2022年08月11日

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≪大阪地区主要百貨店店長パネルディスカッション≫ 自店独自の「百貨店価値再創造」に挑む

7月15日(金)、ホテル日航大阪で、ストアーズ社主催の「大阪地区主要百貨店店長パネルディスカッション」を3年ぶりに再開した。阪急うめだ本店、高島屋大阪店、阪神梅田本店、あべのハルカス近鉄本店、大丸心斎橋店(発言順)の店長を招いて、「自店独自の『百貨店価値再創造』への挑戦」をテーマに、各店各様の将来の「あるべき姿」の実現に向けて、コロナ禍の劇的な環境変化の中で取り組んでいる短期・中長期視点で戦略・戦術を150分間の中で語って頂いた。

それぞれ前半と後半に分けて発言していただき、まず前半ではコロナ禍からの回復途上にある22年度の位置付け、重点施策の基本方針、春夏商戦で優先的に取り組んでいる具体的な施策などについて、独自の視点で語って頂いた。(司会:ストアーズ社編集部羽根浩之)


「楽しさ世界№1の劇場型」創出

◆阪急阪神百貨店

 取締役専務執行役員 阪急本店長 佐藤 行近 氏

阪急うめだ本店の佐藤行近店長は、ストアビジョンと、この実現に向けた3つの事業戦略について語った。同店のストアビジョンは「世界へ、次世代へ発信する楽しさ世界№1の劇場型百貨店」。「お客様の暮らしを楽しく、心を豊かに、未来を元気にすることを事業の大きな目的として掲げている」。

具現化していくための3つの事業戦略とは、1つ目が「グローバルに通用する世界最先端、最高峰の超広域型スペシャリティコンテンツの創造と提供」である。独自性の高いワールドづくり、9階祝祭広場を中心に展開する人気催事、各階のコトコトステージ、全館プロモーションなどで実践してきているが、今後もさらに磨き上げ、新しい価値創造に取り組む。

2つ目が「顧客起点での価値創造と提供に向けた、リアル店舗の枠組みを超えたOMOビジネスモデルへの転換」である。「新しいモノ・コト・サービスをリアル店舗とオンラインを融合させて提供していくことに、試行錯誤しながらチャレンジしている」と述べた。

3つ目は「地域と共に価値を共創する」こと。持続可能な事業活動、店舗運営を通じて社会貢献に取り組んでいる。この3つの事業戦略は個別に取り組むだけでなく、「これらの要素を掛け合わせた価値創造も進めていくことで、ストアビジョンを実現していきたい」と強調した。

次いで3つの重点マーケットについて言及。最重要マーケットに捉えているのが富裕層で、この中で伸びしろが大きい若年層のコンテンポラリー富裕層と、広域エリアの超富裕層へのアプローチに留意している。

2つ目が圧倒的ボリュームを有する中間層マーケット。ここに対しては本店ならではの的を絞り、ミレニアル中間層の人生の節目の様々なライフイベントと、生活経験が豊かで家族や仲間、自分自身の幸せを追求するアッパーミドル層の潜在ニーズをターゲットにしている。

そして3つ目が百貨店と接点が少ないZ世代を中心とした次世代層で、「国内だけでなくアジア広域の憧れ消費マーケットを捉えて、次世代とのつながりを持つことで、これが上の世代からの共感も得られる想定で、重要なマーケットと捉えている」と強調した。

こうした事業戦略と重点マーケットへの具体的な取り組みは後半で言及した。

「大規模構造改革元年」が始動

◆高島屋

 常務取締役 大阪店長 髙山 俊三 氏

高島屋大阪店の髙山俊三店長は、高島屋の大型店の中で先行して22年度上期から着手している「大規模構造改革の元年」について言及した。

4つの改革を進めている。1つ目が消費環境の変化に適応していくための「品揃え改革」、2つ目がデジタルを活用して顧客との関係性を再構築して熱烈な高島屋ファンを増やしていく「ファン化」、3つ目が「生産性の高い基盤づくり」、4つ目が「社会から求められる価値に応えることによって持続的に成長できる基盤づくり」である。

前半はこのうち品揃え改革とファン化について説明した。

品揃え改革では、「将来のありたき姿を明確にして、取引先と共有して、従来の延長戦上ではない新しいマーケットを創造していく」スタンスで組み立て直していく改革。ただ、「これまで百貨店が大事にしてきた文化性、半歩先の豊かな生活提案、ワンストップショッピングの楽しさ、世代を超えて長くお付き合いするライフタイムバリュー」を前提に品揃えとサービスをブラッシュアップしていく考えを示した。具体的にはファッションと食を中心に、11カ所の特徴ショップ(自主編集売場)を先導役に進めている。

もう1つの「高島屋の熱烈なファン」づくりに対しては、館全体で感じさせる「文化性」と「特別感」、これに「若手の活用」をキーワードに取り組んでいる。文化性では強みの文化催事を連打している。特別感とは1人ひとりの顧客に寄り添っていく取り組み。また、若手の活用とは、インスタグラムやフェイスブックなどのSNS発信を若手従業員の感性を生かしていく取り組みだ。

こうした改革を通じて、大阪ミナミで「『やっぱり高島屋しかない』、『やっぱり高島屋やな』と言っていただける百貨店」を目指している。

「毎日が幸せになる百貨店」船出

◆ 阪急阪神百貨店

 執行役員 阪神本店副本店長 西井 秀麿 氏

阪神梅田本店の西井秀麿副店長は、約7年半に亘る建て替え工事が完成し、4月6日に全館グランドオープンした新生・阪神梅田本店のコンセプト、店づくりの考え方についてポイントを絞って述べた。西井氏は8年前から建て替えプロジェクトに携わってきており、当時、「都市型百貨店のBモデルを構築する」というミッションに対し、「本来持っている強みを生かしながら、異なる価値をどのように提供していくかを考え抜いてきた」と振り返った。そこで導き出したストアコンセプトが「毎日が幸せになる百貨店」。これを「自分らしい生き方を追求しながら、毎日を豊かに暮らすために時間もお金も使いたいという価値観」という「自分充足志向」のマーケットに焦点を当てて、新しい百貨店の創造に取り組んだ。

それも「日常の少し先にある、毎日が幸せになる、楽しい『お祭り』をお客様と一緒になって創り上げていく立ち位置で取り組んできた」という。そのため最も重視したのは「お客様との関係性づくり」。「知り合いから、お友だちの関係に、さらに親友になり、そして熱狂的なファンになっていく」という関係性づくりのプロポーションを想定して、「ここにコンテンツをあてはめていく発想で、お客様とつながり続ける関係性をいかにして構築していくかに注力してきた」と強調した。

わかりやすく言うと、「BtoC」の関係性から「BtoCtoC」のビジネスモデルに転換していく関係性づくり。真ん中のCは「コミュニケーションやコミュニティ」で、つまり「販売員が『ちょっとおせっかいな良きご近所さん』のイメージでお客様と永くお付き合いできる関係性づくり」だ。

次いで「毎日が幸せになる百貨店」の3つのチャレンジについて言及。「対象顧客が好むスモールマスマーケットを捉えた共感型コンテンツの開発と新しい体験価値の創造」、2つ目が「体験スペースやデジタルを生かしたファンコミュニティの創造」、そして3つ目が強みである「食の阪神の進化」で、「食べる幸せをどれだけ提供していくか」である。食と飲食が11フロアのうち4フロアを占めるのはこの表れだ。

3つのチャレンジの肝になっているのが、未来型販売員として配置した約100名の「ナビゲーター」で、すなわち100のスモールマスマーケットを開拓・深掘りして、ファンコミュニティを形成している最中だ。

特選、食、スクランブルMD強化

◆近鉄百貨店

 取締役常務執行役員 本店長 中川 勝博 氏

あべのハルカス近鉄本店の中川勝博店長は、21年度で強化してきた営業施策を振り返りながら22年度の基本方針に言及した。22年度の営業施策の基本指針は以下の3本柱で、早期業績回復を目指している。1つ目の柱が「スクランブルMDの推進」、2つ目が「特選ゾーンと食品の強化」、3つ目が「催事・イベントの強化」である。この3本柱で収益基盤を確保し、「お客様が今まで以上に行ってみたくなる店を目指していく」方針を示し、具体的な施策を述べた。

スクランブルMDとは、婦人服、紳士服、化粧品、アクセサリー、食品など商品カテゴリーを掛け合わせて新しい売場を開発していくMD改革の一環。この第1弾として、今年3月16日、タワー館4階婦人服フロアの中央に約50ブランドからなる自主編集売場「サロンドゲート」を新設した。モード系ファッションをはじめ、コスメ、アクセサリー、フード、ミニカフェを編集して、アイテムやブランドの枠を超えたライフスタイルの価値を提案している。秋以降も順次、他のフロアに設けていく方針。

2つ目の特選ゾーンと食品の強化に関しては、前者では既存ブティックの改装と複数のブランドを順次、導入していく計画。後者では「足元商圏顧客に飽きられない店づくりと共に、観光であべのハルカスに訪れるお客様の受け皿にもなれるようにブランディングの強化を進める」と述べた。

3つ目の催事・イベントの強化では、昨年4月以降、人気催事の開催を控えてきたが、1年半ぶりに今秋から順次再開していく予定。

近鉄百貨店は中期経営計画で「百“貨”店から百“価”店へ」を基本方針に掲げ、対象顧客の暮らし方の変化に寄り添った新たな価値の創造に取り組んでいる。あべのハルカス近鉄本店は、その旗艦店としてけん引していくためにも魅力の向上と収益力の強化が欠かせない。

ハイブリッド型で価値と情報提供

◆ 大丸松坂屋百貨店

 執行役員 大丸大阪・心斎橋店長 小室 孝裕 氏

2019年9月に建て替え工事が完成して、新本館としてグランドオープンした大丸心斎橋店の小室孝裕店長は、改めて新百貨店モデルでチャレンジしたポイントを振り返り、現在注力しているエリア活性化戦略について言及した。

新本館は、百貨店MDである催事場や単品アイテム集積平場の休止またはコンパクトショップ化して、定期賃貸借契約による新しいカテゴリーの導入を進め、一方で特選ブランド、化粧品、美術、宝飾、呉服など、百貨店の成長カテゴリーでは従来型の仕入れ形態で運営するという、ハイブリッド型モデルを構築した。これで「お客様のニーズや時代の変化に合わせた売場に定期的に変更していくことが可能になり、常に新しいバリューと情報が提供できる店舗になった」というメリットを強調した。

ただ同店はターミナル立地ではなく、単店舗の集客力では限界があるため、「ウィークポイントを強みに転換する逆転の発想」で、エリア活性化戦略に留意してきている。その柱は2つ。1つがJ.フロントリテイリンググループで隣接するパルコとのシナジーの発揮。もう1つが周辺の店舗を巻き込んでエリアの魅力を高めていく取り組みである。

パルコとのシナジーに関しては、各々の強みの相互補完・連携、共同販促を軸に取り組んできた。「大丸は富裕層や50代以上の年齢層に強く、パルコは若年層、ファミリー、男性客からの支持が高い」ことから、両店の買い回りを促す施策の好事例を紹介。結果は良好で、大丸では若年層と男性客の購買シェアが徐々に上がってきているという。

周辺とのシナジー策については、心斎橋筋商店街と店舗周辺に林立している特選ブランドの路面店との連携を進めている。商店街とは共通広告の作成などに取り組み、特選ブランドの路面店とはお得意様ゴールドカードが利用できる契約を結び、パルコ内の店舗を含め約40店舗まで連携を広げてきた。

ハイブリッド型の新たなビジネスモデル確立とエリア活性化戦略によって、独自の存在価値を高めつつある。



中長期視点で語る「価値再創造」戦略

会場の様子

次いで後半の発言は、前半の現状を受けて、23年度以降の中長期視点を踏まえ、自店の価値向上に向けた秋以降の重点施策を中心に、その方向性と具体的な事例を語っていただいた。

来春、「自然共生ワールド」新設へ

◆阪急うめだ本店 佐藤店長

阪急うめだ本店の佐藤店長は、前半で述べた3つの事業戦略と重点ターゲットへの具体的事例と共に、今後の取り組みについて言及した。

富裕層マーケットに対しては、お得意様外商を軸に拡大戦略を進めている。そのため、春に外商員の担当口座数を絞り込み、よりパーソナルな対応ができる体制に再編した。一方で要望がある程度決まっていて迅速な対応を求めるお得意様に対して、オンラインなどを活用してタイプ別に情報発信やパーソナルなコミュニケーションを行う担当を新設した。

外商活動の具体的な事例にも言及。高級家具のショールームイベントなど住関連ニーズへの対応、館内での特別な体験イベントの開催計画などを挙げた。加えて、富裕層ニーズに対応する売場改装についても、社交ニーズの拠点として高級ブランドのドレスを中心に編集した「ザ・ディー・ギャラリー」の新設(6月29日)、年内のジュエリーブランドの改装などに触れた。

中間層マーケットについては、顧客と繋がり続ける取り組みを説明。ペルソナカード顧客を軸に「阪急本店をマイストアとして、愛着を持っていただき、暮らしの様々なシーンで利用いただける関係づくり」を目指して、「価値あるモノ・コト・サービス・場を提供して、お客様とつながり続けるコミュニケーションやアプローチを的確に行っていく」体制づくりに取り組んでいる。具体例として、ストアUX推進部を新設して、各部門並びにカテゴリーを越えて他の部門と連携して顧客を共有して価値を提供していく取り組みにトライアルしている。試行錯誤中だが、ワンストップショッピングの楽しさや魅力を提供していくための重要な取り組みと位置付けている。

最後はサステナビリティ推進への取り組みを紹介した。来春には8階フロアの約半分(約500坪)を使用して、人と自然の共生をテーマにしたライフスタイルワールドを新設する計画が控える。高感度なファッション、雑貨、フードなどカテゴリーミックスで独自に編集し、環境にもこだわる。ワークショップやセミナー、イベントなどを開催するスペースも設けて、「自然共生ライフスタイル」のハブになれる拠点づくりを目指す。また地域との協業によるCSV活動も強化しており、岡山・真庭市との取り組み事例を紹介し、今後も他の地域に広げて、新しい価値創造に取り組んでいく構えだ。

生産性向上と社会貢献に注力

◆高島屋 髙山店長

高島屋の髙山店長は、「大規模構造改革の元年」の4大改革のうち、「生産性向上の基盤づくり」と「社会に求められている価値に応えながら持続的成長を実現していく」取り組みについて言及した。

生産性向上に向けては、業務をゼロリセットして見直し、取引先と連携しながら新しい運営モデルの構築を進めている。3つのポイントを挙げた。1つ目が「現場基点で即断即決ができる実行型業務に改革する組織体制の整備」で、そのために現場への権限移譲と失敗肯定型の土壌づくりに着手している。2つ目が「取引先との協業の仕方の再構築」で、「双方がありたき姿をベースに、各々の役割を明確にしながら業務を再設計して、お互い生産性が上がる仕組みを一緒になって構築している」。

3つ目は「1人ひとりが働き甲斐を持って業務に取り組める土壌づくり」である。こうした3つの改革を推し進めていくうえで最も大切にしているのが、現場の従業員と経営の距離感を近づけるダイレクトコミュニケーションで、それを通じて改革のスピードを上げていこうとしている。

さらに生産性の向上には単店だけの取り組みには限度もあることから、グループ力の活用もポイントに挙げた。主要都市にバランスよく配置している百貨店の店舗網、並びに不動産や金融業、飲食関連などの企業グループがあり、ネットワーク力をさらに強めて、生産性向上を目途とした取り組みを進めていく考え。

4つ目の社会に求められている価値提供については、高島屋グループの総合戦略である「まちづくり戦略」をベースにしながら、サステナビリティ活動と地域貢献活動に力を入れていく方針と具体的な事例を述べた。高島屋全店やオンラインストアで展開している、「お客様と共にエコ&エシカルな暮らし方を考える」をテーマにした「TSUNAGU ACTION(ツナグアクション)」や、大阪の企業やクリエーターの“ええモン”を紹介する同店の名物企画「大阪ええモン」の事例を紹介。こうした館内での全館プロモーションやイベントだけでなく、地域とも今まで以上に深くつながって「まちづくり戦略」を進めていく考えを示した。

最後に「地下鉄御堂筋線に6店舗の個性ある百貨店が並んでいるのは世界で類を見ない環境であり、『祭り』のような企画ができないか」と呼び掛けていた。

小さな積み重ねが商売の根幹に

◆阪神梅田本店 西井副店長

阪神梅田本店の西井副店長は、前半戦で「好きというスモールマスマーケットを捉えた共感型コンテンツの開発と新しい体験価値の創造」、「体験スペースやデジタルを生かしたファンコミュニティの創造」、「食べる幸せの追求」という3つのチャレンジについて説明したが、その具体的な事例を紹介しながら、新生・阪神梅田本店が目指した「毎日が幸せになる百貨店づくり」の根幹を示した。

はじめに7階リビングフロアのキッチン用品などを集積した「ギャザリングテーブル」内のイベントスペースを拠点に活動しているナビゲーターを紹介。元々、お弁当作りが趣味で、弁当の写真をインスタグラムに投稿していたところから始まり、そのイベントに参加した顧客の一人が雑誌の弁当大会で優勝したエピソード、1階の「食祭テラス」で弁当に特化した催事開催などにも広がったストーリーを紹介。「沼(スモールマスマーケット)が深くなればなるほどお客様と親しい関係性が生まれ、手間暇がかかる小さな積み重ねによって大きなコミュニティを形成できるようになる」こと、「方向性が間違っていなかったこと」を確信したという。

「食の阪神」を象徴する「食祭テラス」や「阪神食品館」の成果についても言及。食祭テラスでは「新しい切り口」、「人を主役にした情報発信」、「オンオフでもつながるコミュニティ形成」という3点を重視して運営しているが、ここでも複数のナビゲーターが活躍している。この1階には「おやつテラス」、「パンテラス」、「日本茶・ティー・コーヒー専門店」ワールドで構成するが、「日常の食べる幸せ」を提供する拠点としてだけでなく、新しいマーケットを切り開いている。

地下1階「阪神食品館」は、全てのカテゴリーが約7600平米の広さを誇るワンフロアに揃っており、しかも四方から入店できる利便性もあり、「食のコンテンツの力もお客様から評価いただいている」という。加えて9階「阪神大食堂」、地下2階「阪神バル横丁」も軌道に乗ってきており、「食べる幸せ」は「熱い」評価を得ているようだ。

最後に課題について言及。「食」以外のフロアへの来店促進である。最も重視しているのは「店についているファンを増やしながら、複数のカテゴリーを買い回っていただけるファンをいかに増やしていけるかが勝負になってくる」。ファンコミュニティの旗振り役であるナビゲーターの活躍と共に、取引先との協業体制をより強めながら、小さな積み重ねによって「阪神ファン」を増やしていくしかない。

「百“価”店」への変革着々と

◆あべのハルカス近鉄本店 中川店長

あべのハルカス近鉄本店の中川店長は、21年度から始動している近鉄百貨店の中期経営計画に基づく同店の重点政策を述べた。中計では事業戦略として掲げたのは「くらしを豊かにする共創型マルチディベロッパーへの変革」。すなわち「これまで数多くの品物を揃えていた『百“貨”店』から、数多くの価値を提供する『百“価”店』に変わっていく」ための事業戦略であり、顧客の暮らし方が大きく変わっていく中でその変化に寄り添い、新たな価値を創造し提供する事業者を目指している。

あべのハルカス近鉄本店では、あべの・天王寺エリア「ハルカスタウン」の魅力最大化をミッションに、以下の4つの重点施策について言及した。1つ目が「あべのハルカス近鉄本店のさらなる収益力の強化」、2つ目が「あべの・天王寺エリアの街づくり事業の推進」、3つ目が「インバウンド需要の再創出」、4つ目が「顧客の囲い込み」である。

店舗収益力の強化については、改装の継続と秋以降に再開する物産展催事を中心に集客機能を再構築する。加えて客層の拡大に向けて新しい価値を創造するライフスタイルを重視した新ゾーンの開発を進めていく。改装では特選ゾーン、地下1階の菓子売場を中心に実施する予定。特選ゾーンは富裕層ニーズへの対応強化と超広域商圏化の一環で、菓子は足元商圏の深掘りを狙った改装だ。新ゾーン開発は、今年3月に新設したスクランブルMDの第2弾となる。

あべの・天王寺エリア街づくりに関しては、「世界から人が集まり、楽しんでもらえる街にしていくため、近鉄本店を核にハード、ソフトの両面で、周辺の企業や施設と連携してエリアブランディングを推進していく」考え。また、あべの・天王寺エリアでは、ハルカスタウンをはじめ、JR北側エリア、キューズタウンエリア、てんしばエリアに大別されるが、ハルカスタウンエリアの核である近鉄本店は、近鉄百貨店が運営する「フープ」と「アンド」が近接しており、各々の館の個性を磨き上げ、「ハルカスタウンの魅力最大化を進めていく」と述べた。

インバウンド需要の再創出では、「モノ、コト、サービスの全般が提供できるように来るべき時期に備えている」という。顧客の囲い込みでは「近鉄百貨店アプリ」の活用をポイントに挙げた。「キップスカードと連携しており、購買データを活用して、セグメント別に情報発信ができるため、よりパーソナルに対応できる」ことから、今後も会員獲得と共に効果的な活用に取り組んでいく考えだ。

「近鉄百“価”店」の旗艦店として役割を果たしていくためにも、「より広い商圏、より幅広い年代層を集客する」魅力ある館の構築に余念がない。

DXと富裕層に集中特化戦略

◆大丸心斎橋店 小室店長

大丸心斎橋店の小室店長は、店舗の規模と特性から、「ある程度、的を絞って将来性が見込まれるマーケットや、当社並びに店舗が強いリソースを持つ分野に集中特化していく戦略」について言及。このうち「DXを活用した新たなコミュニケーションの進展」と「富裕層マーケット」の事例を紹介し、最後にコロナ禍前まで全国の百貨店でトップ水準の売上げを誇っていたインバウンド戦略について述べた。

DX活用による新たなコミュニケーションについては、「EC販売の拡大よりも、むしろお客様とのつながりを深くするためのデジタル活用を重視している」という。強化している「大丸・松坂屋アプリ」、「デジタル接客」、プレミアムサイト「コネスリーニュ」について紹介した。大丸・松坂屋アプリは、ハウスカードとも連携しており、ポイントが貯まり使える買い物機能、情報発信や決済機能などが装備されており、アプリユーザーは着実に増えている。アプリユーザーとそうでない顧客の購買額の差が大きいことから、アプリユーザーの獲得とアクティブ化は「店の将来を左右する重要なツール」と位置付けている。

デジタル接客ではコロナ禍でホテル催事が中止になった際に、店頭に移して実施した代替企画で想定以上の成果を享受できたことから、現在は遠隔地や来店時間が限られる外商顧客を中心に活用しているという。コネスリーニュでは、動画を活用した情報配信、希少MDの予約・抽選販売、催事の優先申し込みなど、販売手法や提案の幅が広がっており、「専用サイト活用のコミュニケーションの可能性は非常に大きい」ことを体感している。リアルとデジタルの融合による新しい売り方が確立されつつある。

富裕層マーケットに関しては、上位10%のVIP顧客の維持、拡大、育成、開拓に向けた取り組みと、直近増加してきた若年富裕層への対応について述べた。若年富裕層は希少性が高いMDと資産価値の高い現代アートへの関心が強い傾向が顕著で、これらを重点化MDに設定した取り組みを紹介。また店舗近隣に建設されるタワーマンションを対象に、ディベロッパーと連携して外商顧客向けサービスを提供していく活動も紹介した。

インバウンド対応については、本格回復に備えて、海外顧客への情報発信とVIP顧客向けのおもてなし体制の拡充策を進めている。

「つまるところ、いかにして、心斎橋店に対してロイヤリティの高いお客様の手を離さないようにしていくかが戦略のポイントになる」と強調した。