2024年12月04日

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TOTOのトイレ提案セミナー、快適性向上が集客へのカギ

様々な身体状況のある利用者に向けて、安全で使いやすいトイレ空間の必要性が高まっている

トイレが集客のカギを握る――。TOTOがトイレ環境を紹介するオンラインセミナーが好評を得ている。住宅をはじめ、学校、オフィス、病院など、あらゆる建物を対象にテーマを設定。2月にオンラインで配信した「商業施設編」では、利用者のアンケートや配慮ポイント、最新の現場事例に、同社の施設映像も組み込み展開した。商業施設の“集客装置”へと生まれ変わらせる“快適”なトイレ。同社のノウハウを生かした提案力に、注目が集まっている。

同社が過去に行った意識調査で「外出時にトイレが必要で商業施設に立ち寄ることがあるか」という質問に対して、94%が「トイレ利用目的で立ち寄る」、81%が「ついでに買い物や食事をすることがある」と回答した。この結果から、百貨店やショッピングセンター(以下、SC)のトイレは、客が足を運ぶ重要なきっかけの1つと考えられる。

「お子さま連れ配慮」「男女共用トイレ」「コンセプト演出」などのキーワードに沿って、最新事例を紹介していく

同社のセミナーは以前から定期的に実施しており、商業施設編は半年に1回程度の開催だ。化粧直しや身だしなみを整える空間として需要が高い上に、近年は多様性への配慮も一層必要性が増してきている。販売統括本部UD・プレゼンテーション推進部東京プレゼンテーショングループ主席レストルームプランナーの松澤雪子氏は「参加者からは『手荷物や混雑、女性のスタイリングコーナーの快適性を上げるにはどうしたらいいか』『他の商業施設がどう対応しているのか知りたい』という要望が多い」と話す。こうした意見を踏まえて、毎回テーマを設定する。

広報部東京広報グループ企画主査の佐藤主税氏も「昔はトイレは一番最後で、一番最初に削られるところだった。今でこそ大事な備品、建築資材として考えていただいている。少しずつ変わってきているのはありがたい」と実感を語る。

2月中旬に行われた商業施設編セミナーは、「ランチタイムセミナー」として昼の12時から50分間、オンラインで配信された。聴講者の多くは設計事務所やハウスメーカー、工務店や水道工事などの設備業者だ。前半は「快適性」と「ユニバーサルデザイン」の2つのテーマに沿って、利用者からのアンケート結果や配慮が必要なポイント、百貨店やSCの現場事例を紹介。後半は同社のテクニカルセンターの映像、最新のトイレ機能などを披露した。

自動水洗だけでなく、自動水せっけんもニーズ増。非接触で快適な手洗いを実現する

奥行き600mmの「ドライエリア」は大きな荷物も置けて、ストレスのない手洗いや身だしなみチェックを可能にする

まず快適性では、「手が洗える」「手荷物配慮」「混雑配慮」を説明。男女共に非接触や自動水洗、湯での手洗いや、荷物置場を希望する声が多い。買い物で荷物が増えることも考慮し、スペースの確保やフックの設置を推奨する。トイレの混雑も課題に挙げ、混雑状況がわかるデジタルサイネージの設置や、レイアウト変更で個室数を増やせる事例も見せた。

「プライバシー」への配慮として、男性用トイレの小便器間の仕切りの設置や、ブースの壁を天井までにして個室感を高める取り組みを紹介。個人の意識の変化もあり、男性用トイレへの施策は進んでいるという。「これまで男性に視点を当てた提案が少なかった。アンケートを取ったところ『日焼け止めを塗ったり髪の毛をセットしたりしたいが、隣に人がいるとやりづらい』との声があった」(松澤氏)。リモコンで透明からスモーク状態にできるパーテーションや、デザイン性にこだわった小便器の開発にもつながり、デザイナーへの提案の幅も広げている。

トイレの快適性向上では、ほかにも「スタイリングコーナー」の充実や、「意匠性」による有効性を提案。例えば百貨店の外商サロンのあるフロアのトイレは、全体的にゆとりのある設計で、照明の照度を抑えて落ち着きのある空間を演出した。

湯が出る水洗と汚物流しをパックで実現した「コンパクトオストメイトパック」。一般トイレにも設置しやすいサイズだ

2つ目のユニバーサルデザインは、現状よりさらに進める必要があると提唱する。「バリアフリー」では、「バリアフリー法」の説明や実例紹介を通して、様々な身体状況を持つ人達に向けた利便性や安全性を伝える。車椅子の使用や、オストメイト(人工肛門・人工ぼうこう保有者)に対応可能な設備についても、重要な情報として提示する。「男女共用」はトイレ数が少なく、異性による介助が必要な人やトランスジェンダーから悩む声が上がっている。改修時に利用者を限定しないトイレを設置した事例と共に、理解度向上を目指す。「乳幼児連れ」の利用者からも、外出先でのキッズトイレの必要性を訴える声が集まっている。

同セミナーの参加者からは「トレンドも含めた実例紹介がとても参考になる」「他の百貨店(のトイレ)はこんなに進んでいたのか」「やはりこういう配慮が必要なんだ」といった感想があるという。「お客様に満足していただかないと次のセミナーに来ていただけない。できるだけニーズをキャッチするようにしている」(松澤氏)。過度に知識をインプットする内容ではなく、同社の施設見学も組み合わせて飽きさせない工夫を凝らす。

セミナーは元々オフラインでの開催だった。しかし新型コロナウイルス禍を機にオンラインに変更。その後、他社のセミナーが昼休みに開いていたのを参考に、同社もランチタイムセミナーをスタートした。当初はトライアルだったものの、これまでのセミナーと比べて顧客満足度は上昇、予想以上に好評を得た。

松澤氏は「参加者には(ランチタイムではない)業務時間内にセミナーを聞いてもらうのが“正”だと思っていたが、そうではなかった。自己勉強のために聞く人が多いこともわかった。新しい兆しが見えてきたと感じている」と、手応えを口にする。今後は、別の時間帯や配信方法などを検討材料に、どう次につなげていくかを課題に挙げる。

各商業施設が集客効果も見据えて設備投資を行う中、「トイレにこだわりを持っていただくのが私達の使命」と松澤氏。安全で安心、快適なトイレを提供することが顧客満足につながり、「それをできるだけ広く伝えていく」と力を込める。TOTOが提案する集客への重要なカギ、それは一つ一つの細やかな“配慮”なのかもしれない。

(中林桂子)