2021年11月27日

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【連載】富裕層の事業継承問題② 上手に親族に事業を承継するノウハウを伝授

写真はイメージです Photo by Oliver Niblett on Unsplash

コロナ禍において、会社を引き継ぐ「事業承継」は待ったなしの状況になっている。そこで前回に引き続き、プライベートバンカーなどに寄せられる相談を元に、事業承継のノウハウについてお伝えする。今回は事業を引き継ぐ子どもなどがいる「親族内承継」について取り上げる。

 

相続税と贈与税が免除される特例措置

「子どもがようやく跡を継いでくれることに同意してくれてホッとした」

都内で中小企業を営む60代の男性はこう語り、胸を撫で下ろす。しかし子どもの了承を得られたことで安心したものの、今度は新たな不安に襲われた。

「一体、どのように事業承継すればいいのか、具体的に何をすればいいのかわからない」と頭を抱えたのだ。そこで社長は、古くから付き合いのあったプライベートバンカーに相談する。するとこう言われたという。

「タイミングややり方次第で得もするし、損もしますから、しっかりと勉強してからやったほうがいいですよ」

社長は早速、プライベートバンカーに教えを請うた。

「親族内に後継者がいる場合、株式を相続したり贈与したりする際の税金をいかに少なくするかがポイントです。そこで最初に検討すべきは『事業承継税制』の『特例措置』です」

プライベートバンカーが語る特例措置とは、事業承継を進める必要性があると考えた国が、2018年度の税制改正で導入したものだ。事業承継税制とは、後継者が株式を相続や贈与で引き継いだ際に、本来支払うべき多額の相続税や贈与税の納税が猶予される制度。引き継いだ後継者が亡くなると、猶予されていた税金は免除される。

この税制が導入されたのは2009年のこと。だが、対象とされていた株式は全体の3分の2まで。猶予割合も贈与で67%、相続で53%が上限とされていた。また、5年間は8割の雇用を維持しなければならないといった要件もあり、結果的に、わずか1965人にしか利用されなかった。そのため国は「特例措置」を導入、格段に使いやすくしたのだ。

最大の特徴は、「全株式にかかる100%の税金が猶予、免除の対象」となる点だ。簡単に言えば、相続税・贈与税が全てタダになるということだ。後継者も最大3人まで指名できるようになった。これによって長男だけでなく、その兄弟にも株式を譲渡することが可能になったわけだ。また、経営者以外が株式を保有している場合でも、後継者に集約させることができるようになったし、ネックとなっていた雇用確保の条件も緩和され、雇用を維持できない理由を報告すれば猶予されるようになったのだ。

事業承継を進めるためには何だってするといわんばかりの大盤振る舞い。こんな特例措置を「使わない手はない」とプライベートバンカーは訴える。ただ「注意しなければならない点がある」と付け加える。というのも、この措置は10年間限定で、27年末までの相続や贈与にしか適用されないからだというのだ。しかも、適用には「特例承継計画書」を提出する必要があり、その提出期限が23年3月末までとなっている。つまり、残された時間はわずかしか残されておらず、早めに準備を進めなければならないのだ。

ただ計画書といっても、作成自体はそれほど難しくない。中小企業庁のホームページで確認ができる。具体的な数字で必要なものは、資本金と従業員数、承継時期のみ。他には承継前に抱えている課題や、承継後5年間の経営計画を記入しなければならないが、後から変更することも可能だ。

 

株価を下げて税金を抑える

事業承継税制を使わない場合には、税金を払って株式を贈与することになる。年間110万円以内であれば贈与税はかからないが、事業承継ともなればその範囲に収めることは難しい。課税対象となる財産が3000万円以上であれば、税率は55%。半分以上、持って行かれることになる。

こうした贈与税を減らすためには、「課税対象となる『株式の評価』を引き下げるしかない」とプライベートバンカーは語る。そこでまずは、非上場企業の株価がどのように決まるのかを説明しよう。

非上場企業の株価を決める方法は2種類あり、多くの場合はその2つを組み合わせて評価する。1つが業績によるもので、「類似業種比準価額」と呼ばれる。マーケットで株価がついている類似業種の上場企業と比較して、どれだけ利益を上げているかを計算するのだ。類似業種の実績をベースに配当、利益、バランスシートの純資産の大きさを比較して算出する。

そしてもう1つが純資産によるもので「純資産価額」と呼ばれる。会社を解散したときにいくら手元に残るかを示しているイメージだ。こちらの純資産は時価で計算される。不動産の含み益などがある場合は、バランスシートの見た目より評価が大きくなることも少なくない。時価の総資産から時価の負債を引いた含み益に当たる部分から、法人税に相当する額、37%を控除して算出される。

それぞれの計算方法で算出される評価を引き下げることができれば、株価は下がっていく。となれば、利益の少ないときを狙うのがベスト。そういう意味では、「新型コロナに襲われた今は絶好のタイミング」(プライベートバンカー)といえる。

さらに株価を引き下げたい場合には、「あえて損を出すという裏技もあります」とプライベートバンカーは声をひそめながら語る。

よく用いられるのは、役員に対する退職金の支払いだ。金額が大きいため、利益を大きく下げることができるからだ。値下がりしている不動産などを所有していれば、売却して損失を計上するのも有効だ。株やゴルフ会員権なども同様に、含み損の処理ができる。新型コロナで先行きが不透明なため、あまりお勧めはできないが、中には航空機や船舶をオペレーティングリースにして、初年度の重い減価償却費で利益を押し下げるといったことまでする会社もある。

一方、純資産を減らす方法には、借り入れをして賃貸用不動産を購入する方法が一般的だ。賃貸用不動産は「貸家」や「貸家建付地」になるため評価が下がり、取得時との差額で純資産価額を引き下げることができるためだ。

こうした方法を検討した上で、もう一つポイントとなるのが「会社の規模」。一般的に、規模が大きいほど株価が安くなるからだ。前述した通り、株価を決定する際には2つの計算方法を組み合わせる。その比率は会社の規模によって決まり、大きな企業ほど類似業種非準価額の割合が大きくなる。類似業種非準価額と純資産価額は、前者の方が低くなるケースが多いため、規模が大きいほど有利になるのだ。

会社区分を決める方法は少し煩雑だが、「会社規模を大きな上の区分にするために、従業員が増えたり、借り入れで総資産が増えたりしたタイミングを狙って株を譲渡すればいい。また、子会社や関連会社がある場合には、合併することで上の区分に上がる可能性もある」とプライベートバンカーはアドバイスする。

会社区分が一つ上に上がるだけで、贈与税が数億円下がることもあるため、その影響は決して小さくない。株価が低くなるタイミングを逃さないためにも、毎年の決算後に必ず株価を算定しておくのが鉄則だ。

 

資金不足なら種類株を発行しよう 

ただ、いざ承継しようとしても、「後継者に資金が足りないことがよくある」とプライベートバンカーは明かす。そんな時の解決策の一つが、「種類株」を発行する方法だ。配当優先無議決権株式を発行し、従業員などに持たせれば、贈与する株式数を減らしつつ、経営権は譲渡することができる。

親族以外に株式を譲渡する場合には、前述した評価方法とは異なり格段に安く済むため、従業員が株式を取得する資金はそこまでかからない。取得条項付き株式として、退職した場合に会社が買い取るように定めておけば、株が見知らぬ人に分散することもない。そして、従業員にとっても配当が得られるため、業績向上へのモチベーションにつながるというメリットもある。

このとき、従業員ではなく「後継者の兄弟などに渡すのも有効な手段だ」(同)。「子ども全員に資産を残すことで、“争族”を回避しつつ、議決権は後継者1人に集約することができる」(同)というわけだ。後継者が引き継ぐ株式を配当の少ない劣後株にしておけば、その株価をさらに下げることもできる。

また、「持ち株会社の設立も選択肢の一つ」とプライベートバンカーは言う。後継者が持ち株会社を設立し、承継する会社を子会社化する。こうすれば、承継した会社の相続税はかからない。そして、後継者が次の世代に承継するのは持ち株会社の株式になるため、承継した会社の業績が好調で株価が上昇したとしても、それはあくまで含み益扱い。一方、規模が小さな持ち株会社の株式の評価は純資産価額のことが多いため、その37%は控除される。つまり、直接的に株を承継していくよりも税負担を小さくできるわけだ。

ただ、この方法には注意が必要。コストがかかるからだ。持ち株会社を設立すれば、株式購入資金を用意する必要があり、銀行からの借り入れが必要だ。その他にも新会社の設立コストや将来の事務負担なども発生、経営者には譲渡益に対する税負担も発生する。

親族内承継というと、株式を相続するだけと思いがちだが、今すぐにでも考えるべき課題は多い。プライベートバンカーは「親族内承継は、必ず生前に行わなければいけない」と強調する。遺言で自社株を渡すのはもってのほかだというのだ。というのも、自分が死ぬタイミングの株価はコントロールできないため、割高な株価で相続しなければならなくなる可能性があるからだ。また、誰に渡すか決めたつもりでも、遺言は相続人の意見の相違で覆されるケースもある。

生前であれば、何か問題が起きても解決できる。実際によくあるのは、株式が分散しているパターン。それぞれの株式が次世代に引き継がれると、おのおのの判断で売却してしまうため株式が分散して集約することが難しくなってしまうのだ。これでは決定権を持てないどころか、高い価格で株を買い取る必要まで出てくるし、それでも解決できなければ少数株主排除といった強硬手段を取らざるを得なくなってしまうから注意が必要だ。

 

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【連載】富裕層の事業継承問題③ M&Aが事業承継で活用されている理由

 

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