2024年05月02日

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ビオスタイルの「グッドカカオ」、食の可能性で人と人をつなぐ

「カカオのぜんぶ、まるごとおいしく。」がコンセプトの「GOOD CACAO」。画像は多彩な味が楽しめる人気のカレー

ビオスタイルが展開するライフスタイルブランド「GOOD NATURE MARKET(グッドネイチャーマーケット)」の「GOOD CACAO(グッドカカオ)」は、カカオ豆の種皮「カカオハスク」を使用した食品で、新たな食の可能性を提案している。チョコレートをつくる過程で廃棄されるカカオハスクを生かし、コーヒーや煎茶、コーラといった飲料から煎餅などの焼き菓子、素材の旨味を生かしたカレーまでをラインナップ。シェフとチームの想いが込められた食品づくりは、好循環を生み出す社会の実現を目指す。

「GOOD NATURE MARKET」は、京阪グループが取り組むプロジェクトの一環。食を通じて循環型社会の実現に貢献する

●2018年にプロジェクト始動、安心安全な食のブランドに

グッドネイチャーマーケットは、2018年にプロジェクトがスタート。19年12月開業の「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」で販売する商品製作を目的に、食品部門チームが結成された。シェフ兼マーケット事業部/EC・外販事業部マネージャーの樹(うえき)宏昌氏は「異色の4人が集まった」と振り返る。シェフである樹氏以外は、前職が文房具会社の営業担当、大手食品メーカーのサプリ開発担当、下着メーカーのデザイナーと、様々な経歴のメンバーだった。

その頃、親会社である京阪ホールディングスは、翌々年に創立110周年を控えていた。「当時のCEOが『これからの110年』」と口にしていた。鉄道利用者も住人も減っていく社会で『鉄道は人と人をつなぐもの』。それを聞いて、食品で人と人をつなごうと思った。鉄道と同じく“安心安全”。化学調味料や食品添加物、着色料、香料を使わないブランドにしよう」(樹氏)と決めた。

シェフ兼マーケット事業部/EC・外販事業部マネージャーの樹宏昌氏

初めての食品づくりは試行錯誤の連続だった。これまでとは勝手の異なる何百人何千人分の調理や、保存料なしの賞味期限確保、商品化におけるコストにも頭を悩ませた。苦労を重ねながらもホテルの開業に間に合わせ、その後もメニューの開発を続けた。

●「グッドカカオ」シリーズ誕生

ビジネスである以上、売れる商品であることも命題だった。そうした中、カカオを使用した既存商品に着目。購買につながりやすく、媒体にも取り上げてもらいやすい素材として「カカオがブランドのシグネチャーになるだろうと思った」と樹氏。以降、ブランドの認知度向上のためカカオを打ち出す方針に変更し、20年末にカカオを使った商品を集めてグッドカカオの名称でシリーズ化した。

「カカオ京せんべえ抹茶くりぃむサンド」は、2種類の粒度のカカオハスクを使用。甘さと香ばしいほろ苦さが楽しめる

グッドカカオは、カカオ豆を余すところなく使い切るのが特長。チョコレート製造に不要なカカオハスクも採用する。元々、同社のスイーツ部門がビーントゥバーのチョコレートにコスタリカのカカオニブを使用しており、樹氏も現地でカカオ豆の処理作業の経験があった。その際、カカオ豆1キロ当たり300gのハスクが日々たまっていく現状を知る。「京都には昔から“もったいない精神”として食材を使い切る文化があった。それを訴えかけることによって、地元の人に愛されるブランドになれば」と、樹氏はカカオハスクのアップサイクルに着手した。

しかし、当時はまだカカオハスクの加工食品を製造する企業が見当たらなかった。まず直面したのは「一般生菌数」だ。食品の微生物汚染の程度を示す代表的な指標で、日本では食品製造上、この数値を300以下にしなければならない。ところが検査の結果、10万、20万という数値が検出された。これを減菌してくれる企業を探すのに苦慮した。

●アマゾンで出会ったカカオハスク

次なる障壁は、ハスクの調理。温度別にハスクの変化を調べるものの、最適解が見つからない。樹氏は実験さながら、毎日ハスクと向き合い続けたが「自分の壁にぶち当たった」(樹氏)。時を同じくして、プライベートでアマゾンを訪れる機会を得た。そこで樹氏が目にしたのは、煮出したカカオハスクを飲む現地の人達。しかも、それを「チョコレート」だと言う。

「現地の人達は、収入が減らないようニブを全部買ってもらうため、ニブを食べたことがない。ハスクだけが原産国で大量に捨てられ、ハスクを飲んで『これがチョコレートだよ』と言っていたのを聞いて、胸を痛くしたのを覚えている。ハスクを使うのが使命だと思った」と、樹氏は当時の心境を語る。

ハスクを煮出したものは、到底日本人がおいしいと思えないような苦さだったが、同時に旨味も感じられた。日本の旨味の高い茶とハスクをブレンドすれば相乗効果を生み出せるのではと、樹氏は帰国後、試作に没頭。温度、量、ブレンドの比率を変えながら、つくってはメンバーに味見してもらい、約1カ月間トライアルを繰り返した。

ようやく「カカオティー」が完成したが、「注目されるものになるのか」「売れるのか」と会社側は初めは難色を示したという。しかし樹氏は「きっとこれが世にフューチャーされる時代が来る」確信があった。ホテルの運営スタッフ達へも、メンバーと共に根気強く説得を重ねた末、ホテルのウエルカムドリンクとして客に提供することが決まった。

●「グッドカカオ」の現在とこれから

グッドカカオの宣伝活動はコロナ禍の最中だったこともあり、SNSでの発信に注力した。ポップアップの出店依頼も全て受けた。メンバーの発案でキャラクターも制作。“ちょっときもちわるい”ビジュアルで、気にかけてもらえるデザインを目指し「カカオくん」が誕生した。徐々に認知度も上がり、雑誌への掲載依頼も増えた。グッドカカオは当初から女性をターゲットに設定し、カタログに載せる写真も“おいしさ”“感度”など女性目線を意識していた。それが奏功したのか「女性誌からの取材依頼がとても多かった」(樹氏)。

カカオのコクが野菜の旨味を引き立てる、ビストロ仕込みのグリーンカレー

現在、売れ行きが最も良いのはカレーだ。ポップアップ期間中に購入した客がまた来店してくれることもある。カカオやチョコレートの甘いイメージから「ちょっと苦い」という意見もあり、こうした感想をチームで共有しているという。イメージとかけ離れ過ぎない味付けにも配慮しながら、都度味に修正を加えている。

樹氏が「まねをされて一人前。まねをしてくれる方々が増えてくれるといい」と口にするのには、1つの願いがある。「グッドカカオの考え方に共感する人が増えて、少しでも多くカカオハスクを買ってもらえるようになれば、食べる人とつくる人、携わる人達の一定の貧富がなくなる。カカオを育てる人達の収入が生業として少なく、チョコレートが食べられない現状もある。『カカオハスクも買ってもらえる素材』というように変えていきたい」。数々のハードルを乗り越えてきたグッドカカオは、これからも人と人をつなぐ食の可能性を広げていく。

(中林桂子)