夏のセールは縮小、プロパー販売強化へ 百貨店クリアランスの現在地
猛暑の影響もあり、実需買いの傾向は強まっている(画像はイメージ)
百貨店のセール商戦はここ数年で大きく変化している。これまでは夏は6月末、冬は12月から大々的に行うのが通例だったが、サステナブル意識の高まりや、消費行動の変化などが重なり、期間や規模は縮小。とりわけ夏のセールは、7月に始める店舗が増えている。縮小したセール商戦の商況はどうなのか、今後はさらに変化するのか。大手百貨店にアンケートを実施し、最新の実態を探った。
調査対象は、東京と大阪の大手百貨店。質問内容は①ここ数年のセール期間や規模の変化(冬のセールも含む)②今夏の商戦の内容や客の購買動向③セールは今後どうなっていくと予想するか――の3点について回答していただいた。
阪急うめだ本店、「初夏」「盛夏」「晩夏」MDに挑戦
近年は「セールだから買う」より、「欲しいときに購入する」消費動向が顕著となり、さらに夏が長期化・高温化していることから、抜本的にMDカレンダーを見直したのが阪急阪神百貨店である。同社は「阪急うめだ本店の婦人ファッションでは、国内ブランドで①MDサイクルの見直し(夏パッケージ数増)による正価販売の拡大②それに伴うセールの縮小――を2024年の春夏シーズンから進めている」と回答した。
阪急うめだ本店では従前、4月頃~7月中旬にかけて「夏MD」、6月末または7月上旬から夏のクリアランスを展開し、7月中下旬に「初秋MD」へと移行していた。しかし24年は4月上旬~5月下旬を「初夏MD」とし、5月末から「夏MD」を展開。これらのクリアランス開始を7月第3週に移し、一方で6月下旬からさらに「盛夏MD」として、鮮度のある正価商材を取引先と協業し売場に投入した。
その結果、「昨年は特に7月に正価商材の売上げが伸長し、例年勢いが鈍化傾向のセールの売上げをカバーすることに成功した」という。今年は全館レベルでは第1弾を6月下旬~、第2弾を7月中旬~、という2段階でセールを展開し、8月中旬から「晩夏MD」の商品を投入。長期化する夏に対し、短サイクルで鮮度ある商材を提案することにチャレンジしている。
今後については、「『寒いから、暑いから』といった気候変化に対応する『ソリューションニーズ対応』だけでなく、『ファッションを通じて自分を高めたい』と願う、ファッション先行顧客の『エモーション(感情)に訴えかける提案』が必要」と述べる。「短いMDサイクルで、鮮度の高い提案をし続けることが百貨店が今後なすべき、またファッションを盛りあげていくための方向性ではないか」との見解を示した。
セール品の生産が減り、7月開始に後ろ倒し
松屋銀座店も24年にセール時期を変え、例年より3週間遅らせた7月19日に開始。今年も7月中旬にスタートした。商況は「昨年はセールの売上げが減少した反面、プロパーが好調だった」という。ただし、今年は全体的に減少。同店は免税売上高のシェアが高く、インバウンド客の動向が大きく影響しているため、「現段階ではまだ深い分析ができていない」と答えた。
セールの今後については、「業界全体で、夏のセールは過渡期になっていると感じる。プロパーの展開も大きく変化し、最近は8月でも夏物衣料が、色味などを秋仕様に変えて売っている。ただし、秋冬らしいディティールの商品を好む顧客もいる。当店はクラシカルなアイテムが人気な傾向にあり、別注や先行予約などを実施している」と述べ、MDカレンダーのあり方の変化を指摘した。
近鉄百貨店も、あべのハルカス近鉄本店に関して「夏のセールは後ろ倒し傾向にあり、アイテムやブランドごとにスタート時期が割れるようになった」と回答。今夏は「7月前半は暑さで苦戦したが、後半からやや持ち直した。ファッションに関しては、セールでもプロパーでも、その時に欲しいものを購入する傾向にある」と答える。メーカー側がプロパー消化率を高めるために過剰な生産を控える傾向にあり、セールのためのモノづくりはなくなってきているという。
一方で、冬のセールは変わらず1月の初売りで一斉スタートし、盛り上がりがあると話す。「暑さの影響で、夏だけで2シーズン(夏、盛夏)のカウントをする傾向があり、夏を通しての大きなセールタイトルは減ると予測する。反対に冬のセールは、初売り、福袋、ご褒美消費などと併せて商機があると考える」と、冬商戦の盛り上がりは持続すると見通す。
アパレルメーカーも利益率を重視し、生産体制や在庫の持ち方を見直す企業が増えている(画像はイメージ)
従来通り6月末スタートの百貨店も
期間を変えていない百貨店もある。高島屋は、今夏は6月27日~7月8日の2週間で、開始時期は「大きな変化なし」と回答。会期中は出足が鈍かったものの、クリアランス会期終了後もセールの需要があり、全体では想定内の売上推移だった。ただし「今後、セール品が拡大するとは考えにくい」と考え、長い夏を意識した商品対策が増えると予想している。
京王百貨店は「夏は6月後半から、冬は12月後半から、プレセール含め各取引先の状況でセールを段階的に開始している」と答えた。今夏は6月27日~7月9日に開催し、セールは前年割れの一方、プロパーは好調に稼働した。今後は「セールの売上げ規模はコロナ前水準には戻らないと想定し、顧客を限定したシークレットセールや定番品、ジャストシーズン品などによるプロパー売上げの拡大が重要とみる」との考えを示す。
東武百貨店は、「池袋店では例年サマーセールを6月下旬、ウィンターセールを1月の初売から開催している。今夏は6月27日~7月16日を第1弾、7月17日~8月6日を第2弾として開催した」と回答した。今後については「期間は一斉ではなく、前倒しや分散化がますます浸透していくと予測する」と答える。
今夏の商戦ではまとめ買いが減少し、セールでも欲しいものだけを購買する傾向がみられたという。「値下げ自体より『特別感・早く買える権利』が来店動機につながる傾向にある」と分析し、集客策に関して「①イベント要素(イベント要素を踏まえた体験型・参加型セールへの転換)②デジタル活用(ECで取り置き&店頭受取りなどオンラインとオフラインの連携強化)③会員限定施策(カード会員、アプリ会員に対する先行セール・顧客限定セール企画など)――などを組み合わせて実施していくことが必要と考える」と構想を明かした。
プロパーの売上げ伸長が目立つ
そごう・西武もスタートの時期は変えず、今夏のセールを6月27日~7月7日をコア期間として、例年並みに展開した。ただし近年は「ファッション領域ではアパレルの盛夏プロパー拡大に伴い、スタート時に合わせたセール実施ブランド・セール対象商品量ともに数%程度減少」している。
今夏は訪日客による高額消費の低迷、物価高騰の影響による非メンバーズの買上げ単価減少が見られ、1品単価・1客単価ともに減少した。また、値下がりした春~初夏物衣料より、サングラスなどUV関連商品のように、値下げしないが今活躍するものに購買動向がシフト。プロパーの伸長率がセールの伸長率を上回った。メーカーが生産を直近型へシフトしていることもあり、セール対象在庫の縮小は続き、「百貨店および小売りのセール展開の縮小・分散化(後ろズレ)はより顕著なものとなる」と予測する。
大丸松坂屋百貨店も、「開始時期にあまり変化はない。6月後半か7月初旬のどちらかで、曜日の並びにも左右される」と回答。取引先によって異なり、明確なセール期間というものを設けていない。今夏のセールは「今年の6月27日~29日を前年の同曜日(6月28~30日)と比較すると、ラグジュアリーブランドを除いた婦人服(いわゆるボリュームゾーンの婦人服)では、定価が1割強前年を上回った。特価は約1割前年を下回り、店頭合計では前年を若干上回った」状況だった。
客の購買傾向としては「数年前から、クリアランスで値下げされた商品より、自分が欲しいものに投資するスタイルに変わっている」と語り、夏の長期化も踏まえて、今後は「立ち上がり数日間で集客をかけて売り切るような手法ではなく、売れ行きを見ながら徐々にセール対象商品を増やしていく長期戦になっていく」と見込む。
実需シフトが加速、対応は待ったなし
回答を見ると、意外と夏のセール開始時期を変えていない百貨店が多い。セールを行うメーカー・ブランドの数や規模は減少傾向にあるとはいえ、メーカーによって状況も異なるため、それに合わせる必要もある。
商況や傾向をみると、多くの百貨店でセールの売上げは減少し、プロパーの売上げは伸長した。また、記事では一部割愛したが大半の百貨店が「セールの縮小、後ろ倒し・分散は続く」「プロパーであっても今欲しいものを買う傾向が強まっている」と回答しており、プロパー販売の重要性が高まることは間違いない。しかし実需買い、とりわけファッションアイテムは気温や天候によって売れ行きが大きく左右される。小売業・メーカーともに、状況に応じた柔軟で素早い対応が求められそうだ。
同時に、シークレットセールや先行セール、先行受注会など、ロイヤルティーの高い顧客に向けた施策の重要性を指摘する声も多かった。人の好みが多様化していることもあり、改めてブランドや商品の魅力を磨き、顧客を囲い込むという‟王道”の取り組みの比重が増している。
(都築いづみ)