2025年10月22日

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アンドエスティ 自社ECサイトに大手4社が出店 プラットフォーム化目指す

15日に開催された「『and ST』VISION CONFERENCE 2025」の様子。and ST HD社長兼and ST社長 木村治氏は前列右から3番目

and ST HD(アンドエスティホールディングス)のグループ会社アンドエスティは15日、ECサイ「and ST」」に同業他社のユナイテッドアローズの「BEAUTY&YOUTH」が出店すると発表した。9月24日にはニューバランスジャパンの「ニューバランス」がオープンしており、22日にICLの「アフタヌーンティー・リビング」、29日にジュンの「SALON」「VIS」「ROPE PICNIC」「EPOR」もオープンする。アンドエスティはアパレル事業からモール&メディア事業に軸をシフトしており、2030年までにプラットフォーム事業で流通総額(GMV)1000億円を目指す。

and ST HDの25年2月期の売上高は2931億円と、国内アパレル業界で3位。国内のEC売上高は728億円。柱となる事業は3つ。①中国や台湾、香港、タイ、フィリピンなどでの店舗展開を担うグローバル事業②自社ブランドや実店舗運営を進めるブランドリテール事業③自社ECサイト「and ST」や原宿にある旗艦店を推進するプラットフォーム事業。それぞれがグループに対する価値拡大のアクセル、価値創造の基盤、価値革新のエンジンの役割を担い、シナジーを生む事業構造を整える。

プラットフォーム事業を担うECサイト「and ST」は、25年9月末時点で2070万人の会員を抱え、2100万人も間近。アクティブ会員数は770万人を数え、アプリ経由売上げは70%以上になる。扱うカテゴリーはファッションからライフスタイル、フード、ビューティーまで幅広く、グループブランド以外の売上げが約1割を占めるまでに成長した。同業他社と協業することでオープンプラットフォーマーの地位を築き、事業拡大を図る。

「物を売るだけではなく、いかにスムーズに価値提供ができるか、いかにファンになってもらえるかという視点に立ち、お客様を第一に考えた時、チャンネルを横断するのは当たり前のこと」とユナイテッドアローズOMO本部本部長の岩井一紘氏は語る。

and ST HD社長兼and ST社長木村治氏も「これまで1年に亘り各社に足を運んできたが、各社社長との会話から、我々世代で考え方が変わったと感じる。これまでなら当社ECサイトに他社が参加することは難しかったと思う。マーケットが10兆円あった時代とは変わった。利益を独占する時代は終わり、今後は利益をシェアしながらどうやって業界を盛り上げていくかを第一に考えるべき。異なるカテゴリーをミックスし、複合的な体験価値を仲間とともに提供していきたい」と話した。掲げたキーワード「ファッション業界をコネクトする 競争を超えて、共創する未来へ」には熱い思いが込められている。

トークセッションの様子。左からジュン専務取締役上席執行役員渡辺明利氏、ICLアフタヌーンティー・リビングDiv.ECディレクターの岡本昌和氏、ユナイテッドアローズOMO本部本部長の岩井一紘氏、ニューバランスジャパン常務取締役営業本部長の江川英孝氏、木村氏、and ST取締役CSOの田淵淳也氏

参画する全社が木村氏や同社社員の熱意に共感したと口を揃える。ICLアフタヌーンティー・リビングDiv.ECディレクターの岡本昌和氏は「会員数は単なる数字ではなく、ブランドの価値や理念、企業姿勢や熱意がお客様に伝わっている証」と述べる。

「新しい価値やニーズを獲得し、マーケットを活性化していきたい」と岩井氏が語る参画理由も各社に共通する。各社は直営店も自社ECサイトもあるが、若年層へのアプローチを課題に上げる。「and STの会員基盤、自社が出店できていない領域での実店舗数1400店は何よりも魅力で、同社の強みである全国の店舗スタッフおすすめのアイテムやコーディネートなどを紹介する人気コンテンツ『スタッフボード』の投稿も、新たな視点をもたらしてくれる」と期待を寄せる。

原宿にある同社の旗艦店で9月にポップアップを開催した、ニューバランスジャパン常務取締役営業本部長の江川英孝氏によれば「協業の話は即決」だった。「各社強みが違うが、その強みを消し合うのではなく高め合えたら、ファッション業界がより良くなると思う」とのジュン専務取締役上席執行役員渡辺明利氏の言葉からも、ファッション業界の新しい未来をともに目指す思いが伝わる。

and STと協業する4ブランド

9月には自社ポイントに加えてdポイント、楽天ポイントも同時に貯めて使える「トリプルポイント」を実現した。24日には俳優の浜辺美波さん、楽曲にミセスグリーンアップルを採用したTVCMがスタートし、プロモーションも本格的に始動する。27日にはスマートフォンで金融サービスを提供する「みんなの銀行」and ST支店がオープンし、来春には口座決済を実装予定している。12月1日には自社クレジットカード発行と新たな事業展開が控える。

原宿の旗艦店はオープンから半年を経ず年間目標来店数100万人の半数を超える実績を上げている。コナンなどの人気アニメや映画「8番出口」、ベイビーモンスターといったエンタメとのコラボも好評だ。「物を売るだけでなくカテゴリーを超えてお客様のライフスタイルにワクワクを提供していきたい」とand ST取締役CBOの小林千晃氏はミッションに言及する。同社はZ世代に支持されるリアルな体験場としての路面店を強みに、共創するECサイトの運営により、オープンプラットフォーマーとして躍進を続ける。

(北野智子)