2022年05月19日

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大丸松坂屋百貨店が「明日見世」で新たなテスト “その場で買える”や“モニター会”実現へ

大丸松坂屋百貨店のショールーミングストア「明日見世」は、4月6日に第3弾へと切り替わった

大丸松坂屋百貨店は、大丸東京店の4階に構えるショールーミングストア「明日見世(asumise)」で、新たなテストを始める。展示品は専用のQRコードを読み込み、各ブランドのインターネット通販サイトで購入するが、客から「この場で買って帰りたい」という要望が多いため、早ければ6月から、それに応えられるイベントを開く。例えば6日から展示する「VIGAKU LAB.」の歯ブラシなど、わざわざネット通販サイトで購入するより、持ち帰れた方が客にとって嬉しいアイテムを想定する。取引先の要望も踏まえ、テストマーケティングに繋がるイベントも増やす。明日見世は実証実験の場でもあり、運営を通じて得たデータ、客や取引先の声などを精査し、新たなテストを実施。明日見世の事業継続性を多角的に検証する。

第3弾では、パウダー歯磨き粉や歯ブラシなど「ヘルスケア」のカテゴリーを充実させた

明日見世は昨年10月6日にオープン。同日~今年1月11日までの第1弾、同1月12日~4月5日の第2弾を経て、6日に第3弾に切り替わった。第2弾では、フェムケアや生活雑貨、革小物、宝飾品など第1弾になかったカテゴリーを追加するとともに、NTTドコモと組み、AI(人工知能)による顔認証を活用した客の年齢や性別、売場の歩き方などの分析をスタート。各所に配したカメラで収集したデータによれば、客の約7割が女性、20~30代の構成比が約8割と判明した。

明日見世の事業責任者である廣澤健太本社経営戦略本部DX推進部スタッフデジタル事業開発担当は「第1弾はアンケートでしか客層を分析できないが、40代が多かった。第2弾は化粧品を牽引役に若年層を取り込めた。週末のイベントも定期化したが、参加者から悩みなどを吸い上げ、取引先の物づくりの参考になっている」と手応えを掴む。

一方で、ブランドごとの売上げの差は課題だ。第2弾では衣料品の「SOÉJU」、フレグランスの「DEMETER FRAGRANCE LIBRARY JAPAN」の売れ行きが良く、テキスタイルノートの「HONcept」や化粧品の「DERMED」の担当者からは「凄く満足した」と喜ばれたが、総じて明日見世に出る前から多くのファンが付いており、リアル店舗で商品を試せるようになったブランドが好結果を残す反面、認知度が低いブランドの動きは鈍い。

ただ、明日見世は売上げ以外のメリットを提供する。認知度と信用、そして大丸松坂屋百貨店内での水平展開だ。

「3カ月間で認知度が上がり、(百貨店に出たからこそ)次にどこかへ――という時の信用も得られる。さらに、第1弾で登場した『ANDIZUMO』は大丸東京店でのポップアップストアに、同じく『WRINN』は大丸松坂屋百貨店のファッションサブスクリプションサービス『AnotherADdress』での取り扱いに、それぞれ結び付き、第2弾に名を連ねた『On de miu』は大丸梅田店が5階に擁する女性のリズムや悩みなどに寄り添うゾーン『ミチカケ』に入った。(主にコロナ禍によるブランドの改廃で)百貨店の中層階が空いていく中、明日見世をステップに、それを埋める存在になってくれたら理想だ」

廣澤氏は成果と期待を強調する。第3弾では、より多くの“果実”を客や取引先に提供できるよう、新たなテストに着手。ネット通販サイト以外でも商品を購入する機会を設けるほか、いわゆる「モニター会」も計画する。

第1弾と第2弾では、客から「この場で商品を買って持ち帰りたい」という声が多く寄せられた。廣澤氏は「歯ブラシなどは持ち帰れる方がお客様にも販売員にもメリットがあるが、そもそもは取引先が新しいお客様を固定化したいからこそ、それぞれのネット通販サイトに誘導しており、(店舗での販売は)慎重に考えたい」とした上で、まずはイベントでの販売に踏み切る。早ければ6月から、父の日商戦に合わせて“買えるイベント”を行う。

モニター会は第3弾の期間中の開催を目指す。大丸松坂屋百貨店がモニター会に必要な場所と人を用意し、取引先が一定の費用を払う形だ。通常、専門の会社にモニター調査を依頼すると100万円ほどの費用がかかり、小規模なD2Cブランドには負担が大きい。大丸松坂屋百貨店に「もう少し安価であれば利用したい」という取引先は少なくなく、出品料のみで運営する明日見世の新たな収益源にして、事業の採算性を高める。

取引先とは、他にも懇親会や個別のミーティングを実施。第2弾に続いて開いた懇親会では取引先同士の情報交換やコラボレーションを促し、第3弾が初となる個別のミーティングではアンケートも交えて取引先の問題などをケアする。

取引先を手厚くサポートするのは「1つ1つのブランドを大事にすると、口コミでコネクションやネットワークが広がる」(廣澤氏)からだ。ショールーミングストアを継続できるかどうかは、取引先の数にも依存するだけに、常にウィンウィンの関係を追求する。

多くのテストを散りばめた第3弾は、「コロナ禍でのQOLの向上」(廣澤氏)を目的に、テーマを「暮らしを良くするヒントとであう」と定め、「ビューティー」や「ライフスタイル」、「インナーウェア」といったカテゴリーにフォーカスした。

大正10年創業の正岡タオルが手掛ける「TRUE TOWEL」

ブランドの数は、創業90年余りのスモカ歯磨が2020年に立ち上げたパウダー歯磨き粉のブランド「MASHIRO」、80年以上に亘り歯ブラシを製造・販売するタナベが昨年にデビューさせた「VIGAKU LAB.」、創業50余年の白鷺ニット工業がスキンケアの発想で生み出した肌着「HAKURO」、大正10年から続く正岡タオルが手掛けるハイグレードなタオル「TRUE TOWEL」、スタンフォード大学の西野精治教授が創業者兼最高研究顧問を務める寝具の「Brain Sleep」、ヨーロッパで活躍する若手女性アーティストによる日本初上陸のアートポスター「DeCasa」、韓国でトップシェアを誇る空気清浄機の「COWAY」ら19に上る。

スタンフォード大学の西野精治教授が創業者兼最高研究顧問を務める「Brain Sleep」

なお、第3弾は6月28日まで続く。第1弾と第2弾の報道や賑わいもあり、D2Cブランドを展開する企業からの問い合わせは引きも切らない。明日見世は着実に根付きつつある。

(野間智朗)

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