2024年11月08日

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にんべん、ファンの声取り入れ“共創”した鍋つゆ

かつお節の削り節を後乗せする、“にんべんらしい”アイデアが詰まった商品だ

にんべんが、ファンと共創した鍋つゆを発売した。「あとのせ鰹節が香る鍋つゆ」はかつお節の削り節を後乗せする鍋つゆで、コンセプト設計やパッケージデザインなど、至るところに同社のファンコミュニティメンバー「にんべんだしアンバサダー」(以下、アンバサダー)の意見を取り入れた。開発担当者も「社員だけではつくれない商品ができた」と太鼓判を押す、消費者目線に立った一品だ。

商品ラインナップは3種類で、いずれもかつおだしと別のだしを掛け合わせた味となっている。「あさりの旨み」はしょうゆベースにかつおだしとアサリを掛け合わせ、さらにホタテの風味を加えた。「魚介の旨み」は塩ベースにかつおだしとホタテ、サバ、イワシ、アゴなどの魚介のうま味を合わせ、素材の味を引き立てる。「トマトの旨み」はかつおだしとトマトのうま味を掛け合わせ、ほのかな酸味と香味野菜の風味がアクセントとなっている。

かつおだしとアサリ、魚介、トマトなどを組み合わせた

全てかつお節の削り節が付き、後乗せして香りとうま味を強化する。価格は324円で、鍋つゆ(2人前・64~66g)が2袋、鰹枯節削り(1.5g)が2袋入る。鰹節専門店のこだわりとして、味わいの特徴に合わせてかつお節を変え、調味液には力強い香りと味わいの「鰹荒節」を、後乗せには豊かな香りと芳醇な味わいの「本枯鰹節」を採用した。

同商品の開発は、にんべんの家庭用事業部が「だしアンバサダーと鍋つゆをつくりたい」と要望したことから始まった。鍋つゆ商品は以前から出していたが、「他社の鍋つゆとの差異化が十分にできていない」という悩みがあった。そこで、消費者に近い意見を取り入れるため、にんべんのファンコミュニティ「にんべんだしアンバサダープロジェクト」に着目し、アンバサダーとの共創プロジェクトが始動した。

商品ができるまでの経緯

開発は昨年7月にスタートし、主に①アイデア募集②フレーバー投票③試食会④パッケージ投票⑤官能検査アンケート・〆レシピアイデア募集⑥特設サイトへレシピ掲載⑦お披露目会・商品モニター投稿キャンペーン——の7つのステップを経ている。

最初の①アイデア募集は、鍋の商品アイデアを自由解答で募集した。様々な意見が集まり、中でも「味の決め手になるちょっとしたひと手間がほしい」、「見栄えも楽しみたい」、「珍しいだしを使った鍋」という意見に着目。「仕上げ用に“後のせ”かつお節削り」、「かつおだしד〇〇だし”の組み合わせ」という2つのコンセプトを設計した。

アンバサダーからは、忌憚(きたん)のない率直な感想も出る

続いて、かつおだしと組み合わせるだしを決める②フレーバー投票を実施。人気の高いだしをピックアップし、アンバサダーが投票した。その中から「あさりだし」、「トマトだし」、「あごだし」の3つを選んで試作し、③試食会を行った。試食会ではポジティブな意見だけでなく「もっとあさりの感じがほしい」、「あごだしの味が優しすぎる」など厳しい意見も出たが、それを元に商品を改良。あごだしは、後のせするかつお節の風味をより伝えやすいように「魚介だし」に変更した。

④パッケージ投票では4つの案を用意し、各デザインへの印象も聞いた。そのうち、若い世代からの支持が高く、「他社の鍋つゆと並んだときに分かりやすい」、「かつお節が躍る感じが良い」といった、コンセプトに近い意見のデザインを採用した。

アンバサダーから募集した締めレシピは、特設サイトやポップなどに掲載している(写真は特設サイト)

こうして商品が完成した後、⑤官能検査&〆レシピのアイデアアンケートを実施。削り節を乗せる前後で味が変わるかどうかを調査したところ、84.7%が「おいしくなった」と回答した。締めのアイデア募集で集まったレシピは同商品の特設サイトや店頭のポップなどに掲載していく。

お披露目会の様子

8月25日には、アンバサダーに向けて⑦お披露目会を開催。開発担当者が改めて商品について説明した後、試食をして感想や意見を交換した。にんべんだしアンバサダープロジェクトを担当する経営企画部広報宣伝グループの森沙織係長は「商品説明は鍋つゆ市場の現状分析など固い話も多かったが、皆さんが真剣に聞いていた。感想も商品コンセプトを踏まえた上で話していて、プロジェクトの一員のような熱量で参加してくださった」と喜ぶ。

商品サービス企画部家庭用グループの田中敢係長も「試食会やアンケートも含め、アンバサダーの方からは予想以上に厳しい意見をもらった」と振り返る。しかし「今まで社内では『にんべんらしい商品にするには、だしにこだわれば良い』という雰囲気があった。しかし、かつお節を後乗せすれば『鰹節専門店のにんべんらしさ』をより伝えられて、他の鍋つゆと異なるフックができる。こうしたプラスのひと手間が必要という意見があったからこそ、この商品が実現した」と外部の視点を取り入れたメリットを語る。

商品は9月1日に発売したが、商品モニター投稿キャンペーンを11月まで行い、その後もSNSで発信企画を行うなど、プロジェクトはまだ終わっていない。「商品を出して終わりではなく、商品の楽しみ方を聞いて販売促進に生かしたり、SNSで情報発信したりなど、これからも継続的に関わっていきたい」(田中氏)。商品を生み出すだけでなく育てる過程においても、アンバサダーとの“共創”を続けていく意向だ。

(都築いづみ)

にんべんが挑戦するファンコミュニティづくりのコツ 「仲間」目線で楽しさ共創