2024年07月25日

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走れデパート 阪急のスイーツ移動販売

駅前広場で販売している様子

ついにデパートも“走る”時代である。今年7月に本格稼働した「走るデパ地下 阪急のスイーツ移動販売」(以下、走るデパ地下)は京阪神地域を対象に、デパ地下スイーツを移動販売している。百貨店といえば好立地に店を構えて客を呼び込むビジネスモデルだが、同事業は客の生活圏へ自ら赴く逆の手法だ。昨今深刻化する「買い物弱者」の支援も目的としている。開始以降は好調で、新規出店のオファーも多く寄せられる。今後はフランチャイズによるエリア拡大も計画し、全国規模の展開を目指す。

移動販売車の外見。阪急電鉄と同じ「マルーンカラー」を使用している

走るデパ地下は現在、5台の車両を運用。車両には各2人のスタッフが付き、運転と接客を担当する。1台当たり1日に2~3カ所を回る。施設はシニアマンション、病院、オフィス、工場、行政関連施設などで、京阪神エリア内でも梅田から日帰りで行ける75キロ圏内を対象としている。

品揃えは阪急うめだ本店の人気ブランドを中心に、同店オリジナルブランドや、季節に応じた商品を用意。「シュガーバターサンドの木」「アンリ・シャルパンティエ」「とらや」「たねや」など、現在は約40ブランドを扱っている。

車両の見た目は「阪急らしさ」にこだわり、阪急電鉄の車両の色である「マルーンカラー」とした。阪急百貨店のイメージカラーであるすみれ色にする案もあったが、より地域住民に親しまれているマルーンカラーを採用した。

「買い物弱者」問題の解決が主要なテーマに

ターゲット層はシニア世代が一番多く、次いで郊外エリアの住民、ワーカーなど。これは、走るデパ地下にはビジネスと社会課題の解決という2つの目的がある。同事業を企画・運営する第1店舗グループフード新規事業開発部の井村智治氏は、企画のきっかけを「従来の百貨店のビジネスモデルが厳しくなってきて、自分達からお客様のもとに出向く必要性を感じていた」と説明する。加えて最近は、少子高齢化や流通機能の弱まりによって、買い物機会が十分に得られない、買い物弱者の数が増えている。これらを解決するため、移動販売という新事業を考案した。

移動販売の先行例としては、「とくし丸」が著名だろう。2012年に始まった同事業は47都道府県に広まり、現在は1100台以上のトラックが稼働している。井村氏らも当然その存在は意識しており、とくし丸とは異なる強みを追求した結果、和洋菓子への特化を決めた。阪急うめだ本店は嗜好品を得意としており、中でも和洋菓子は客からの支持が高い。サプライヤーとのネットワークも強みとなる。

百貨店に並ぶ名品ブランドはブランディングを重視し、販路を絞るイメージを持たれがちだが、「走るデパ地下」に対して非常に協力的だったという。「いわゆる『買い物弱者』への問題意識を持つ方がオーナーを中心に多くいらっしゃり、走るデパ地下の理念に賛同いただけた」(井村氏)。

いわゆる「買い物弱者」以外では、オフィスワーカーからのニーズも高い

こうして具体的な事業内容が決まり、昨年5月に実証実験をスタート。まずは移動販売を問題なく実施できるかをテストし、その後は事業として採算が取れるか、どれ程の頻度が効果的かなどの検証を続けた。例えば道の駅など、人の入れ替わりが多い場所は頻繁に行っても売上げが落ちない。逆に居住地域は間隔を開ける必要があることが分かった。

さらに発見として、淀屋橋など、梅田からそれほど遠くないエリアのオフィスでもニーズは高かったという。「阪急うめだ本店はコロナ禍で閉店時間を1時間繰り上げたため、足が遠のいてしまった方も多かったようだ。『移動販売はワンストップで楽に買える』という声もあり、私達が予想していなかった気付きがあった」と井村氏は語る。

病院では、患者に加えて医療従事者も多く利用する

フランチャイズで全国展開へ

実証実験の結果を踏まえ、今年7月に本格稼働した。出店先からは好評で、「事業としては順調」(井村氏)。出店のオファーも多く寄せられるようになった。シニアマンションや介護施設などに加えて、イベントへの出店依頼も多いが、「社会課題の解決」が同事業の主要なテーマであるため、買い物へのアクセスが困難な人達を優先的に依頼に応えていく方針だ。

短期的な目標としては、まずは直営でのビジネスモデルの確立に傾注する。目下の課題は車両の稼働率。スタッフには百貨店としてのサービスレベルを求めるため、稼働可能な枠に対して人材が足りていない状態だが、時間を掛けて増やしていく。

長期的には、全国でのフランチャイズ展開を計画している。人口の減少による商業施設の閉店は多くの地域で問題となっており、百貨店がゼロの県も増加。そうした地域の住民と「阪急のデパ地下」の接点を創出する。

「店を一軒建てようとすると、掛かるコストは莫大。車による移動販売であれば百貨店も取引先も低コストに抑えられ、かつ機動的に動き回れる」と井村氏はメリットを強調する。すでに中四国地域からオファーがあり、需要を感じているという。

(都築いづみ)