2025年11月21日

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アルビオンがDXを本格化、店頭での提供価値最大化へ

“アルビオンらしい”を追求した上で、2026年初頭から4月にかけてDXを具現化させていく

アルビオンは2026年、デジタルトランスフォーメーション(DX)を本格化する。初頭を目途に顧客情報の一元化、ロイヤルティプログラムの開始、店頭の電子機器の改善などに踏み切るとともに、4月にはオンラインストアを開く。新型コロナウイルス禍を転機に、国内外のあらゆる企業でDXが加速する中、同社も2021年4月にオンラインカウンセリングを導入したが、以降は慎重に需要を見極めてきた。そして出した結論は、DXを通じた店頭の価値の最大化。DXは主目的ではない。店頭の価値、すなわち顧客の支持の源泉であり、同業他社に対する優位性と自負するビューティアドバイザー(BA)が力を発揮できるよう、DXで環境を整備する。

化粧品メーカーの大半は、手塩にかけて育てた美容部員が知識や技術を生かして客と強い関係性を築ける対面販売を重視する。会話を通じて悩みや要望を聞き出し、適切に助言できれば、ただ商品の購入につながるだけでなく、心をつかんでファンになってもらえるからだ。ネット通販の利便性は認めつつ、店頭の客足や売上げの減少を危惧し、消極的な姿勢を示すメーカーは多かった。

しかし、コロナ禍で一変。リアル店舗は休業を余儀なくされ、ネット通販を整備せざるを得なかった。「ウィズコロナ」を迎えても、タッチアップは長く制限され、代替としてオンラインカウンセリングが登場。化粧品メーカーの多くはDXにアクセルを踏んだ。

アルビオンも21年4月にオンラインカウンセリングを始めたが、「『同業他社が推し進めているから』という理由でデジタルだけを強化するつもりはなかった」(金丸陽子取締役美容部長兼営業本部副本部長兼流通戦略事業部部長)。

ただ、コロナ禍では地方都市を中心に化粧品専門店の閉鎖が相次ぎ、顧客からの「商品を買える場所がない」という声が増加。共働き世帯の一般化、高齢化を背景に「子育て中で買いに行けない」「介護に忙殺されて買いに行けない」「足腰に不安があり買いに行けない」などの悩みも顧客からは届く。オンラインカウンセリングでも、利用者から頻繁に「ネット通販サイトで買えないのですか」と聞かれた。そこで、鈴木翔多朗経営企画部経営戦略グループ課長兼流通戦略事業部課長に白羽の矢が立ち、「アルビオンらしいオンラインストアの開設とDX」は託された。

“アルビオンらしい”を定義する上では、先行する他社の事例を研究したり、顧客の声を集めたり、専門機関にアルビオンの強みや弱みを調査してもらったり、入念に準備。同業他社の多くがECをはじめとするDXで新客との接点の拡大を狙う中、「店頭での価値提供の最大化」(鈴木氏)に軸足を置いた。

DXのもう1つの目的に、昨今のアルビオンが抱える課題の解決があった。課題とは①高級品としての認知が低下してきている②対面販売主体の割に離脱客が多い③情報発信が弱い――の3つを指す。鈴木氏は「お客様にアルビオンを認知してもらう、会社や商品の中身を知ってもらうためには、接点が必要。オンラインも無視できない。実際、SNSで当社の情報をそれなりに見ても、オンラインストアがないのがネックとなり、買う気持ちを逃しているというデータがある。加えて、同業他社はDXの強化によって、売上げの伸長にとどまらず、会社や商品への認知度、理解度が上がっていた。購入する場所が近くにないお客様に商品を届けるだけでなく、アルビオンの存在や良さをどう伝えるか。それを追求した」と強調する。

アルビオンの強みは店頭の対面販売であり、それを最大化するためにDXを活用する

こうした過程を経て、今年9月1日にDXの中核施策を発表した。①「ALBION ID」②「ALBION Beauty Program」③店頭機器のアップデート④オンラインストア――の4つからなる。ALBION IDは顧客情報の一元化で、従来は百貨店内のショップと化粧品専門店が個別に顧客づくりを進めてきたが、統一のIDを発行。顧客は店頭、ECの購入履歴をまとめて確認できる。金丸氏は「お客様の管理は取引先に任せがちで、例えば名古屋と銀座の店舗で商品を購入しているお客様がいると、カルテが2つに分かれてしまい、情報を正確に把握できていなかった」と自省する。アルビオンや百貨店内のショップ、化粧品専門店には、情報発信の重複を避けられるメリットがある。

顧客の情報を一元化すると、ロイヤルティプログラムも開始できる。ALBION Beauty Programと題し、ポイントの付与、購入金額に応じた特典などを展開。新客のリピーター化、既存顧客の買上げ促進につなげる。

店頭機器のアップデートでは、iPadとバーコードスキャナーを導入。これまではiPhoneでバーコードを読み取っており、精度に問題を抱えていた。よりスムーズに読み取れるようにして、接客の質を高める。

オンラインストアには、“店頭第一”を印象付ける仕組みがある。ロイヤルティプログラムで貯まったポイントは店頭でのみ商品に交換できるほか、ポイントの付与率もオンラインストアより店頭が高い。鈴木氏は「いわゆる『OMO』には注力せず、オンラインストアは顧客をつなぎ止めるための手段。もちろん、分かりやすさや買いやすさは大切にするが、あくまでもBAが店頭での接客に特化できるようにするために、店頭の価値を最大化するために、オンラインストアはある」と説明する。

オンラインストアのオープンを機に、百貨店各社が手掛ける化粧品のネット通販サイトとも連携を始める。「百貨店各社のIDとの連携も可能性はある。店頭での顧客体験の向上につながるからだ。一方で、大手百貨店が運営する化粧品のオウンドメディアへの関与は現時点で考えていない」(鈴木氏)。

あくまでも、店頭第一だ。鈴木氏は「IDが統一されると、買い回りなどの情報を踏まえて、より高いレベルで店頭での顧客づくりが可能になる」と期待を寄せる。金丸氏は「化粧品を買う時間を楽しんでほしい。その想いが、ずっと自分の中にある。化粧品は消耗品ではない。買う時間、使う時間が幸せな瞬間になってほしい。BAもそれが好きで入社している。そのチャンスをもっと増やしたい。BAには職業への喜びを、お客様には体験の喜びを提供する。そのためのDXだ」と力を込める。

同業他社と一線を画す“アルビオンらしいDX”は、2026年初頭から4月にかけて、具現化していく。

(野間智朗)