2024年05月02日

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京王百貨店、新機軸のソーシャルギフトで新たな需要や客と“接続”

店頭ではPOPを付けて利用を促進

若年層を中心にSNSなどを通じてギフトを贈る「ソーシャルギフト」が浸透する中、京王百貨店がその需要の取り込みに本腰を入れた。今春に「京王コネクトギフト」を開始。新宿店の売場の商品をメールやSNSで贈れるようにした。

京王コネクトギフトに対応する売場は新宿店の地下1階~地上7階で、全体の約8割に上る。常温以外の冷蔵品や冷凍品、高額品、大型品、海外発送品などは除く。利用する際は、商品の代金に加えてサービスの利用料兼送料として880円が必要だ。

使い方は、まず対象売場で商品を選び、会計時に京王コネクトギフトの利用を希望する。商品の代金と880円を払い、名前やメールアドレス、電話番号を伝えれば、受付は完了。午後6時までの受付で当日に、以降は翌日に京王コネクトギフトからメールが届き、添付されたURLにアクセスして名前や住所などの情報を入力すると、「受取用URL」が発行される。それをメールやSNSなどで贈りたい人に示す仕組みだ。贈られる側が名前や住所などを登録すると、最短で3日前後で商品が発送される。

「新型コロナウイルス禍で当社は電話で注文してインターネットで決済できる『NET de PAY(ネットでペイ)』を立ち上げたが、軌道に乗りつつある。さらなるOMOを考えた時に、畑違いの何かにトライするよりも、対面販売や自主編集売場を含めた商品数、提案力、のれんといった当社の強みを最大限に生かすべきだと結論付けた。そしてその具体的な方法が、店頭から贈れるソーシャルギフト。当社は2020年9月から『LINEギフト』に順次出店しているが、多い月で1万2000件の注文がある。ニーズは多い」

酒井道宏事業開発室ECカスタマーサポート担当は、京王コネクトギフトを立ち上げた経緯と勝算を明かす。京王百貨店の中心顧客はシニアやミセスであり、ソーシャルギフトとの親和性には疑問符も付くが、酒井氏は「贈り手は年配に限らず、店頭で見てもシニアやミセスはスマートフォンを使いこなしている」と強調する。

専用のネット通販サイトを立ち上げるのではなく、新宿店の売場から贈れるようにした理由も明確だ。「(現状の百貨店業界では要員や物流などの問題で)ネット通販サイトの品揃えに限界がある。例えば、当社はLINEギフトにカジュアルギフトの『てのひらギフト』、酒類の『京王リカークラブ』、産地直送品の『Keioごちそう便』、菓子などの『Keioデパチカマルシェ』、子供関連の『Keioベビーギフト』の5ショップを構え、商品は約1200種類を数えるが、新宿店の売場が加わるとソーシャルギフトの品揃えは数千倍に膨らむ。選択肢の多さだけでなく、贈り手が相手に気持ちやこだわりを伝えるなら、事前に商品に触りたいはず。そういうシステムやサービスをネットで検索しても見付からなかった。だからこそ、当社が先に手掛ける」(酒井氏)

京王コネクトギフトには取引先も協力的だ。ネットでペイの好調が効いた。新宿店の化粧品売場ではネットでペイを使って慣れ親しんだ商品を定期的に買う客が増えており、ブランドショップもSNSなどで利用を訴求。同店にとっても、ブランドショップにとっても、客との新たなタッチポイントが生まれた。タッチポイントが増えれば、商機も増える。京王コネクトギフトにも、同じく新たなタッチポイントとして期待を寄せる。

そもそも、取引先の業務が増えるわけではない。京王コネクトギフトの利用を受け付けたら、通常の配送伝票を書いて京王百貨店の「デジタル推進担当」に渡すだけだ。ネット通販サイトと異なり、商品を登録するなどの作業はない。売場の負荷を極力減らし、取引先とのウィンウィンの関係を目指す。

目下、店頭に看板を出したり、SNSで告知したりして利用を促進中だ。酒井氏は「対象の売場を増やす、より説明を分かりやすくする、配送伝票をデジタル化するなどで利便性を上げながら、定番的なサービスとして根付かせる」と意欲を燃やす。

LINEギフトでの売れ筋は高額品が中心という。しかし、いわゆる「プチギフト」の中心は1000円台とされる。プチギフトの定番といえるハンカチを贈るなら、色柄を自分の目で確かめられ、同じ婦人洋品売場内ならストールや靴下など他のアイテムとの買い回りも自在な店頭にメリットがある。京王コネクトギフトは、その名の通り京王百貨店を新たな需要や客と接続させていくに違いない。

(野間智朗)