2024年12月03日

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三陽商会、男女複合ショップが好調 新客獲得の起点に

「ポール・スチュアート」の売場。レディースは婦人服のフロアから移設している

今年3月に誕生した、松屋銀座店の男女複合型アパレル売場。紳士服・雑貨のフロアの約45%を男女複合型へ変えるという挑戦的な取り組みだが、全12ショップのうち3ショップは三陽商会から出店している。三陽商会にとっても百貨店の男女複合型は初めてだったが、売上げは好調。顧客がパートナーと来店することで新たな購買につながるケースも多く、男女複合型ならではの効果が生まれている。

松屋銀座店5階に構える男女コンバイン型の売場は、コロナ禍などによって消費者の価値観や行動が変化したことを受けて新設された。松屋によると「テレワークの浸透などで、スーツの着用機会や仕事帰りの買い物が減った。一方で、週末に夫婦やカップルで買い物を楽しむ方が増えている。これを踏まえ、お客様が買いやすく、一緒に楽しめる売場にした」という。

男女複合型売場の全体図。上部に「ポール・スチュアート」、「ブルーレーベル/ブラックレーベル・クレストブリッジ」、下部に「マッキントッシュ ロンドン」がある

三陽商会も、男女複合型の売場に勝機を見出した。アウトレット施設に出店している同社のショップは全て男女一体型で、家族で買い物をする光景がよくみられる。「百貨店でも、女性が買い物している間に待っている男性や、メンズブランドを代理購買やギフトで購入する女性は多い。こうしたお客様を取り込む良い機会だと考えた」と加藤郁郎取締役兼専務執行役員は語る。

松屋には以前から「ポール・スチュアート」(メンズ)、「マッキントッシュ ロンドン」(メンズ)、「ブラックレーベル・クレストブリッジ」を5階で、「ポール・スチュアート」のレディースを4階の婦人服売場で展開していた。今回の改装で4階の「ポール・スチュアート」を5階へ移し、「マッキントッシュ ロンドン」のレディース、「ブルーレーベル・クレストブリッジ」を新規に導入。昨秋から今年3月にかけて順次、男女複合型売場としてオープンした。

「ポール・スチュアート」の売場の全景。エスカレーターで上がると目に入る左側をレディースのスペースにした

グランドオープン後の3~5月は、3ブランドとも客数が改装前より増加。売上高(3ショップ計)も計画値を上回って推移した。特にメンズは、他の百貨店に比べて伸び率が高い。女性客が夫や彼氏を連れて来て購入に至る事例も多く、男女複合型の恩恵を大きく受けている。

長らく男性向けだったフロアへ女性客が来るハードルは高く、売上げを逃す懸念もあったが、配置や品揃えを工夫。女性も来店しやすく、売上げを確保できる環境を整えて対策した。ポール・スチュアートのレディースは4階で展開していたため既存顧客が付いており、ある程度の売上げが見込めたが、「5階に上がってきたお客様が『紳士服の売場だ』と誤解し、そのまま引き返してしまう恐れがあった」(加藤専務)。エスカレーターで上がってすぐの場所にレディースのアイテムを置き、視認しやすくした。

こうした売場配置と既存顧客へのアプローチによって、レディースの売上げは前年並みを維持。他方で、メンズは大きく伸長している。売場面積や人員は改装前のメンズ・レディース合計よりスリム化しているため、面積あたり、人員あたりの生産性は大きく高まったことになる。

「マッキントッシュ ロンドン」はレディースが新規導入のため、ビジュアルで見せつつ商品数は抑えて展開している

マッキントッシュ ロンドンはレディースが新規導入となるため、レディース商品は約3割に抑えた。目立つ場所にレディースのアイテムを置き、婦人服も扱っていることを訴求するが、まずは男性客の同伴のパートナーなどをターゲットとし、売上げや認知度を徐々に高めていく計画にした。

しかしレディースは、計画値を大きく上回る売上げを達成。「完全な新客ではなく、ブランドの価値をすでに分かっているお客様が多い印象を受ける。元々メンズがあることは大きい」と加藤専務は指摘する。メンズだけでなくレディースもまた、男女複合型のメリットはあるようだ。

ブルーレーベル・クレストブリッジも新規導入だったが、同ブランドはインバウンド(訪日客)の売上げ構成比が高い。訪日客が多い銀座という立地も踏まえ、雑貨など訪日客から人気の高い商品を手厚く揃えたことが売上げにつながった。

「カップルや夫婦の来店が、新客獲得のきっかけにもなっている」と語る加藤郁郎専務

プラスの効果が多く現れる一方で、課題もある。女性のフリー客が少ないことだ。「売場オープン前からの懸念点でもあった。今後さらに女性が入ってくる売場づくりや仕掛けを行う必要があり、松屋や他のショップとも積極的に協力していきたい」と加藤専務は述べる。

他の百貨店での展開については、「やはりフリー客が入りやすいかどうかというのは大きい。当社単独では難しいが、他の取引先も一緒であればトライしたい」と話す。最近の百貨店では、従来の商品分類や手法にとらわれない売場が増えている。「各店のコンセプトや方針に合わせて私達も運営方法を考え、共に売場をつくっていきたい」考えだ。

(都築いづみ)