2024年04月27日

パスワード

購読会員記事

2023~24年のSC業界、店舗の小型化強まる

2023年度冬季定例記者懇談会(2022年12月22日、ホテルメトロポリタンエドモント)

一般社団法人 日本ショッピングセンター協会(以下、日本SC協会)は先ごろ、「2023年度冬季定例記者懇談会」を開いた。23年のSCのオープン数とその概略および24年にオープン予定のSCなどについてと、第48回日本ショッピングセンター全国大会の取り組みなどを発表した。また、小田急SCディベロップメント取締役の市野聡氏が、新宿ミロードで人材確保に向けて開始した「中休み制度」の取り組みを紹介した。

23年にオープンしたSCの数は34。前年より2減少し、10年前からは半減した。平均店舗面積は1万7168㎡で、1万㎡未満が全体の約6割を占め、過去5年と比較して小型のSCが多くみられた。地域別にみると、最も多い関東・甲信越地域は前年並みの14で、うち東京が5、神奈川が3。近畿は6のうち5が大阪だった。23年末のSC総数は前年末から4減の3129で、19年以降5年連続の減少となった。

オープンした34のSCをビル形態別にみると、商業ビルが28、複合ビルが2、その他が4。業種別テナント数構成比は、衣料品と食物販がそれぞれ13.4%で、その他物販が31.9%、飲食が21.0%、サービスが20.3%だった。18年以降の6年間でみると、衣料品と食物販以外の「その他物販」が増加傾向にある。

日本SC協会では23年にオープンしたSCの特徴として、百貨店やGMSなど大型商業施設が閉店した跡地に新たなSCを開発するケースが目立ち、特に地方都市では官民連携や行政による開発がみられること、多種多様な植栽や緑豊かな広場の設置、地域由来の木材や壁面緑化の活用など自然との共生、生物多様性に配慮した開発が目立ったことを挙げている。

前者に当てはまるのが青森市にオープンした「THREE(スリー)」や熊本市中央区に開業した「HAB@熊本」。スリーは19年4月に閉店した中三青森店跡地を、官民連携でSCと分譲マンションの複合施設に建て替え、より日常生活に密着した衣食住や医療関連の専門店となった。HAB@熊本は建物の老朽化、周辺の商業環境の変化などにより、20年2月に営業終了した熊本PARCOの跡地に建て替えオープンした。パルコの編集により、地元企業の新業態やエリア初出店の飲食・ライフスタイル雑貨が集積された。

そのほか、「ヒタチエ」はイトーヨーカドー日立店(日立ショッピングセンター)跡地に、札幌の繁華街すすきのの複合型SC「COCONO SUSUKINO」は閉館した商業施設ススキノラフィラ跡地に、「CeeU Yokohama」はダイエー横浜西口店の跡地に建てられた商業施設にオープンした。イオンモールの「THE OUTLETS SHONAN HIRATSUKA 」は、「エンターテインメント」「アウトレット」「地域との出会いを」の3つを価値として提供する。平塚市や湘南ベルマーレをはじめ、横浜DeNAベイスターズ、江ノ島水族館など、産官学と連携して取り組んでいる。

大規模高層複合ビルの「麻布台ヒルズ」の商業施設には約150店舗が集結する

後者の自然との共生・生物多様性に対応したのが「JIYUGAOKA de aone」や「麻布台ヒルズ」。JIYUGAOKA de aoneは、3階に地域の人々や来街者が憩い集える約1000㎡の緑豊かなテラスを配置し、テラス、通路、階段、ベンチなどに多摩産材ヒノキを取り入れている。麻布台ヒルズは「Modern Urban Village~緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街~」を開発コンセプトに、約6000㎡の広場を含む約2万4000㎡もの敷地を確保。敷地内には約320種の多様な植物を配し、果樹園や菜園などを設けている。ほかに「三井ショッピングパーク ららテラス TOKYO-BAY」は、開発敷地面積の約3分の1を占める約5000㎡の大規模広場を設け、ドッグランや遊具の広場を備え、多彩なイベントも開催。災害時には一時避難所として機能する。

日本SC協会では、24年にオープン予定のSCなどの商業施設が現時点(22年12月15日時点)で24施設あるとみている。1月は「所沢北秋津プロジェクト」(店舗面積6116㎡、ディベロッパー野村不動産)、2月には福島県いわき市に「Paix Paix(ペッペ)」(同6139㎡、同真砂不動産)、豊洲市場に隣接する「豊洲 先客万来」(同1552㎡、同万葉倶楽部)、「湘南平塚SC計画」(同3万5000㎡、同アークランズほか)が、それぞれ開業予定だ。

今春にオープンする施設は多く、3月は「三井ショッピングパーク ららテラス HARUMI FLAG」(同約1万100㎡、同三井不動産、三井不動産商業マネジメント)、福井駅にショッピングセンター「くるふ福井駅」(同金沢ターミナル開発)、大阪市住之江区に「ロピアモール北加賀屋店」(同5020㎡、同OICグループ)、JR高松駅に駅ビル「TAKAMATSU ORNE(タカマツオルネ)」(同約6220㎡、四国旅客鉄道、JR四国ステーション開発)、熊本県合志市に「ゆめモール合志辻久保」(同3996㎡、同イズミほか)、大分県日田市に「BIGグリーンアイランド日田店」(同4784㎡、同イオン九州)などが名を連ねる。

4月以降も多く、「向ヶ丘遊園商業施設計画」(同5530㎡、同野村不動産)と、名古屋の栄に複合ビル「中日ビル」(同5734㎡、同中部日本ビルディング、中日新聞社)、原宿・神宮前交差点に東急プラザ原宿「ハラカド」(同6669㎡、同神六再開発、東急不動産)、「イオンタウン浜松新橋」(同3162㎡、同イオンタウン)、JR新潟駅の駅ビルを改装・増床する「CoCoLo新潟」(同約2万6500㎡、同JR東日本新潟シティクリエイト)、三重県鈴鹿市に「そよら鈴鹿白子」(同7058㎡、同イオンリテール)、神戸市東灘区に「ROKKO i PARK」(同大栄環境)などが控える。

夏は、7月に渋谷駅に隣接して「Shibuya Sakura Stage」(同約1万5200㎡、同渋谷駅桜丘口地区市街地再開発組合、東急不動産)と、JR大阪駅に直結して「KITTE 大阪〈JPタワー大阪〉」(同約1万6000㎡、同日本郵便、西日本旅客鉄道、大阪ターミナルビル、JTB)。いずれの施設も大規模再開発により誕生する複合ビルだ。そのほか、横浜市泉区のゆめが丘駅前の再開発の完成で「ゆめが丘ソラトス」(同約4万2700㎡、相鉄アーバンクリエイツ、相鉄ビルマネジメント)と、福井県福井市の「そよら福井開発」(同約5264㎡、同イオンリテール)がオープンする。

今秋の開業に向けて建設が進む「所沢西口開発計画」(画像は株式会社エスエス提供)

秋には、10月に複合施設の「長崎スタジアムシティ」(同ジャパネットホールディングス)、11月に川崎市麻生区に「フォレストモール黒川駅前」(同5797㎡、同フォレストモール)。さらに「所沢駅西口開発計画」(同約4万3000㎡、同西武リアルティソリューションズ、住友商事)、「三井アウトレットパーク マリンピア神戸建替え計画」(同約7万4000㎡、同三井不動産)、福島県伊達市に「イオンモール北福島」(同イオンモール)の開業も予定されている。

人材確保の取り組みを語る市野聡取締役

人手不足が懸念されている「2024年問題」はSC業界にとっても例外ではなく、新たな対応が求められる。そうした状況の中で、人材確保の新施策を打ち出したのが小田急SCディベロップメント。市野取締役は、新宿ミロードで昨年10月に開始した中休み制度の内容を以下のように語った。

「新宿ミロードは店舗数約100、約1500人のスタッフが勤務する、新宿駅直上に位置する商業施設です。24年10月には開業40年を迎えますが、25年には『新宿駅西南口地区開発計画』に伴い閉館する予定であり、29年の竣工によって新たな施設に生まれ変わる予定です」

「新宿ミロードでは人材確保に関して店舗スタッフに働き方に関するアンケートを実施しました。その結果『店舗に1人の時間があり不安』『休憩やトイレに行きづらい時がある』『希望通り有給休暇や連休を取得しづらい』といった実情が明らかになりました。これらを踏まえると、人員不足が売上げに影響を及ぼすなど、設備面にとっても重要な課題であると、あらためて認識しました」

「課題解決に向けて施設側としても何かできないかと、店舗スタッフの就労関係の改善を図るべく、具体的な施策の検討に入り、ES向上に向けたスタッフとの積極的な協力をはじめとした4つの方針を定めました。①ES向上に向けたスタッフとの積極的協力②スタッフのワークライフバランスの確保③ミロードで働く魅力の向上と発信④スタッフの業務負担軽減と生産性の向上――の4つの方針は、日本ショッピングセンター協会が定めたES宣言を参考にしました。同方針をベースにヒアリングやアンケートを実施したところ、店舗スタッフが『施設に求めている』こととして上位3点に挙がったのが『売上げ実績』『営業時間の柔軟な対応』『休館日の増設』です」

「そして就労環境の改善という観点から、営業時間と休館日それぞれに対応できる施策として、ワンオペレーションや通しシフトへの対策となる中休み制度を導入。全スタッフが休暇取得できるように休館日増設を決めました」

「中休み制度については、営業時間中に一時的な休業を可能とします。利用目的は主にワンオペの時間帯や通しシフト発生時における休憩などの利用を見込み、取得日は施設運営上平日のみに限定させていただきますが、取得時間は物販・サービスに関しては13~17時のうち最大1時間、飲食は15~17時のうち最大2時間(準備時間含む)として、取得時間を任意に選べるようにして、ワンオペや通しシフト発生時の対策になるように考えました」

「休館日の増設については、これまでの年間3日から4、5日としました。目的としては、大晦日を休みとすることで年末年始の連続休暇の取得を可能とし、全スタッフの慰労ならびに士気を向上させるとともに、8月に半日の休館日を設け、半日の営業終了後、ES施策として夏祭りを開催し、スタッフ全員が参加して交流できる機会を提供します」

「売上げへの影響は出店社本部にも理解していただけるよう、大晦日も8月半休も影響を軽微に設定しました。休館日の増設によりミロード全スタッフの休暇取得を促進できればと考えています。なお、出店社本部へは本施策を通知した際に、こちらからのお願いとして、店舗からの申請に対して柔軟に承認いただくこと、休館日は他店へのヘルプ出勤指示を控えていただくこと、ESイベントへの参加を承諾いただくことの3点を要望させていただき、スタッフが心おきなくこの制度を利用できるようお願いしました」

「制度がスタートして2週間経過した時点で振り返りアンケートを実施したところ、課題があるもののおおむね前向きな意見が得られました。『異動したくなくなります』『制度があるだけで心強い』と言っていただいており、すぐに利用しない状況にあっても、新宿ミロードとしてスタッフの皆さんをサポートする姿勢が少しでも伝えることができたと考えています」

「現時点の中休み制度の利用店舗数は飲食店舗で1、物販店舗で2ですが、今後も店舗スタッフの皆さんをサポートできるよう、ブラッシュアップを含めて改善を進めていきます。中休み制度を導入して休館日を増やしたとはいえ、今回の施策だけで人材確保の問題を解決できるとは思っていません。これからも店舗スタッフの皆さんの生の声を聞き、新宿ミロードで働きたいと思える施設にするために支援を続けていく所存です」

2023年にオープンしたSC

(塚井明彦)