2024年10月12日

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大丸松坂屋の「デパコ」、メディアコマース化で化粧品EC売上高を5倍の50億円へ

3月29日に生まれ変わった「デパコ」。従来の情報発信に加え、ブランドを横断したコンサルティングも可能になった

大丸松坂屋百貨店が手掛ける化粧品のオウンドメディア「DEPACO(デパコ)」が、インターネット通販サイトを兼ねるメディアコマースに生まれ変わった3月29日から、1カ月余りが経つ。外部への広告など大規模なプロモーションを展開しておらず、売上げは目標に届いていないものの、大丸や松坂屋の店舗内の各ブランドのショップから接客を通じて多くの新規利用者が流入しており、ブランドを横断して化粧品について助言する「ビューティアドバイザー」のカウンセリングも申し込みが増えてきた。大丸松坂屋百貨店がデパコで目指すのは「コスメカウンターのようなメディアコマース」。リアル店舗とEC、オウンドメディアを融合させたビジネスモデルで、ECによる化粧品の売上げを早期に2021年度(21年3月~22年2月)の約10億円から50億円に引き上げる。

デパコは2018年に誕生。オウンドメディアとして約4年に亘り“デパコス”の情報を毎日発信してきたが、新生デパコの編集長に就いた望月美穂さんは「(販促などに予算をかけなかったため)“マス”としての広がりが足りず、読者の中心は既存顧客で、新しいお客様を取り込み切れなかった。大丸松坂屋百貨店のネット通販サイトで販売する商品は記事から購入できたが、UIやUXが良かったとは言えない。コンバージョンレートも計測していなかった」と自省する。

転機となったのは、コロナ禍だ。多くの百貨店は店舗の臨時休業を決め、ネット通販サイトも休止を余儀なくされた。一部の百貨店を除き、ネット通販サイトの商品は店舗から配送するためだ。大丸松坂屋百貨店の「大丸松坂屋オンラインショッピング」(現在は大丸松坂屋オンラインストア)も同様だった。

過去には何度か「専用の倉庫を持ち、商品をメーカーから買い取って販売するべきではないか」と議題に上がったものの、試算の段階で黒字にならず、断念してきたが、コロナ禍による休止を経て「ECの環境を整えなければならない」と経営陣が決断。デパコのメディアコマース化への検討が始まった。一昨年の4~5月頃という。

メディアコマース化に際しては、既存のネット通販サイトから化粧品を分離。商品を発送する倉庫は大阪・難波の自社遊休施設を転換した。従来は注文から発送まで4日ほどを要したが、最短で翌日まで短縮。客の利便性は大幅に向上した。

大丸松坂屋オンラインストアの会員も改めてデパコで会員に登録しなければならない、決済で大丸松坂屋ポイントカードや友の会カードが使えないなど、なお改善の余地は残るが、本社経営戦略本部DX推進部デジタル事業推進スタッフの宮原大尭氏は「これからの1年間で解消したい」と意欲を燃やす。大丸松坂屋百貨店は近年、新規事業に「アジャイル方式」を採用しており、短時間でスタートさせ、後から客の反応を見て修正する。デパコも、まだ発展途上だ。

新生デパコは、単にECの機能を後付けしたわけではない。望月さんは「ポイントは3つで、1つ目は『買える、読める』、2つ目は『店頭の販売員にオンライン上でも(客との)接点を提供できる』、3つ目は『社員で組織するビューティアドバイザーがブランドを横断して最適な化粧品を提案できる』」と、特長を説明する。

1つ目については、約100ブランドの1万以上の商品を購入できる上、1カ月に100以上の化粧品に関する記事や情報を掲載する。記事は、読者を「化粧品のプロやセミプロでなく、デパコスに興味はあるものの、情報が多過ぎて分からない“迷子”」と想定し、「人間の温かみが伝わる“身近さ”」を追求。購買意欲を喚起する。

記事や情報は1カ月に100本以上を掲載する

記事や情報を掲載するに当たり、外部の編集プロダクションの協力を得て、社内に編集部を発足させた。編集の担当が5人、マーケティングの担当が5人、計10人からなり、望月さんが編集長を務める。望月さんは新聞社出身だが、社内を含めてデジタルメディアの知見に乏しいため、デジタルメディアを立ち上げた外部の有識者に企画の内容やタイトルの付け方を助言してもらったり、デジタルマーケティングに長けたコンサルタントに入ってもらったりして、記事や情報が読者の心に刺さるよう工夫を凝らす。

記事や情報は、編集部と店頭の販売員で分担。例えば1カ月に100の記事や情報を掲載する場合、編集部が80、店頭の販売員が20となる。店頭の販売員はバニッシュ・スタンダードが提供するアプリ「スタッフスタート」を介して投稿するが、事前に薬機法のテストを受けてもらい、内容も編集部でチェック。記事や情報の信ぴょう性を担保する。まずは大丸東京店の販売員から始め、今後は他店に広げていく。販売員を派遣するメーカーの賛同が不可欠だが、「当社の『店頭の販売員に、もっと活躍してもらいたい』という姿勢に、興味や共感は多い」(望月さん)。

2つ目については、店頭の販売員を起点にオンラインカウンセリングやウェビナーを積極化し、商品の購入や来店に結び付ける。コロナ禍で多くの百貨店やメーカーがオンラインカウンセリングやウェビナーに本腰を入れたが、ネット通販の売上げを底上げするだけでなく、来店のきっかけにもなりやすいというデータがある。専用の倉庫を設け、店頭の販売員はネット通販のピッキングや在庫管理から解放されただけに、オンラインカウンセリングやウェビナーを増やしていく。

3つ目については、約50ブランドで研修を受けた3人の社員を配置。ブランドの枠にとらわれない助言を求める人を惹き付け、予約は順調だ。豊富な知識を生かし、記事や動画などの制作にも協力する。

約50ブランドで研修を受けた3人の社員で組織する「ビューティアドバイザー」。ブランドの枠にとらわれず、最適な化粧品を提案する

大丸松坂屋百貨店では16年度以降、ECにおける化粧品の売上げが右肩上がりだ。ただ、当面の目標に掲げる50億円は21年度の5倍に当たる。ハードルは高いが、宮原氏は「ブランドとの共同販促、(大丸松坂屋オンラインストアとの)IDやポイントの統合を計画しており、OMOも掲げている。デパコには店頭に送客する役割もあり、その売上げが大きく伸びれば、ECでの50億円にとらわれなくてもいい。いずれにせよ、当社としては『ビューティ&ウェルネス』の領域の成長を目指す」と強調。望月さんは「当社は、人の力でお客様の購買体験を豊かにする『ヒューマンメディアカンパニー』に変革中で、デパコはそれを体現していく」と力を込める。

百貨店業界ではDXやOMOといった言葉が“花盛り”だが、確固たる成功事例は少ない。先駆者になるべく、新生デパコの“メイクドラマ”が幕を開けた。