2020年06月03日

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三越伊勢丹、アナログとデジタルの融合で〝ピタッと合う靴〟提案

2020/05/16 10:00 am

※この記事は「週刊デパートニューズ」4月15日号からの抜粋です

ジャストフィット、見つけます――。三越伊勢丹が昨年8月28日に婦人靴売場で始めた、専用の機器で足型を精確に計測し、ピタッと合うパンプスを提案する「Your FIT 365」が好評だ。今年3月下旬までに約4000人が利用。推奨されたパンプスの履き心地の良さが女性を驚かせ、このサービスを介した売上げは目標を上回っている(今年3月27日時点)。パンプスの売上げも、三越伊勢丹グループの全国平均が前年比で8割ほどの中、前年を捉えており、同サービスが起爆剤となった格好だ。今年3月25日には“紳士版”も稼働した。三越伊勢丹が靴の販売にデジタルを融合した背景には、百貨店業界で低迷が続くパンプスやドレスシューズを浮上させたいという想いもある。計測によって蓄積したデータを活用すれば、アナログでは見逃される売れ筋や客の要望も捉えられる。それをメーカーにフィードバック。共存共栄を目指す。

伊勢丹新宿本店の婦人靴売場

「Your FIT 365」(以下、ユアフィット365)の構想は、約3年前に生まれた。当時を知る鈴木悠太クロージング&アクセサリーⅠグループ新宿婦人・婦人雑貨営業部計画担当付スタッフマネージャーが振り返る。

「店頭で感じる変化が顕著だった。人々の足に対する関心が強まり、靴にはフィット感を求める。しかし、靴の売り方は何十年も同じだった。伊勢丹新宿本店では約5500足の婦人靴を揃えるが、お客様はどれが合うか歩き回って探さなければならない。それはストレスに繋がる」

すぐに動いた。ある企業が展開する、専用の機器を使って三次元で足型を計測するサービスを導入。データを基に、最適な靴を素早く見付けられる販売を試みたが、「精度が満足できるレベルに達しなかった」(鈴木氏)。ようやく巡り合ったのが、アイウェアラボラトリーの「INFOOT」。速く精確に足型を計測できる“相棒”を得て、再び改革に乗り出した。

目指したのは、もはや広く普及した「足型を計測するサービス」と一線を画す新たな販売だ。メーカーに協力を依頼。鰻屋のタレと同様、秘伝と言える木型の情報を得ると、計測した足型と売場で扱う商品の木型をマッチングさせ、最適な靴を推奨するユアフィット365を開発した。

昨年8月28日、同日に婦人靴売場を新装オープンした伊勢丹新宿本店で稼働。三越日本橋本店や三越銀座店でもポップアップストアの形式で提供し、今年3月27日までに3店舗で約6000人が利用した。2020年度(20年4月~21年3月)は、地域事業会社の新潟伊勢丹や名古屋三越でも取り組み、5店舗で1万人を見込む。ユアフィット365を介した靴の売上げは目標を上回っており、特に不振が続くパンプスの拡販に繋がった。婦人靴は主にオーダーメイドと既製品に分かれるが、売上げの比率は前者が2割、後者が8割を占める。

多くの女性に支持された理由を、鈴木氏は「精確な計測が6割、スタイリスト(販売員)のフィッティングが4割」と分析する。同じ足型でも、履き心地の好みは分かれる。きつめ、ピッタリ、緩め、そうした志向も踏まえて商品を勧められる、優れた販売員の存在が大きい。

ユアフィット365が新客を開拓したエピソードも、枚挙に暇がない。例えば50代の女性は、長く自分の足のサイズを23cmと思っていたが、計測の結果は23.5cm。実は23cmは以前に試したが、幅が広くて合わなかったという。しかし、ユアフィット365が推奨した23.5cmの商品は、ジャストフィット。4足を買って帰った上、後日に3足を追加した。

鈴木氏は「巷間、『パンプス離れ』と言われるが、原因は選び方の難しさ。ユアフィット365の利用者の6割は20代~30代で、『パンプスを履きたい』という潜在ニーズは多い。20代~30代で履いた経験があり、育児が一段落して職場に戻り『もう一度』と思う50代にも響く」と手応えを掴む。

一方で、課題も散見された。品揃えと接客に費やす時間だ。伊勢丹新宿本店の婦人靴売場では約23のブランド、約1000種類を揃えるが、順次拡充する。ユアフィット365による接客は、平均で約70分。専門的な知識と技術を持つ「シューカウンセラー」に相談できる「シューカウンセリングサービス」の約90分よりは短いが、通常の接客の約40分と比べると長く、担当する販売員の負荷が重い。短縮のカギは、データだ。データが増えれば、推奨の精度が上がり、接客の時間は減る。販売員が全力で一人ひとりと向き合えるように、データの蓄積を急ぐ。

アプリで自分のサイズを記録できる

好評を受け、今年3月25日には伊勢丹新宿本店の紳士靴売場で「ユアフィット365 イセタンメンズ」を始めた。婦人靴と同様、専用の機器で足型を測定。約20のブランド、約400種類のドレスシューズから”ベストマッチ”を示す。齋藤将吾クロージング&アクセサリーⅡグループ新宿紳士営業部セレクトショップ担当紳士靴アシスタントバイヤーは、売場の問題の解消と新しい買い方に期待を寄せる。

紳士靴でも今春に稼働した

「メンズ館の特性を重視し、高感度な男性に向けて多くの別注や限定を手掛けてきたが、飽和状態に陥った。売れ行きにも差が目立ち、在庫のバランスは悪化してきた。そもそも、今のニーズは『ピッタリと合って、格好良い』。特に男性の場合、ドレスシューズとスニーカーではサイズが大きく異なる。ユアフィット365を利用すれば、今後の靴の『買い方の基準』が分かる。そこに商機がある」

ある男性は、計測後に推奨された1足目がピッタリで、それを買って帰ったという。男性は目的買いが多く、時短を望む。ユアフィット365との適合性は高い。

田畑智康クロージング&アクセサリーⅡグループ新宿紳士営業部セレクトショップ担当紳士靴バイヤーも、ユアフィット365に勝算を見出す。

「アナログでもデジタルでも、15分もあれば足型は精確に調べられる。5年前には到達した技術で、その後の提案が弱かった。インターネットが普及し、何でも調べられる、比較できる時代に、リアル店舗に足を運ぶ男性は『自分にピッタリ』を妥協しない。それに応えるためには、アナログとデジタルを融合させる必要があった。若い男性の予約が多く、新しいお客様との接点を増やせる」

三越伊勢丹が靴の販売にデジタル技術を採り入れた背景には、強い危機感がある。パンプスやドレスシューズの販売不振だ。地域事業会社を含めた三越伊勢丹グループにおけるパンプスの売上げは全国平均で前年の8割程度(今年3月下旬時点)、ドレスシューズも伊勢丹新宿本店では2015年をピークに減少へ転じた。百貨店業界全体でもダウントレンドで、近年はメーカーや問屋の廃業も相次ぐ。三越伊勢丹は、デジタル技術を活用した販売でジャストフィットを求める客の購買意欲を喚起するとともに、足型などのデータを蓄積。メーカーに還元して売れ筋の創出や在庫の圧縮に繋げ、収益性を上げる。

「商売の構造を変えたい」。田畑智康クロージング&アクセサリーⅡグループ新宿紳士営業部セレクトショップ担当紳士靴バイヤーは“真意”を明かす。ユアフィット365は客だけでなく、百貨店やメーカーのソリューションとしても役立てる。従来の勘や感性に頼った発注、開発からの脱却だ。在庫の余剰も含めて、靴のビジネスモデルには問題が山積という。

例えば、伊勢丹新宿本店の紳士靴売場で100人の社員がユアフィット365を試したが、約3%に合う既製品がなかった。1500ものSKUを取り揃えながら、だ。田畑氏は「サイズの分布が偏っており、大きな的に遠くから矢を放つ状態だった。データをメーカーに渡し、発注時のサイズのバランス、物づくりを改め、近い距離から多くの矢を放てるようにしたい」と意気込む。

メーカーも賛同する。木型のデータを提供。“虎の子”を渡してでも、新たな商機を切り拓く。伊勢丹新宿本店の紳士靴売場は、早期に8000人分のデータを収集、分析。メーカーに協力を求め、精度の高い商品を短期間で投入できる体制も整え、「まずはナショナルブランドを、そして業界を元気にする」(田畑氏)。

田畑氏は「紳士靴売場では10年くらい、新しい提案から遠ざかっていた」と自省する。結果、売上げは右肩下がりだ。好転させるためには、抜本的な改革が欠かせない。アナログとデジタルの掛け算で、靴のビジネスモデルを再構築しようとする三越伊勢丹。その挑戦は靴業界の未来を背負う。