2021年11月27日

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阪神梅田・名鉄本店、独自性を磨いて差異化に邁進 ホームファッション特集

10月8日にリニューアルオープンした阪神梅田本店

今秋にリニューアルオープンした阪神梅田本店、名鉄百貨店本店のリビング売場は、独自性に磨きをかけている。「イエナカ」、「巣ごもり」需要によってリビング領域には追い風が吹くが、これら両店が居を構える大阪、名古屋地区は多くの百貨店が集まり、阪急うめだ本店、ジェイアール名古屋タカシマヤという「圧倒的地域一番店」も存在。競合との差異化は欠かせない。阪神梅田本店は実際に調理や試食ができるイベントスペースや、希少性の高いホームデコ用品を集めた自主編集売場など、ユニークな売場を用意。名鉄本店は売場の移設に合わせて伝統工芸品を集めたコーナーを新たに開き、クラウドファンディングで製作された商品を揃えるなど、他店で扱っていない商品を積極的に取り入れている。


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阪神梅田本店、調理イベントや希少品で「ここだけ」訴求

阪神梅田本店のリビング売場は、調理道具の実演や最新調理家電の使い方のレクチャーなどを行うイベントスペース「ライブキッチン」、ウォールデコを楽しむアイテムやオブジェなどを揃えた自主編集売場「デコデコリビング」などを設け、「ここでしかできない」体験価値の提供に邁進する。

同店は2014年から7年に亘り建て替え工事を行い、今年10月8日に第2期がオープン。リビング売場は「暮らしのセルフクリエイト」をテーマとし、自分らしい暮らしをクリエイトする情報や体験を発信する「リビングワールド」、自分らしい部屋づくりを楽しめる、セルフリノベーションのための「インテリアデコワールド」、テナントの「無印良品」の3つを中心に構成。このうちリビングワールドは10月8日に先行オープンし、インテリアデコワールド、無印良品は12月のスタートを予定する。

調理イベントが楽しめる「ライブキッチン」は、内装を刷新

リビングワールドの「ライブキッチン」は同店の18年6月の第1期棟オープンの際に新設されたもので、今回は内装を刷新している。ライブキッチンを設けたのは、「お客様に商品のリアルな使用感を知ってもらうためだった」とライフスタイル営業統括部リビング・アート&カルチャー商品部マーチャンダイザーの坂本有香氏は説明する。「百貨店の家庭用品売場ではメーカーから派遣されたスタッフが実演販売をすることが多い。しかしスタッフは調理に手慣れているので、実際に買って使ってみると、『思っていたのと違う』と感じるお客様がいた」。加えて、派遣スタッフはそのブランドの商品しか勧められないが、ライブキッチンでは「ナビゲーター」と呼ばれる百貨店の販売員によるブランドやメーカーを超えた提案もできる。

実際にイベントは好評で、例えばコーヒー豆を挽いてコーヒーをつくるイベントでは、「コーヒーミルのハンドルを回すの音や感触までわかり、実際に家で使うイメージがしやすい」という声が寄せられた。また、もともとPRしたかった商品ではなく、ナビゲーターが何気なく使用した調理器具に客が関心を持ち、売れるケースも少なくないという。「とある調理イベントでは、鍋をメインに料理実演をしていたところ、最後に使用したチーズおろしにお客様が関心を抱き、予想外にチーズおろしが完売した」(坂本氏)。こうしたイベントが「人との信頼性、関係性でモノが売れること」を知る機会となり、品揃えや、客とスタッフのコミュニティを深めるためのテーマ設定に生かしている。

今回のリニューアルではイベントの内容をナビゲーターとのコミュニティや体験を深めるメニューに、店装を〝自宅風〟にした。以前は「サロン」をイメージしていたが、より親しみやすくリラックスできるような空間を目指した。さらに、商品の使い心地を知ってもらうことの重要性を感じたため、ライブキッチンの隣に家電を実際に使用できるコーナーを新設している。

12月にオープンする「インテリアデコワールド」は、自主編集売場の「デコデコリビング」とDIY系ブランドのショップなどで構成。最近は消費者の価値観の多様化が進み、「個性を暮らしの中で表現したい」という需要が高いため、それに応えるために新設した。「暮らしのセルフクリエイト」というフロアのテーマを最も色濃く表現している場所でもある。

デコデコリビングは古道具やウォールデコアイテム、花瓶、キャンドルなどを集積。個性を表現できるように様々な素材やデザインのものを揃え、スモールマスを重視した。SNSで人気を博している、タイのセラミックアートブランド「YARNNAKARN(ヤナカーン)」を中心に、セレクトショップのECサイトでしか販売していないような小規模なブランドも扱う。

中には、バイヤーが直接作家やセレクトショップのオーナーに連絡を取り、交渉したブランドもある。「他では扱っていない商品を用意することで、出会いや見つける楽しさを提供したかった。セレクトショップのECサイトでしか販売していないようなアイテムやブランドは特に、現物を見れるのが関西では当店だけ、という強みにもなる」と坂本氏は語る。

インテリアワールドには他に、タイルや壁紙などのDIYアイテムが揃う「デコール・インテリア・トーキョー」や、ライフスタイルショップ「クラスカ ギャラリー&ショップ❝ドー❞」といったショップが並び、隣には無印良品もテナントとして入るため、それらと組み合わせてホームデコを楽しむことを推奨する。「人によってこだわるポイントはそれぞれのため、汎用性の高いもの、希少性の高いものと好みで使い分けしてほしい」(坂本氏)。

ライブキッチンで商品の使い心地を体験したり、意外な商品の良さを知ったりするのもそうだが、インテリアデコワールドで希少性の高い商品を探したり、組み合わせてどうリノベーションするかを考えたりするのも〝コト体験〟と言えるだろう。こうした体験価値を提供しながら、売場も客とのコミュニケーションを通じて得た発見を基に、アップデートを重ねていく方針だ。

 

名鉄本店、伝統工芸品やクラウドファンディング商品を拡充

和洋食器売場の様子

名鉄百貨店本店のリビング売場は、今秋の改装で他の売場からの買い回りを増やすと同時に、独自の品揃えを強化する。8階から6階へ移設することで周囲のテナントや催事場との回遊性を高めたが、それだけでなく介護用ベッドや伝統工芸品などの取り扱いを始め、売上げの伸長や顧客の育成を図る。

同店は名古屋鉄道が主導する「名鉄名古屋地区再開発計画」で再開発に取り掛かる予定だったが、コロナ禍によって延期となった。そのため今年を仕切り直しの「リ・スタートの年」と位置付け、9月~12月にかけて全館規模でリモデルを実施した。

リビング売場は9月1日に、本館8階から同6階に移設した。コロナ禍をきっかけにリビング用品の需要が高まり、同店でもパジャマや寝具、タオル、キッチン用品などが健闘。売場を下層階に移すことで、さらなる売上げの拡大を狙った。同店はメンズ館5階に「ロフト」、同6階に「無印良品」、本館7階に「ニトリ」、同7階に催事場と集客力の高い売場を有しており、これらに近い本館6階に構えることで、買い回りを促進。以前のリビングは60代以上の女性が主要客層だったが、若年層や男性など、より幅広い層の取り込みを目指した。

店装は床や柱を刷新し、7階からの下りエスカレーターから売場への導線を広く取った。すると狙い通り、30~40代を中心に、テナントや物産展から来る新客が増加。「シェア ウィズ 栗原はるみ」や「ハウスオブローゼ」といった比較的若年層向けのブランドの9月の売上げは前年を上回った。6階の一部には婦人服の特選ブランドがあるが、そこに来た富裕層の客もリビング売場へ回遊するようになり、客層の拡大に成功した。

移設改装によって客数が増加したが、それだけでなく、他にないような品揃えを拡充している。「来ていただいたお客様が1度だけではなく、何度も足を運ぶ〝ファン〟になっていただくため」と本店リビング・呉服・宝飾・美術営業部リビングシニアバイヤー松本健一郎氏は意図を明かす。同店が位置する名古屋地区には多くの百貨店が居を構え、「有名ブランドの品揃えだけでは勝負できない」(松本氏)という背景もある。

西川の商品を販売する「西川スリープナビ」は以前から入っていたが、移設を機に「パラマウントベッド」のベッドも扱うコラボレーションショップにリニューアルした。パラマウントベッドは高価だが医療や介護向けとして適しており、外商客のニーズがあると判断。置けるベッドの数は多くないが、関心を持った客には近隣のショールームを案内するなどして対応している。

伝統工芸品を集積したコーナー

加賀を中心とした伝統工芸品も、「他ではなかなか扱っていない」(松本氏)として着目しており、伝統工芸品を集めたコーナーを新設した。加賀の伝統工芸である輪島塗、九谷焼、山中漆器に加え、江戸切子や薩摩切子などを揃える。

伝統工芸品の取り扱いは以前から始めており、昨年から加賀の漆器職人による「金継ぎ」サービスを定期的に行っていた。店頭で見積もりを出して受注し、商品は石川県の職人へ送って金継ぎを施す。期間限定の開催だがチラシでの宣伝などが奏功し、実施する度に問合せや注文が多く来るという。今回の工芸品コーナーの新設も、金継ぎサービスの結果が後押しして実現した。

加えて、クラウドファンディングサイト「マクアケ」を通じて商品化されたアイテムも積極的に取り扱う。石川鋳造の「おもいのフライパン」、コーワの「ワンストローク」は、どちらも愛知県の企業ということもあり、バイヤーが直接現地に赴き交渉。それぞれ今年4月、9月にポップアップを開催したところ、おもいのフライパンは1週間で10本以上、ワンストロークは1カ月で30本以上が売れた。好評を受け、現在は常設で展開している。

通販雑誌「カタログハウス」とコラボしたポップアップも行った。同雑誌に掲載されている商品をバイヤーがセレクトし、7階の催事場で行う北海道物産展に合わせて、今年10月に1週間販売。マキタのコードレスクリーナーは1週間で70台以上が売れるなど、予想を超える売れ行きを示した。

こうしたブランドや商品はバイヤー自身が探し、直接交渉する。新規であるため苦労も多いが、同店に出すメリットや想いなどを伝え、実現にこぎ着けているという。「大変さはあるが、我々のような百貨店は、ほかの百貨店が扱っていない商品を扱うことで魅力を高めたい」と松本氏は強調する。

 

これら両店とも改装で単に内装を新しくしたり、新ブランドを導入したりするだけでなく、「この店にしかないモノ・コト」を提供する新しい試みに取り組んでいることがわかる。百貨店の品揃えの均一化は近年顕著な傾向だが、それでは大規模な競合他店には勝てず、差異化も難しい。阪神梅田本店と名鉄本店は他にはない商品を見つけ出す目利き力や企画力、売場の編集力を最大限に生かし、独自の売場の構築に挑んでいる。