2024年11月14日

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そごう・西武、好調なOMOストアを横展開 千葉店に食特化型

そごう千葉店に9月28日にオープンした「フード エディット チバ」。千葉県内の食品や生産者などにフォーカスする

そごう・西武は9月28日、千葉県内の食品や生産者などに焦点を当て、自主編集売場とインターネット通販サイトで販売する「food edit Chiba(フード エディット チバ)」をそごう千葉店に開いた。同社は2021年9月2日から、オンラインとオフラインを融合させた「OMOストア」として「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベース シブヤ)」を西武渋谷店で運営してきたが、その2号店となる。チューズベース シブヤは2022年度(22年3月~23年2月)の売上げが初年度の約4倍を記録。売場環境などの初期投資分を除けば、損益も黒字化した。23年度も勢いは変わらず、売上げは初年度の約5.5倍で推移。収益化が難しいとされるOMOストアを軌道に乗せ、横展開を始める。

フード エディット チバは、そごう千葉店の地下1階に構えた。売場面積は約45㎡で、主に千葉県内で生産および加工された食品を揃える。いずれも、リアル店舗への出店が少ない“隠れた逸品”をセレクト。チューズベース シブヤと異なり、冷蔵品や冷凍品を扱える設備も備えた。ブランドは「中華蕎麦とみ田」、「NARITA AIRPORT to TABLE」、「勝浦塩製作研究所」、「銚子電気鉄道」、「印度料理シタール」、「TATEYAMA GIN」など約30を数える。

冷蔵品と冷凍品を扱える設備を備えた

フード エディット チバの開設に当たっては、約10人からなる新たなチームを組織。フードデリバリーの「e.デパチカ」、クリスマスケーキやおせちなどをネット通販サイトで買って店舗で受け取れる「BOPIS」の担当を兼務する。フード エディット チバの裏側はe.デパチカの配達員に商品を渡す場所になっており、3つの業務を効率化できる環境も整えた。システム企画部の井上雄三氏は「社員のマルチタスクオペレーションのテストにも役立てる」と説明する。

オープンから4日間の時点で、売上げは計画を上回る。9月28日は15社、29日は9社、30日は8社、10月1日は8社が試食会を行うなど、積極的なPRの成果も表れた。試食会は定期的に実施し、購買意欲を喚起する。

取引先が試食会を実施し、PR

「フード エディット チバには『地域の魅力増幅プロデューサー』、『次世代へ導くナビゲーター』、『楽しい食卓を実現するエディター』を担いたいという想いがある。そもそも、店舗の社員から『OMOストアをつくりたい』という声が上がった。千葉県は海のモノも山のモノも酒類も豊富で、網羅的に知っている人は少ない。食品はあくまでも入口で、今後は他のフロアにもOMOストアを広げたい。店内には『アートに挑戦したい』という声もある」

井上氏は展望を明かす。そごう・西武としても、そごう千葉店に限らず、各店の客や従業員の要望を踏まえて新たなOMOストアを出す。アート以外に化粧品も選択肢で、時期は24年度以降を見込む。

OMOストアの第1弾であるチューズベース シブヤは好調だ。単純にブランドを増やして売上げを伸ばすのではなく、ニーズが多いギフトへのフォーカスや専用アプリのリリースなど、客の声や利便性を重視したトライアル&エラーが奏功。23年度も、日によっては売上げが“開店景気”で大きな数字を残した21年9月2日を上回るなど、快進撃が続く。

楠本博紀事業デザイン部部長は成功のカギを「組織」と断言する。そごう・西武の既存組織から分離。伊藤謙太郎氏をディレクターに、社員が横並びで業務を担当する「自立分散型」を採り、方向性の統一や情報の共有を容易にするとともに、百貨店業界の厳しい安全・安心の基準にとらわれず、商品を仕入れられるようにした。

CBD(カンナビジオール)が含まれる商品が象徴的だ。例えばロフトはCBDが配合されたリップバームやオイルなどを販売するが、そごう・西武の従来の基準では扱えない。しかし、一昨年頃からCBDに注目が集まると、同社にとって江戸時代の出島、あるいは現代の経済特区に当たるチューズ ベース シブヤは早々に関連商品を展開。売れ行きは良好だ。楠本氏は「CBDが注目されても扱えないのは、既存のビジネス、のれん商売の弊害。文字だけで危険分子に思えてしまう。百貨店の常識と世間のそれがずれている証でもある」と指摘する。

伊藤氏のディレクションに基づき、D2Cブランドを軸とする百貨店の枠にとらわれない多彩な品揃えが支持され、22年度の売上げは初年度の約4倍に膨らんだ。加えて、坪効率も大幅に向上。チューズベース シブヤが開く前は140坪の書店と60坪のカフェからなり、2社から賃料を得ていたが、チューズベース シブヤは棚や什器の1つから貸すため、取引先の増加に伴い、その金額は約3倍まで跳ね上がった。

そごう・西武だけが儲かるのではなく、取引先にとってもメリットは多いという。認知度や売上げの向上はもとより、客の行動履歴や声がフィードバックされ、次の物づくりに生かせる。いわゆるショールーミングストアと違いリアル店舗でも購入できるため、衝動買いを逃さずに済む。チューズベース シブヤの売上げはネット通販が約7割、リアル店舗が約3割だが、この約3割が重要という。

OMOストアは順風満帆だが、課題はインバウンドへの対応と人材育成だ。新型コロナウイルス禍が一段落し、渋谷駅周辺には訪日外国人が大挙。今やチューズベース シブヤの売上げの3~4割をインバウンドが占める。「訪日外国人が買うモノは様々で、明確な売れ筋はない。『これはいい』と思えば買ってくれる。接客はそこまで必要ないが、多言語対応は進めたい」(楠本氏)。

OMOストアを各店に広げていくためには、任せられる人材が不可欠だが、現状では“供給”が追い付かない。そこで「チューズベースアカデミー」を立ち上げ、各店から計6人のリーダー候補を招集。半年に亘り、チューズベース シブヤで培ってきたノウハウを指南する。6人が各店に戻れば、OMOストアの受け皿が整う算段だ。

チューズベース シブヤが産声を上げてから、約2年が経った。百貨店業界の各社がOMOに本腰を入れる中、そごう・西武はいち早く勝ち筋を見出し、さらなる“果実”を追い求める。

(野間智朗)