2024年12月04日

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大丸松坂屋百貨店のファッションサブスク、黒字化へ勝負の3年間

大丸松坂屋百貨店が手掛けるファッションサブスクリプション「アナザーアドレス」は、登録会員数が12万を超えた

大丸松坂屋百貨店が手掛けるファッションサブスクリプション「AnotherADdress(アナザーアドレス)」にとって2024年度(24年3月~25年2月)からの3年間は正念場だ。25年度下期に単月黒字を見込み、いよいよ本格的な収益化が求められる。今年2月27日時点で登録会員数は12万人に上り、総レンタル回数は23万着を超えるなど確固たる支持を集め、始動時に2人だけだったスタッフは40人を超えるなど、業容は拡大の一途をたどってきた。事業責任者の田端竜也氏も「(最終目標を富士山の頂上として例えると)5合目までは達した」と手応えを実感するが、黒字化に向けては「ハードルが高い」と慎重だ。そのハードルを越えるため、24年度はラインナップの拡充、ファッションを学ぶ場の提供、リアル店舗との連携、組織改正などを推進。稼ぐ力を高める。

アナザーアドレスは2021年3月にスタートした。月額5500円で1着、同1万1880円で3着、同2万2000円で5着を借りられる。昨年3月にメンズ、同9月に現代アートの取り扱いを始めるなど、ブランドやアイテムの幅を広げながら、昨年9月には「ファッションタイプ診断」を導入し、同12月にはアップサイクルブランド「reADdress(リアドレス)」をスタートするなど、新機軸も打ち出して登録会員数を増やしてきた。

とりわけ、顔のタイプやパーソナルカラー、骨格、好みを分析して似合う服を提案するファッションタイプ診断を始めて以降、登録会員数が急増。23年4月1日時点では約2万人だったが、直近は12万人を数える。あくまでも利用者でなく会員登録者の数だが、潜在顧客の多さを示しており、基盤は厚みを増した。

リアドレスも好調だ。レンタルが難しい状態となった衣料品を黒色に染め直したり、パッチワークなどでリメイクしたりして再び貸し出すが、他にない“一点物”であり、借り手は多い。リアドレスの前に提供を始めた、軽微な傷や汚れがある「ロングライフアイテム」も直近の動きが良く、レンタル率や利用者に買い取られる確率は通常の倍に迫る。

「リアドレスは当初から考えていた。服は使い捨てではない。アナザーアドレスを約2年半に亘り続けてくると、2000~3000着は摩耗などで貸し出せなくなる。現状はうち4割ほどをロングライフアイテムに回しており、残りをリアドレスとして生まれ変わらせるまでには2~3カ月くらいかかるが、単発では終わらせず、毎月か四半期ごとに投入できるよう、各ブランドと組む。ブランドのデザイナーらの手間暇も嵩むが、積極的に協力してくれている。欧米では洋服のトレーサビリティが法制化されていく見通しでもあり、社会課題の解決として『(衣料品の循環は)アナザーアドレス、リアドレスに回せばいい』となるよう、この世界でも珍しいビジネスモデルを成立させる」

田端氏は意欲を燃やす。そのためにもアナザーアドレスの収益性を高め、長く継続させなければならない。会員登録者の12万人を、どう利用者に転じさせるか――。そこに課題が残る。目下、利用者の約7割を東京都で占めており、さらに港区や渋谷区、文京区、江東区に偏る。エリアの拡大、そして「40歳が大きなポイント。データを見ると、明らかに傾向が変わる。それを捉えたコンテンツをつくらなければならない」(田端氏)。

会員登録者数は多いが、なお認知度の向上は不可欠だ。田端氏は「ある服飾系の専門学校で講義したが、200人のうち誰もアナザーアドレスを知らなかった。認知度が足りない」と危機感を募らせる。24年度は情報発信も強化する。

その一環として、ファッションの啓蒙活動も始める。ファッションに関する知識を学べる「着る学校」の西ゆり子氏と協業。西氏のコラムを掲載し、知的欲求を喚起する。田端氏は「自分達で着こなしを選べるようにならないとファッションのマーケットは広がらない。服もワインと同じで、良いモノを知ってこそ真髄が分かる。しかし、料理教室のファッション版は極めて少ない。そこでアナザーアドレスの出番。西氏のコラムを半年読めば、自分で服を選べるようになる。利用者には新しいブランドを知る機会としても役立ててほしい」と狙いを明かす。

新しい利用者との接点を増やすため、J,フロント リテイリンググループのリアル店舗との連携も加速する。今年3月6日には、大丸松坂屋百貨店が大丸東京店に構えるショールーミングスペース「明日見世」に出店。同店のサイネージや「大丸・松坂屋アプリ」で告知し、アナザーアドレスをアピールする。

課題は他にもある。24年度に入り、アナザーアドレスのブランドは300を超え、ラインナップは約10万着まで膨らんだ。選択肢が幅広いのは利用者にとってメリットだが、「探しづらい」というデメリットにもなる。実際、利用者に対するアンケートでも「サービスには満足しているが、探しづらい」という声が多く寄せられた。

キーワードでの検索を搭載するなどUIやUXは順次改善してきたが、「例えば『赤色』『ワンピース』『ロング丈』『レース』など欲しいモノが具体的に固まっている人ばかりではない。ブランドの特徴などを伝え、興味や需要を掘り起こせるような機能を加える」(田端氏)。アナザーアドレスのスタッフが利用者の志向や傾向を分析して選んで送る手もあるが、田端氏は「仮に5着を送るとしたら、うち3着はムダになる」と否定的だ。

昨年に加えたメンズや現代アートの稼働率も上げなければならない。メンズの利用者は約15%で、目標の30%の半分にとどまる。ただ、ファッションタイプ診断を導入して以降は利用者の数が伸びてきており、伸び代は大きい。現代アートはこれまで大々的に宣伝しておらず、今夏を目途にあらためて訴求。在庫の回転率が問われるファッションサブスクという特性上、真夏や真冬向けの衣服は少なく、中でも夏場は利用者が減るだけに、現代アートで補填する。

収益性を高めるためには、トップラインを上げるだけでなく、コストの低減も問われる。中でも在庫の適正化はサブスクの重要課題だ。その改善策として、返却されたアイテムを可視化する。田端氏は「平均で1カ月に1万5000着を貸し出し、1日当たり約500着が戻ってくる。約500着を毎日示せば、閲覧者にとっては新商品に見える。在庫を増やさなくても、鮮度は表現できる」という。

計画通りに利用者が増え、在庫を適正化できれば、25年度の下期には単月黒字が出る算段だ。「タイムマシーンで3年前に戻って、もう1度やるかどうかを問われたら悩む。それほど大変で、同業他社の後追いはないと思えるくらい」と田端氏は笑う。40人超に膨れ上がった組織の長としての責任も重い。「仮説・検証期を経て、24年度からの3年間は顧客拡大期。黒字化を目指す。27年度からは第2創業期で、利益をどう使ってエクスパンドしていくかが問われる」。田端氏は先々に思いをはせる。

顧客拡大期の初年度は、新体制に移行。従来は田端氏が4つのチームをまとめていたが、5つのチームに再編し、それぞれにマネジャーを配置した。「2~3年の経験を積んでスタッフに力が付いてきた」(田端氏)からだ。結果、田端氏がアナザーアドレスの成長戦略を練る時間、外部で宣伝する時間が増えた。総力戦で、黒字化に挑む。

(野間智朗)

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