大丸松坂屋、VIを初策定 ショッピングバッグや包装紙に採用
右からデザイナーの三澤遥氏、大丸松坂屋百貨店の宗森社長、寺井ブランディング戦略室長
大丸松坂屋百貨店は、大丸と松坂屋が経営統合して15年の節目に、ヴィジュアルアイデンティティー(VI)を初めて定めた。本店がなく、15店舗がそれぞれの地域に根差して共生する多様性を「百様(ひゃくよう)」と名付け、大丸の丸や「ピーコックブルー」、松坂屋の四角や「ロイヤルブルー」といったシンボルマークやイメージカラーを組み合わせた「百様図」として図案化。デザインは、日本デザインセンター三澤デザイン研究室主宰、三澤遥氏が手掛けた。VIはショッピングバッグや包装紙、ウェブサイトなどに採用。ショッピングバッグや包装紙の刷新は大丸が35年ぶり、松坂屋が23年ぶりで、7月30日に切り替える。
右が松坂屋、左が大丸の新しいショッピングバッグ
7月17日に記者発表会を開いて披露した。宗森耕二社長は「2010年に合併して15周年、飛躍の年だ。松坂屋名古屋店を大規模改装しており、来年は大丸心斎橋店が300周年を迎える。そのタイミングで、新たにVIを策定した。新型コロナウイルス禍を経て、大きく価値観が変化する中、当社が生き残り、進化を遂げるため、『私達らしさ』に立ち返った。(15店舗が)それぞれの土地で、お客様に寄り添い、商いをする。(その多様性を示す)今までにない、素晴らしいものができた。包装は時代とともに形を変えてきたが、気持ちと一緒にモノを届ける文化は継続していく」と力を込めた。
VIの策定を主導した、寺井孝夫ブランディング戦略室長は経緯と狙いを説明する。
「当社には本店がなく、土着的で多様なイメージの15店舗を有する。一方で、合併した10年以降、コーポレートとしての見え方に、ほとんど配慮してこなかった。店舗のイメージやアイデンティティーはある程度確立されているが、コーポレートとしてのイメージは希薄のまま年月が経った。百貨店業界は競合が激化しており、同質化やコモディティ化が進む。他社との違いを明確にする上で、何かしら統一的なイメージに揃えるべきではないかと考えた」
「“らしさ”とは何かを社内で論議し、外部の有識者とも学んだ結果、4つのまなざしを持っていると結論付けた。『気持ちへのまなざし』『うつろいへのまなざし』『土着へのまなざし』『歴史へのまなざし』だ。例えば、歴史へのまなざしとは、歴史や伝統に対するリスペクトを意味する。当社ならではの魅力を一丸となって強固にしていく。企業としての存在意義を明確にしていく。そのためにVIとして可視化した」
論議などは23年に始まり、24年に宗森社長がゴーサインを出し、ショッピングバッグや包装紙への反映も決まった。VIの可視化に際しては、デザインチームを発足。「1番フィットする座組みを用意してくれる」(寺井氏)と考え、故・川島蓉子氏に全体のディレクションを任せた。そこから吉泉聡氏がクリエイティブディレクターに名を連ね、同氏が過去に何度か仕事した三澤氏に白羽の矢が立った。寺井氏は「本質的な所から考えてくれる」と信頼を寄せる。
三澤氏がデザインのポイントを語る。「名前からオリジナルで、曼荼羅(まんだら)や万華鏡のように様々なデザインが1つに収まっている。従来のショッパーは大丸と松坂屋で全く異なるが、大丸の丸とピーコックグリーン、松坂屋の四角とロイヤルブルーを残しながら1つにした。見えてきた共通項は『お客様に寄り添う』と『価値の提供』。(デザインは)紙から丸や四角を“抜く”という方法を採り、ありきたりな(素材や形である)紙や丸、四角から1年以上試行錯誤し、百様が生まれた。スケッチからでなく、実際に紙を身体で動かしてつくった」
完成した百様を見た寺井氏は「今まで出会っていない、パワフルなデザインだと衝撃を受けた」という。
このVIは、ショッピングバッグや包装紙などの包材に使用。ショッピングバッグは大中小の3種類で、大丸福岡天神店を除き無料で提供する。15店舗で共通だが、包材の刷新を客に伝えるメッセージは個別に用意。14種類のメッセージを手掛けたコピーライターの長瀬香子氏は「各店を巡り、ヒアリングして、『大丸松坂屋百貨店からのラブレター』を作成した。各店で内容は異なり、地元の人が地元について考える時間が生まれたら嬉しい」と想いを語った。
今後は包材だけでなく、ウェブサイトや「大丸・松坂屋アプリ」などにもVIを組み込む。宗森社長は「当社は26年度までを変革期と位置付けており、将来の飛躍に向けて従業員の“インナー”にも訴えかけられる」と、VIの効果に期待する。目的は包材の刷新ではない。大丸松坂屋百貨店としての一体感の醸成であり、社内外に対する変革と飛躍への決意表明だ。
(野間智朗)