2024年12月07日

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「百貨店再生」改革・戦略に拍車 2022年百貨店業界回顧

※以下、弊誌「ストアーズレポート」2023年1月号の抜粋です。


2022年(令和4年)の百貨店業界を振り返ると、コロナ禍前の業績水準への早期回復と再成長への転換に向けて各社各様に粛々と進めてきた「百貨店事業の再生」戦略が、売上げ回復と相まって加速してきた年と言えよう。

新たな中長期経営計画を策定して再出発している大手百貨店は、都市部の基幹店がけん引して22年度上期の売上げが想定以上に回復し、営業利益は「V字」回復を果たした。通期業績予想を上方修正して、下期商戦に臨んでいる。

コスト構造改革とともに、改装やデジタルなどに重点投資した攻めの経営・営業戦略が結実してきた。デジタルを活用した「マス」から「個」へのマーケティングあるいはマーチャンダイジングが進展し、外商(お得意様)顧客やハウスカード顧客など組織顧客との関係性が深まってきた。外商顧客の若返り、ミレニアル・Z世代の開拓も進んできた。業界は未だ回復途上だが、ウィズ・コロナ下の「再生」から「再成長」へのフェーズに移りつつある。

回復軌道がより鮮明に、コロナ前を超える高額品

日本百貨店協会の調査による22年1~10月の全国百貨店の売上高前年比(既存店ベース)は15.8%増、20年比では21.6%増となり、回復基調が鮮明だ。ただコロナ禍前の19年比では13.2%減で、コロナ禍前の「9掛け」に届いていない状態だ。しかしながら1~6月の19年比は15.8%減だっただけに、着実な回復軌道を描いてきている。

周知のようにコロナ禍が直撃した20年暦年(1~12月)の全国百貨店売上高は4兆2204億円、前年比25.7%減となり、過去最大のマイナス幅を強いられた。金額にすると1兆5342億円も減少しており、20年の地方都市(10都市以外)の累計売上高(1兆2721億円)を凌駕する規模だ。

次いでコロナ禍2巡目の21年売上高は4兆4182億円、前年比は5.8%増。コロナ禍前の19年比では21.5%減となり、「8掛け弱」の回復にとどまった。金額では前年より1978億円増えた程度で、20年の減額(1兆5342億円)のうち13%弱の挽回額に過ぎない。この21年と比べると、22年は10月までの段階だが、回復の勢いが加速してきた格好であろう。

22年の主要品目別売上高(1~10月)では、身のまわり品(前年比30.2%増)と雑貨(同17.1%増)の伸びが高伸長で推移し、雑貨の中でも美術・宝飾・貴金属の伸び(同27.2%増)が際立つ。身のまわり品にラグジュアリーブランドの売上げが含まれており、両品目では高額品消費がけん引した。身のまわり品の19年比は1.1%減で、コロナ禍前の水準まで回復。雑貨の19年比は、当時インバウンド需要で賑わった化粧品(35.1%減)が足かせとなり、15.8%減。ただ美術・宝飾・貴金属では15.8%増も伸びており、既にコロナ禍前を大幅に上回っている。

また22年は衣料品も高伸長(前年比17.3%増)で推移している。特に婦人服(同20.2%増)と紳士服(18.2%増)の伸びが際立つ。消費マインドの回復と外出機会の増加を背景に、ファッション関連消費が戻ってきた。ただ19年比では紳士服が24.2%減、婦人服が18.5%減、衣料品が21.0%減という「8掛け状態」にとどまっている。まだ復調途上であり、その活性化策も道半ばだ。

店舗構造改革を継続 成長フェーズへの道筋も

22年は前年に続き、リアル店舗の磨き上げに向けた店舗構造改革レベルの改装が相次いだ。特に地方都市、郊外立地の百貨店で全館規模改装が目立った。コロナ禍の劇的な消費環境の変化で、リアル店舗の弱みが露呈されたものの、改めて対象顧客が関心の高い体験価値を提供できる魅力的なリアル店舗がなければ、オンラインショッピングの拡大、あるいは組織顧客化、その顧客との関係性の深化も難しいことがわかってきた。各々培ってきた「百貨店ブランド」は健在であり、その継続的魅力化策は不可欠だ。

さらに20年度、21年度は多くの百貨店が赤字を強いられただけに、黒字化とコロナ禍前の水準への業績回復を最優先にした百貨店運営モデル改革、店舗構造改革は待ったなしの状況。改装の活発化は、取り巻く環境の劇的変化に適応していかなければ生き残っていけない危機意識の表れでもある。

改装で強化している領域は、「ラグジュアリー(特選・時計・宝飾)、ビューティー(美と健康)、フード(食・飲食)、アート・カルチャー」で、これらにコロナ禍で台頭してきたイエナカ需要に対する「リビング・生活雑貨関連」と、健康に通じる「スポーツ」領域の強化も加わってきた。

そして強みが発揮できる領域に特化した百貨店MDと専門店との融合による店舗構造改革も加速してきた。この融合に加え、リアルとオンラインとの融合、地域との融合(共生)といった、いわば「ハイブリッド型の新しい百貨店モデル」の構築が店舗改革の潮流だ。そこにはこれまでの「枠」にとらわれない「モノ・コト・トキ」要素も付加される。

また、首都圏では大規模再開発によって基幹店が縮小や閉店を余儀なくされている。小田急百貨店の新宿店本館が22年9月末で営業を終了し、新宿西口ハルクに移設して営業を継続している。東急百貨店は再開発によって本店が23年1月末で閉店する。大型複合施設が27年度に完工する予定だが、この商業ゾーンには「洗練されたライフスタイルを提案する商業店舗」が構築される。

そしてセブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武は米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却される(実行予定23年2月1日)ことが明らかになった。フォートレスはヨドバシカメラ・ホールディングスと連携して、そごう・西武の事業基盤を強化していく考え。様々な憶測が流れているが、これは、「百貨店の企業価値(潜在価値)」が一定の評価を受けているとともに、百貨店が再生途上にあることを物語る売却劇と捉えられよう。

百貨店は過渡期の真っ只中にいる。22年は消費マインドの復調とともに、「百貨店復活」への基盤が整備されてきた年でもある。引き続き高額消費は堅調で、秋以降、インバウンド需要が戻りつつある。23年は前年の回復基調を維持しながら「百貨店復活」を遂げることができれば、24年以降の成長への道筋をつけていくフェーズに入ってこよう。

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