2024年04月18日

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Z世代とつながり続ける 阪急うめだ本店の「Something Good Studio」

企画から販売まで、全てZ世代のバイヤーが手掛けている

今後を担う世代として注目されている、Z世代。様々な業界がZ世代を意識したマーケティングを講じており、百貨店業界も例外ではない。その中でも一歩先んじているのが、阪急うめだ本店の「Something Good Studio」(以下、SGS)だ。昨年3月、Z世代の社員が「本当にほしいモノ・コト」を発信する売場としてオープンし、多くの若者が集まるヒットコンテンツを生み出している。

 

来店頻度や滞在時間の向上を目的に

SGSは3階の婦人服ゾーン「シスターズクローゼット」内に位置し、1週間単位のポップアップを展開する。売場の構想は、2019年春に始まった。「当店は比較的若いお客様も来店される。しかし、その多くはスイーツ、コスメ、モードファッション、バレンタイン催事など、特定のカテゴリーに偏っていた」とシスターズクローゼット・肌着営業部マネージャーSGS・プロモーション担当の野中裕太郎氏は説明する。目的の売場に直行直帰となる若年層の来店頻度や滞在時間を高める、“つながり続ける場所”としてSGSを考案した。

もう1つの狙いは、若手社員が主体となって働ける場の創出だ。上司の指示の下で働くだけでは売場に若手社員の意見や感性が反映されず、モチベーションも保ちにくい。「若手社員の価値観で企業が動く」成功体験を積んでもらい、社会人としての成長や組織の活性化を促す。

20年夏に、入社3年目の社員を対象にバイヤーを募集。「自分ならではの興味軸がある」、「自分の個性を表現できる」、「SNSなどでお客様と直接コミュニケーションが取れる」ことを基準に選考を行い、得意分野のバランスなども考慮しながら4人を選出した。その後半年間の準備を経て、3月末のオープンに至った。

 

企画から販売まで若手が手掛ける、「Z世代が主役」の場

SGSの最大の特徴は「Z世代の若手社員が企画を手掛ける」ことで、バイヤーが自分の感性で「良い」と思うモノ・コトを提案する。また、「企画から販売まで、全ての業務に一気通貫でバイヤーが携わる」点も、他の売場と異なる。同店のポップアップは①企画・立案、②コンテンツ(ブランド)集め、③SNSなどでのPR、④店頭でのブランド受け入れや接客販売の4つの業務があり、基本的に①はディレクター、②はバイヤー、③は専任のPR担当、④は販売員が受け持つという仕組みを取っている。

しかし、SGSでは全てをバイヤーが行う。運営組織にはマネージャーの野中氏、サポートの社員も1人いるが、あくまでサポートという立ち位置だ。「SGSは『次世代がキラキラと活躍して認められる社会をつくる』ことを社会使命としている」(野中氏)ことから、バイヤーが自分の「好き」を最大限に発揮できる体制にした。

若者を惹き付けるには同じ世代の感性が不可欠と考え、バイヤーは時機を見て入れ替える。今年10月にはスタートメンバーの4人から、新入社員が2人、2年目が1人の計3人へとバトンタッチした。

 

「韓国」、「クリエーター」、「バレンタイン」のイベントが好評

若い世代に人気の高い韓国コンテンツの催事は、開催する度に大きな反響がある

企画はバイヤー自身の感性に加え、「種々雑多なコンテンツの提供」も意識する。「Z世代の人達は、それ以前と比べて1人あたりの興味軸が多い。昔なら洋服を好きな人は洋服だけを好きだったが、最近はYouTubeでゲーム実況を見るのが好きな人がファッションも好きだったりと、嗜好の範囲が幅広くなっている」(野中氏)ため、ターゲット層を絞らず、テーマに合わせた洋服や雑貨、食品などカテゴリーを超えて幅広く展開している。

こうした取り組みによって、若者との新たな接点の創出に成功。中でも成果が著しいコンテンツとして、野中氏は「韓国」、「クリエーター」、「バレンタイン」の3つを挙げる。

「韓国」をテーマにしたイベントは年に2~3回ほど行うが、どれも反響が大きく、「次はいつやりますか」と問い合わせが来るほどだという。今年11月2~8日に行ったイベント「ハローソウル」では韓国で人気のアパレル、コスメ、アクセサリーを集積し、売上げは予算を大幅に上回った。

「クリエーター」関連のコンテンツでは、SGSが様々なつながりの場として機能している。若手のクリエーターと共にイベントをつくり上げることで、クリエーターとバイヤー、クリエーター同士の交流が生まれる。若手のクリエーターはSNSでの情報発信がメインのため、客にとっては憧れのクリエーターとリアルで交流できる貴重な場となっている。「SGSに出店したことをきっかけとしてブランドが大きくなるなど、クリエーターがステップアップできる場になってほしい」と野中氏は今後の展望を述べる。

「バレンタイン」は、チョコレート、アクセサリー、雑貨など、様々な「ピンク」のアイテムを集積。SGSを始める前のプレオープンとして、21年1~2月に初めて「Pink! Pink! Pink!-Pink Market-」を行い、22年には「PINK STUDIO.」として開催。どちらも売上げは予算を達成した。

ピンクと言ってもビビッドなものからパステル調のものまで幅広く揃えるため、フェミニンなテイストが好きな人だけでなく、様々な客層が訪れる。同店は20年から全フロアでバレンタインのイベントを行うようになり、ピンクのイベントはその一環でもあるが、他フロアとの買い回りも多く、「阪急のバレンタイン」ファンを取り込めている。23年も実施を予定し、バレンタインのイベントとして定着させたい考えだ。

これらのイベントのヒットにより、昨年度(21年4月~22年3月)はコロナ禍で約1カ月半営業を休止していたにもかかわらず、予算に近い数字を達成。今期も売上高は順調に推移している。

 

学びの場や外部出店で、さらなる成長へ

若者とつながる場として成功を収めているSGSだが、つながりをさらに深めるため、今後はコミュニティづくりにも注力する。店頭でのコミュニケーションに加えて、ワークショップやセミナーといった、学べる場所の提供を計画している。若者にとって「成長」が重要なキーワードであるため、SGSと関わることで「成長できた」、「自分をもっと好きになった」と思える売場を目指す。

同店に来る客だけでなく、まだ来たことがない人との最初の接点にもしたい考えだ。Z世代は百貨店に対して、「敷居が高い」、「私達が行くにはまだ早い」というイメージを持つ人が多い。それを払拭し、店へ呼び込むため、若者が多い外部イベントへの出店を積極化してきたいと構想している。

今年6月には、大阪市北区の茶屋町で行われた「キャンドルナイト」に出店。梅田には来るが、若者向けのファッションビルにしか行かない人が多く集まり、SGSを知ってもらう好機となった。「まずはSGSをきっかけに、当店に来て頂く。お客様の成長に合わせて他の売場にも行くようになり、ゆくゆくは阪急うめだ本店のファンになって頂くのが理想」と野中氏は語る。

(都築いづみ)