2026年 百貨店首脳 年頭所感・参
<掲載企業>
大丸松坂屋百貨店 社長 宗森 耕二

2025年は、物価高を意識した日々の生活に関する消費の節約志向は続いているものの、ライフスタイルの多様化を背景とした自身の価値観や嗜好性に基づく消費は堅調であり、個人消費は底堅く推移した1年でした。金利や為替変動などによる内外経済の先行きや物価上昇の長期化などによる国内、インバウンド消費の動向に注視しながら、当社グループでは24年から26年を飛躍的成長への「変革期」と位置付け、中期三カ年経営計画において、リテールの進化・シナジーの深化に取り組んでいます。集大成の最終年度となる今年は、さらなる躍進の年としたいと思います。
昨年は「感動共創」「地域共栄」「環境共生」を提供する「価値共創リテーラー」を目指し、当社の強みを生かしながら、様々な取り組みを進めてまいりました。大盛況のうちに幕を閉じた大阪・関西万博におきまして、会場内にオフィシャルストアを出店。百貨店の目利き力を生かし、様々なオリジナル商品を展開いたしました。
また、昨年は洋菓子企画企業とのジョイントベンチャーの設立や業務提携によりオリジナル商品を開発するなどのトライアルを行いました。当社として新たな一歩を踏み出すことで得た知見やネットワークを生かし、26年はさらに新しい価値の共創と拡張に取り組んでいきます。
個人金融資産の増加などによる活発な富裕層消費を受け、外商売上げの好調が続いておりますが、外商顧客向けクローズドサイト「コネスリーニュ」での特別商材の紹介や情報発信による若年富裕層へのアプローチの強化に加え、重点エリアでの顧客向け催事の強化など、本年もさらなる顧客エンゲージメントの強化に取り組みます。
26年は重点エリアの1つである名古屋・栄地区での展開が本格化いたします。24年に改装に着手した松坂屋名古屋店での次世代顧客のニーズに対応したリニューアルに加え、J.フロント リテイリンググループのパルコと共に、新たな感性が交差するラグジュアリーモール「HAERA」を初夏に開業。グループが一体となって強みを発揮し、エリアにおける競争優位性のさらなる向上に挑戦してまいります。
中期経営計画では「ヒューマン力を発揮し、心躍る体験価値を創造する」ことを基本方針に掲げ、これまで培ってきた百貨店の「店舗」と「人」が持つ強みを基盤に、人的資本経営を推進しています。
当社では従業員を重要な価値共創パートナーと位置付け、一人一人のWILLに寄り添い、取引先を含む全ての従業員にとって働きやすく魅力ある労働環境の構築に取り組み、会社と従業員が相互に支援・貢献していくことによって、共に成長していくことを目指しています。
価値共創を実践するために、従業員の能力を発揮しやすい環境や制度の整備に取り組み、メンバー一人一人が本来持つパワーを最大限に引き出し、一丸となって事業戦略を推進してまいります。
近鉄百貨店 社長 梶間 隆弘

昨年を振り返りますと、10月13日に閉幕した大阪・関西万博では、国内外から延べ2500 万人以上が来場され、当社が運営していた会場内オフィシャルストアも連日大盛況となったほか、本店内のオフィシャルストアや外商の取り組みなども加わって、万博関連売上げは当初目標を大きく上回る結果となりました。
さて、今後の重点取り組みについて、昨年4月に策定した中期経営計画に沿って4つ申し上げます。1つ目は、旗艦店であるあべのハルカス近鉄本店のリモデル推進による魅力の最大化です。非常にポテンシャルの高い商圏である「あべの・天王寺エリア」にお住まいの、あるいは訪問される方々の来店を促進するために、まずは来店頻度の高い食品売場の改装を実施します。特に惣菜売場はレイアウトを大幅に見直し、新たに15 ショップを導入するなど、12年ぶりの大規模改装を実施します。その後、上層階部分についても順次改装を実施していきます。
また、隣接するHoopについても、今春のリニューアルオープンに向けて順次改装を進めており、今後は、あべのハルカス近鉄本店・Hoop・and・あべのウェルビーイングテラスの4館が連携して、「あべの・天王寺エリア」の魅力を高めていきます。
2つ目は、外商部門のさらなる強化です。あべのハルカス近鉄本店を基盤として、近鉄沿線の優良なお客様に、当社の優良顧客になっていただくための取り組みに注力していきます。そのために、外商統括本部にプロジェクトチームを立ち上げ、近鉄グループの顧客データ基盤を活用し、近鉄グループの優良顧客の囲い込みを図ります。
3つ目は、地域店の収益安定化と、もう一段踏み込んだ構造改革です。ここ数年実施してきた構造改革により一定の利益を確保できる状況ではあるものの、地域店は常に周辺施設の状況に大きな影響を受けます。そのために、いかなる環境の変化にも耐え得るよう、さらに一段踏み込んだ構造改革を進めるほか、それぞれの地域の拠点として、単なる「モノ売り」にとどまることなく、来店頻度の向上を図ることができるようなコンテンツを導入するなど、さらなる収益の安定化を図ります。
最後に4つ目は、新たな事業ポートフォリオの創造です。既存の事業だけでは成長に限界があり、当社の将来の成長、発展に向けては、新たな収益源の開発が不可欠です。その1つとして、今回の万博での経験を活かし、お客様に「新しい価値」を届ける商社機能にチャレンジしていきます。
具体的には、万博で培った商品開発力を生かした、当社オリジナル商品開発ビジネスや、日本各地の素材、製法にこだわった産品や隠れた魅力を、あべのハルカス近鉄本店全館を使って発信する地方創生ビジネスを検討しており、北海道を皮切りにスタートさせていきます。
また、本年2月末日をもって、約60 年営業を続けてきた名古屋店「近鉄パッセ」が閉店いたします。1月10 日からは「28 年間ありがとう!さよならPass’e 閉店SALE!」が開催されます。
さて、本年は午年です。馬は人を乗せて遠くまで移動する姿から「人との結び付き」や「活発なコミュニケーション」の象徴とされています。「進む」という意味合いから、物事が順調に進展し、スピード感を持って変化していく年とも解釈されます。中期経営計画の2年目として掲げた目標に対し、各施策を力強くスピーディーに実行し、着実に成果を上げることを目指す当社の姿と重なります。(従業員には)部門や役職を超えて積極的に交流し、そのエネルギーを新たな価値創造に向け、一歩先の未来へと駆け上がってほしいです。
京阪百貨店 社長 畑中 利彦

昨年、当社は開業40周年という節目の年を迎えました。この1年、環境変化の大きい中にあっても、従来の延長線上にとどまらず、新たな取り組みにチャレンジしてまいりました。
その中であらためて実感したのは、地域に根差した百貨店として、地元のお客様や長年愛顧いただいている顧客とのつながりが、事業の基盤であるということです。また、厳しい状況下においても前向きに知恵を絞り、行動を積み重ねてきた社員一人一人の底力を、随所で感じる1年でもありました。
一方、業績面では依然として厳しい状況が続いています。これまで順調に推移してきたインバウンド関連の落ち込みが想定以上に大きく、収益に大きな影響を及ぼしました。しかしながら、基幹店である守口店1階・地階の食品を中心とした春・秋の改装は一定の成果を出しつつあり、新たな成長戦略の第一歩を踏み出すことができました。
日本の百貨店業界を取り巻く環境は、都心立地の店舗にてラグジュアリーブランドやインバウンド需要の影響などで潤ったものの、郊外立地の店舗を中心に商況の厳しさが続いており、当社を取り巻く環境もその例外ではありません。
また、日本国内全体での人手不足の状況に加えて、当社においては創業期から活躍してきた人材が一斉に卒業する時期を迎えており、我々の人員不足感はより一層厳しい状況にあります。
この厳しい状況を乗り越え、反転攻勢に出ていくためには、日々の業務改善にとどまらず、「顧客満足の向上」「収益構造の見直し」「業務の効率化」といった観点から、より踏み込んだ「変化」が必要です。
本年は、変化を具体的に検討し、着実に実行へと移していく年と位置付けています。守口店においては、差別化戦略として推進してきた直営売場を柱に百貨店らしさに一層磨きをかけるとともに、日常的にも来店・買上げいただける商業施設への変化を進め、次世代顧客の獲得に取り組んでまいります。
守口店以外の各店舗においても、地域特性や商環境の変化を柔軟に捉え、前例にとらわれない枠組みも視野に入れながら、将来を見据えた店の在り方を検討していきます。
また、人材育成施策を強化し、社員一人一人の心身の成長を促進します。これにより百貨店らしさに磨きをかけ、当社のブランドメッセージである「すがたも心もきれいな百貨店」を体現し、地域やお客様に愛される企業となれるよう取り組んでまいります。
天満屋 社長 斎藤 和好

昨年はグループの中核事業である百貨店事業が100周年という大きな節目を迎えることができました。
昨今、人口構成の変化に加え、消費の二極化、価値観の多様化やAIをはじめとするテクノロジーの進化により、百貨店のみならず、日本社会全体が大きな転換期を迎えています。地方百貨店を取り巻く環境も例外ではなく、スピード感をもった変革が求められています。
そのような中、都市圏とは異なる地方百貨店ならではの「新しい価値提供」をお客様に届けることを使命とし、昨年は「自らの未来を描き、成長を続ける」ことをモットーに基礎体力強化を目指しDX推進・地域連携・CS向上の3つを柱として、取り組んでまいりました。
DX推進では、業務の効率化と従業員のエンゲージメント向上を目指した従業員向けアプリを始動。AIを活用した業務マニュアルのデジタル化など、長年培った知的財産を組織全体の資産として共有・継承可能な形に変換するとともに、業務の効率化を図りました。
2年目を迎えた地域連携事業では、連携協定を岡山県、鳥取県の15自治体、2大学に拡大しました。小売りでの知見を生かした地域フェアの実施や商品開発、温泉施設の商環境のリニューアルをグループ企業が受託するなど、延べ50件以上の取り組みを実施するとともに、地域のニーズに的確に寄り添い続けていくために、4つの自治体に社員を派遣。職員と同じ現場で業務に携わらせていただくなど、地域と深い連携関係を築いてまいりました。
またCS向上においては「モノ消費からコト消費、トキ消費」へと無形の価値が重視される中、社員一人一人の人間性の向上が最重要課題と捉え、「人材の天満屋」を目指すべく、2025年を「教育元年」と位置付けました。
その施策の一環として、自社社員だけでなく取引先社員も無料で受講可能な販売力向上セミナーを実施。進物知識・包装技術など百貨店に必要な知識だけでなく、幅広いビジネス知識とコミュニケーションスキルの向上を目指したeラーニング講座を、自社制作コンテンツを含め、250種類以上に拡充しました。さらに勤務時間内に学習の機会を確保する「e-ラーニングアワー」の導入など、社員の主体的な学びと成長を促す取り組みを進めてまいりました。
百貨店として101年目の本年も、時代に応じた革新を重ね、従業員一人一人がそれぞれの役割を果たすことで、地域の皆様の暮らしがより豊かで喜びのあるものとなり「なくてはならない天満屋」と言っていただける存在で在り続けられるよう、天満屋連結グループ、天満屋ストア連結グループ、丸田産業グループを合わせた計36社の結束をより強固なものとし、29年の創業200周年に向けて歩みを進めてまいります。
伊予鉄高島屋 社長 林 巧

日本経済は緩やかな回復の兆しを示す一方、原材料価格の高騰や為替・金融市場の変動、地政学的緊張など内外の不確実要因の影響を色濃く受けています。個人消費に目を転じますと、生活必需品や価格感応性の高い分野では慎重な購買行動が続き、地域ごとに回復の度合いに差異が見られるなど、事業環境は依然として厳しさを帯びております。
このような環境の下、当社は昨年、百貨店としての魅力向上を目指し、売場リニューアルを基軸とした店舗MDの再構築に取り組み、時計やラグジュアリーゾーンの改装を契機に顧客性の高い婦人服や子供服のブランドの導入、紳士およびリビングゾーンの再整備を通じてフロアの回遊性促進と販売効率の向上を図りました。
併せて、話題性あるポップアップやデジタル販促、体験型プロモーションなどにより、若年層を強く意識したマーケティングを強化して来店動機の喚起を図ったほか、行政・経済団体と連携した初企画の「愛媛のめっちゃえ~けん」を開催し、地元の食・文化・情報の発信を行い、地域との一体感を醸成しました。
一方で、昨今の気候変動や商圏の構造変化など、新たな課題も顕在化しており、変化に迅速かつ的確に対応する重要性を強く認識しています。
迎える2026年においても、地方百貨店を取り巻く環境はさらに厳しくなると見込まれる中、当社はマーケットを直視し、お客様に支持される売場づくり、店づくりに精力的に取り組んでまいります。
そのために、食品の本格的なリニューアルをはじめ、婦人・紳士衣料やファッション雑貨などの継続的な売場改装を通じて館の魅力を高め、幅広い世代に訴求する品揃えを整備するとともに、当社独自の強みとする物産展や文化催事を組み合わせることで、新たな発見と楽しさを提供し、商圏顧客の支持獲得に努めていきます。
また、DXを経営戦略の中核に据え、デジタルを活用した発信力の強化により、顧客接点のチャネルを広げ、一人一人に寄り添った提案力の向上を図るとともに、複数年に亘る基幹・POSシステムの更新を着実に推進する中で、デジタルとアナログを融合した業務改革により、全体最適を追求した生産性向上と組織力の底上げを図っていきます。
本店が立地する松山市駅前の広場整備事業が26年度中に完成を迎えるに当たり、地元のお客様の生活に寄与する企業づくりを一層進め、地域社会と連携した施策を積極的に展開してまいります。これらを通じて、伊予鉄髙島屋の企業価値を高め、多様化するお客様ニーズに応えつつ、地域と共に持続的に成長する企業を目指してまいります。
鶴屋百貨店 社長 福岡 哲生

昨年、当社は「視点の多様化」を営業指針に掲げ、物事を様々な角度から分析するとともに、対策と実行を繰り返して、変化する経済環境に対応を進めてまいりました。
その中で婦人服や飲食店フロアにおいては改装を行い、お客様からの支持拡大に努めました。一方で、不採算部門の整理を進め、病院売店からの撤退やユニフォーム事業の縮小などで収益性の向上を図りました。
2026年の営業指針は「イノベーションによる価値創造」です。これは単なる利益追求ではなく、顧客のニーズや欲求を的確に捉え、それに応える新しい付加価値を提供することを意味します。顧客満足度を高め、競争力を強化するために、革新的なアプローチへ、全社で取り組んでいきます。
地方百貨店の存続が厳しい状況の中で、社員一丸となって共通の目標に向かい、従来の常識にとらわれない発想で、新しい価値を見出していかねばなりません。リスクを恐れず、あらゆる面でのイノベーションを敢行していきたいと思います。
日本百貨店協会 会長 好本 達也

2025年は世界の政治経済の不確実性が続く中、日本では少子高齢化の急速な進行、実質賃金の低下が続くなど、消費の力強さには欠ける状態です。また、生活者の消費行動の変容は一層顕著になっており、「こだわり」や「メリハリ」消費、サステナビリティへの関心の高まりやデジタル化の進展などにより、消費者の価値観は大きく変化しています。
このような環境変化の中、百貨店業界は「単に物を売る場」から「価値を創出する場」として進化し、業態価値を高めることが課題であると同時に、持続的な成長に向けた好機であると考えます。
当協会では「人の思いをつなぐ場としてさらなる進化に挑戦する」をスローガンに、強化事業として以下のことに取り組んでいます。
まず「まちづくり事業」は、百貨店が地域のプロデューサー(編集者)として、地元の良いモノを発掘して付加価値を高め、地域の活性化に貢献したいという思いで取り組んでいます。単なるモノづくりにとどまることなく、生産者らの思いやその背景にあるストーリーを紡ぐことでその価値を最大化するとともに、国内外に発信していきたいと考えています。
続いて「交流事業」では、百貨店の未来を担う若手育成を目指し、学びの機会の創出とネットワークづくりを目的とした活動を展開しています。多様なプレイヤーとのコラボレーションにより、百貨店業界ならではのカリキュラムを実践し、幅広い知識と技術の習得を目指しています。
さらに、専門家や関係省庁とともにAIなどの最新技術を活用した未来の百貨店像を研究する「DX勉強会」では、データ分析に基づいたパーソナライズや仮想空間における店舗の可能性を研究しています。
最後に、「百貨店システムの効率化・共通化研究」では、地方百貨店が各社個別に利用契約を結んでいる基幹システムなどに関して、コストパフォーマンスを高め、百貨店の現場に即したソリューションシステムの構築を実現すべく研究しています。
百貨店は長い歴史の中で、「伝統と革新」の下、事業を続けてまいりました。時代が変わっても変えてはいけない価値を維持しながら、時代の変化を先取りし柔軟に対応してまいりました。当協会は変化を恐れず、さらなる百貨店の進化に向けて挑戦してまいります。