関西の百貨店 大阪・関西万博を盛り上げ、地域に貢献【前編】
大阪・関西ならではのユーモアを散りばめつつ、日本の美意識を感じさせる大丸松坂屋百貨店のオフィシャルショップ
1970年のアジア初開催となった万国博覧会、大阪万博(EXPO’70)から55年。158の国と地域、7つの国際機関が参加する「2025年日本国際博覧会」、通称「大阪・関西万博」が4月13日に開幕した。5月6日には一般の来場者数が200万人を突破。10月13日まで184日間にわたって大阪の夢洲(ゆめしま)で開催される世界的な一大イベントに、大阪を中心とした関西エリアは盛り上がりを見せ、同エリアに構える百貨店もその恩恵を受けている。
開幕前から話題は尽きず、1月19日には会場へのアクセスとして大阪メトロの中央線延伸で夢洲駅が開業した。会場跡地は統合型リゾート(IR)が開業する大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備計画も控える。会期中の来場者は2820万人、うちインバウンドは350万人が想定されており、経済産業省は経済波及効果を全国で2.9兆円と見積もっている。
この盛り上がりに貢献しているのが関西屈指の百貨店群だ。企業パビリオン協賛、プロジェクト参加、リニューアルによるにぎわい創出など、近鉄百貨店、高島屋、阪急阪神百貨店、大丸松坂屋百貨店らはの様々な取り組みを行っている。当記事はそれらについて取り上げ、前編は会場内でのオフィシャルショップや設備についてまとめる。
大丸松坂屋のオフィシャルショップは、元禄時代の大店をオマージュ
和紙を裁断し、繊維を撚って糸にした和紙糸を使用した大暖簾がたなびく
大丸松坂屋百貨店は万博を「日本の文化や魅力を再発見し、世界へ発信する絶好の機会」と捉え、東ゲートゾーンに「2025大阪・関西万博 会場内 オフィシャルストア 東ゲート店 大丸松坂屋百貨店」をオープンした。「来場者の心に残る特別な体験を提供すること」を目指し、日本の伝統・文化が上方から全国、やがては世界へと広まる起点となった元禄時代に着目。「元禄時代の大店(おおたな)/EXPO2025 Ver.」をコンセプトに掲げ、外観に大暖簾を取り入れ、店内には「風神雷神」をモチーフとしたねぶたや提灯ウォール、力士のディスプレイなどを施している。
大人気のミャクミャクのフィギュア入りカプセルトイ。ほかにも菓子や雑貨、日本の伝統工芸品など幅広く揃う
展開面積は約560㎡。長年培ってきた百貨店のノウハウを生かし、デパ地下で人気のスイーツやアパレルブランドとのコラボ商品、大阪や関西ゆかりのアーティストによる作品、日本の伝統工芸品といった同店でしか購入できないオリジナル商品を約200種類も揃える。担当者は「こんなブランドとのコラボ商品があるのか、と驚きや喜びの声を頂いている」と話す。ミャクミャクのフィギュア入りカプセルトイも人気で、「開幕以来、連日多くの来店があり、時間帯によっては入場制限を行うほど。売上げも目標を上回り、万博の盛り上がりを肌で感じている」と語り、感無量とのこと。会場の中央部に位置する「静けさの森」ゾーンにサテライトのオフィシャルストアもオープンしており、両店舗に足を延ばすのも万博ならではの楽しみ方だ。
大阪・関西らしい意匠、ミャクミャク百“価”店を展開する近鉄百貨店
近鉄百貨店は、地域共創をテーマに全国各地の企業やブランドとの連携を深めてきた。その取り組みを生かしてオープンしたのが、「2025大阪・関西万博 会場内オフィシャルストア 西ゲート店 KINTETSU」だ。展開面積は約504㎡。奈良の老舗「中川政七商店」とコラボし、日本の工芸で表現したミャクミャクのオブジェや全国の銘菓の限定パッケージ商品など、地域の魅力を世界に伝えるべく、オリジナル商品を展開している。
近鉄百貨店は、大阪・関西の特色を随所に感じさせる意匠を凝らし、地域の魅力を発信する
店内では約2000種類の商品を販売し、内300種類は同店のオリジナルだ。今後も季節商品やキャラクターとのコラボといった新商品の販売を多数予定している。「ミャクミャク百“価”店へ、いらっしゃい!」をストアコンセプトに、「『えーやん!』と言っていただけるような買い物体験を提供したい」と担当者は語る。初日から連日想定以上の来店があり、菓子やぬいぐるみなどの定番アイテムはもちろん、万博会場内で身に着けて楽しむミャクミャクをモチーフにしたカチューシャやハットといったコスチューム商品も人気を博している。同ショップが位置する西ゲートは、夢洲駅から遠いという集客に不利な要素もあるが、売上げは好調だという。
空間デザインにもこだわりがある。木を使った自然の温もりを感じる演出がされており、暖簾や和紙にミャクミャクをあしらった斬新な装飾もある。日本の伝統的な素材を新たな魅力で未来へとつなぐのが狙いだ。オブジェや什器は近鉄沿線の間伐材を用い、再生利用可能な陳列棚を採用するなど、会期終了後の廃棄物を極限まで削減するよう試みている。万博が目指す「環境配慮型の店舗」としてサステナビリティも体現している。
阪急阪神百貨店は、関西とともに成長し、未来を創造する
阪急阪神百貨店を傘下に収めるエイチ・ツー・オー リテイリングは、大阪・関西万博について「関西とともに成長し、未来を創造する絶好の機会」と捉えている。「TEAM EXPO 2025」プログラムの共創パートナーとして、地域社会との連携を深め、サステナビリティ経営方針に掲げる「地域の絆」「地域のこどもたち」「地域の豊かな自然」をテーマにした取り組みを推進する。
「想うベンチ」は一等材からパルプとして利用される木材までを活用。3種類のデザインが誕生した ©2025 衣笠名津美(提供:エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社)
具体的には、21年より大阪府と進めてきた「大阪 森の循環促進プロジェクト」を発展させた。大阪府内産の木材を活用し、森や木について知ってもらいながら実際に触れる機会を提供し、関わる人々の拡大を目指す一環として、「想うベンチ ―いのちの循環―」プロジェクトが採択され、3人のデザイナーが大阪府内産の木で製作した「想うベンチ」16台を静けさの森ゾーンに設置。会期終了後も地域の人々が絆を深め「いのちの循環」に思いを馳せる場にと、府内に移設予定だ。ほかにもパソナグループが出展する「PASONA NATUREVERSEパビリオン」に協賛、「ジュニアSDGsキャンプ」に協賛・参加する。
食材の一部に大阪府内産の食材「大阪産(もん)」を使用した「フードトラック」の出店でも会場を盛り上げる。大阪発の名品タコ焼きを多国籍風にアレンジし、地元産三晃ソースを使用した「多国籍!タコ焼きロール」、大阪産はちみつを使用した「ホールフード レモネード」を提供し、大阪や日本の食の魅力を届ける。
フードトラックでは「大阪産もん 和牛の牛肉どまん中丼」も登場する(画像はイメージ)
担当者は「地域への貢献を使命と考え、一過性のイベントとして終わらせるのではなく、未来を見据え、地域社会の一員として万博の成功に貢献し、万博のテーマである『いのち輝く未来社会』を創造したい」と語る。「会期終了後も続く地域の活性化、ソフトレガシーの創出を期待する」と意気込む。
(都築いづみ・北野智子)