUYA BEAUTY JAM(シブヤビューティージャム)」について取り上げる。いずれも自社内に編集部を持ち、社員が企画・編集に全面的に関与している媒体である。
ECとメディア機能が一体、コンテンツは月に約100本

「デパコ」のトップページ
大丸松坂屋百貨店の「DEPACO(デパコ)」は、メディアとEコマース機能が一体化したメディアコマースだ。18年に情報メディアとしてスタートし、22年のリニューアルでEC機能を統合。このタイミングで社内に編集部を立ち上げ、発信するコンテンツの量、質ともに見直した。その効果によってPV数は右肩上がりを続け、購買にも寄与。PV数は同社のサイトの中でも上位に位置している。
メディアコマースへの刷新について、望月美穂編集長(本社営業本部MDコンテンツ開発第2部専任部長ビューティー&ウェルネス担当)は、「当社は、化粧品のEコマースに関して後発組。価格で競争すると消耗戦になってしまう。メディア要素を付けた『メディアコマース』にすることで他社との差異化を図った」と経緯を説明する。
コンテンツに関しては、投稿をそれまでの月平均約30本から約100本に数を増加。内容の幅も広げ、①新商品の紹介やレビュー、イベント告知などの「お買物記事」②1つのテーマを掘り下げた特集、インタビューなどの「読み物記事」③ビューティーアドバイザーが投稿する「ブランドBA投稿」――の3カテゴリーを立てた。
お買物記事はSEO(検索エンジン最適化)を強く意識した内容で、読み物記事はどちらかというと読者の「知りたい」を叶えるという位置付け。ターゲット層は「化粧品に興味があるが、何がいいか分からない層」を中心に据えつつ、美容好きで詳しい層も含めており、両方が満足できる構成にした。
新作紹介や使用感レビュー、占いなど、多様な「知りたい」に応える

副編集長の高梨美沙子氏
リニューアル後、デパコのPV数は継続的に増加。自然検索で記事を見つけてデパコに入り、商品購入するCV(コンバージョン)率も上昇している。PV数やCV率向上の要因について、高梨美沙子副編集長(同)は「お客様の悩みに応える記事を複数の側面から出すことが、様々な方に響いたと考える」と話す。
何が良いのか分からない層に向けては、トレンドや人気ランキング、シーズンといった切り口で紹介。実物を試せないことが不安な層には色みやテクスチャー、使用感のレビュー記事を制作する。ブランドストーリーや商品の背景を知りたい層に対しては、開発者にインタビューした記事を発信した。
さらには占いや漫画といったライトな記事も制作しており、ターゲット層の様々な「知りたい」「気になる」潜在需要を捉えた内容になっている。「SEOを意識するだけでなく、『こういうお客様、いるよね』とイメージしながらつくったことが、今につながっている」(望月編集長)。
パーソナル診断や、香りについて語り合う記事が人気に

フレグランスの記事では、連想される風景やファッションについても語り合い、テキストならではの情報を提供する(「【シトラスの香水】6種試してみた!フレグランス好きDEPACOメンバーが徹底レビュー」より)
多くのコンテンツの中で、特に人気なのが、パーソナル診断系の記事だ。近年はネット上でバズった商品を消費者が一斉に買い求める流れがある一方で、自分に似合う商品を求めるニーズもある。そこで似合う色を診断する「パーソナルカラー診断」や顔のタイプを分類する「顔タイプ診断」、さらには自分の性格が分かる「16タイプ性格診断」も取り上げ、タイプごとにお勧め商品を提案する。
意外なヒットとしては、『香り』の記事もある。編集部から香水好きな3人が集まり、「こんなファッションに似合いそう」「こんな情景が思い浮かぶ」といった、香料だけでなく、香りから連想するイメージについても語り合った。「記事で香りそのものを伝えることはできないが、逆にそれ以外の視点からの情報を提供できた」と高梨副編集長は述べる。
こうした人気コンテンツを拡充するため、10月には、スマートフォンから自分の顔写真を送ると顔パターンとパーソナルカラーをAIが解析する「AIチェッカー」を導入。さらに10月中旬には、簡単な質問に答えると今年のホリデーシーズンにおすすめの香水をレコメンドする「2025 HOLIDAYフレグランスチェッカー」を始めた。

診断系コンテンツ強化のために取り入れた「AIチェッカー」
目指すは「デパコ」ブランドの確立
現在の課題としては、チャット型生成AIの浸透によって、検索サーチエンジンからの流入が減っていることがある。デパコは大丸松坂屋百貨店のアプリやライン、メルマガなどタッチポイントを多く持っているため、自然検索だけに頼らない手法を構想している。UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)に関しても、トレンドの移り変わりや技術革新が目まぐるしいため、明確なゴールは定めず日々アップデートを重ねている。
将来的な目標は、「『デパコ』ブランドの認知度を高めていくこと」だ。「当社の既存顧客だけでなく、将来のお客様を増やしていく入口にもなれる。『デパコスと言えばデパコ』と言われるような存在になりたい」(望月編集長)。同業他社では、化粧品のECサイトとメディアサイトを分けているところも少なくない。情報と商品を両方手に入れられる場所として利便性と魅力を磨き、存在感を高めていく方針だ。
(都築いづみ)