2024年05月06日

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三陽商会、ハブ機能を持つブランド複合店舗「サンヨー・スタイルストア」を展開

9月1日にオープンした東急百貨店札幌店

三陽商会が、複合型コンセプトストア「サンヨー・スタイルストア」の出店を広げている。今年3月に1号店を大和富山店に開き、10月18日オープンの西宮阪急で5店舗目となる。主に「アマカ」「エヴェックス バイ クリツィア」「トゥー ビー シック」「トランスワーク」の4ブランドを扱うが、取り寄せ試着サービスを通じて他ブランドも試着でき、再生素材を資材に採用するなどサステナブルな取り組みも行う。複合ショップの利便性に加え、三陽商会の強みやビジョンを打ち出す“三陽商会のハブストア”の役割も担っている。

「サンヨー・スタイルストア」を始めたのは、同社の多ブランド展開を生かし、客の利便性を高める狙いがある。4ブランドはいずれもアッパーミドルの女性がターゲットだが、それぞれのブランドには強みとしているテイストがある。アマカがデイリーカジュアル、エヴェックス バイ クリツィアがトラベルカジュアル、トゥー ビー シックがオケージョン向けのスイートエレガンス、トランスワークが仕事向けのエレガンスという異なる強みを生かし、これらが一堂に揃うことで、様々なテイストの服を1つの売場で購入できるようになる。

また、昨今の百貨店の動向も要因の1つだ。大型テナントの導入などによってファッション売場は縮小傾向にあり、三陽商会のショップの数も減っていた。地方を中心に、百貨店の店舗数自体も減少している。こうした環境でも多数のブランドを揃えることで、買い物の楽しさや選択肢を提供する。三陽商会にとっても、多くのブランドを知ってもらう好機となる。

各ブランドのカラーをしっかりと伝え、複合化のシナジーを高めるためにも、同ストアでは1つのコンセプトをベースに品揃えをセレクトする。販売員も全ブランドに対応できるよう勉強し、複合ショップならではのVMDや接客提案を行っている。

各ブランドを、1つのコンセプトのもとに表現している(写真は大和富山店)

さらに「サンヨー・スタイルストア」独自の特徴として、①地域特性に合わせた商品展開②サステナブルな取り組み③OMOの拠点——の3点がある。

①は、それぞれの地域のニーズや気候を品揃えに反映させている。例えば車社会の地域では、冬は寒くても丈の短いコートの需要が高い。逆に都心は電車を使う人が多いため、ロング丈のコートが売れる。事業本部婦人服ビジネス部長の橋村有幸氏は「売上げシェアは都心店が多いため、全体の売上げをベースに生産計画を立てて各店に配分すると、必要な商品が必要なところに行き渡っていなかった可能性がある」と説明する。

こうした機会損失を防ぐため、「サンヨー・スタイルストア」は本社の担当者と店長が共同でバイイングを行う。気候などの地域特性を念頭に、各ブランドの得意分野、ショップ全体のバランスも踏まえ、ブランド複合のセレクトショップならではの品揃えを構築する。

「どの店舗で何がほしい」という要望をダイレクトで吸い上げる仕組みができたため、今後は生産の数量設計が変わっていく可能性もある。「消化率が上がるなど、数値としてニーズが顕在化すれば、次の生産設計に反映していく。繰り返すことで精度が上がることも期待できる」と橋村氏は語る。

全ブランド共通で、FSC認証のハンガーを使用する

②の「サステナブルな取り組み」については、環境にやさしい資材の使用、衣服の修理サービス、ダウン製品の回収などを行う。三陽商会は環境・社会課題への取り組みを深化させるため、「持続可能な地球環境への貢献」 「サーキュラーエコノミーへの取り組み」 などをマテリアリティに設定し、様々な施策を講じている。

その一環として、「サンヨー・スタイルストア」では、FSC認証のハンガーや再生素材の床材を採用した。FSC認証は、森林破壊や違法伐採から森林を守るため、適切に管理された木材に対して発行される。ハンガーは4ブランド共通のため、ブランドごとのハンガーを使用する場合に比べて数量の節約もできる。

衣料の長期着用を促進するため、三陽商会の衣類の補修を有料で受けるサービス窓口を設置し、羽毛製品を回収する「グリーンダウンプロジェクト」の回収ボックスも設ける。グリーンダウンプロジェクトはダウン率が50%以上の製品が対象で、三陽商会以外の製品も受け付ける。日本国内の工場で洗浄し、回復処理をした後にリサイクルする。

「これらの取り組みは、服をつくって売る企業として当然のこと。ただ、既存の売場、ショップで今すぐ始めるのは難しいため、三陽商会のハブステーションである『サンヨー・スタイルストア』を中心に行っていきたい」と橋村氏は述べる。

藤崎店にある、石巻工房のスツール

さらに、SDGsの1つである「地域共生」の取り組みとして、その地域で有名な工芸品を店装に取り入れている。例えば大和富山店では富山県にある真鍮の鋳物メーカー・二上のブランド「FUTAGAMI」の真鍮のライトを、藤崎では宮城県にある家具メーカー・石巻工房のチェアとテーブルを、東急百貨店札幌店では北海道旭川市の家具メーカー、カンディハウスのデスクとチェアを使用している。

地域に根差したメーカーの商品を使うことは、地域の活性化につながる。さらに、地域住民に親しみを持ってもらえるというメリットもある。「アパレルメーカーの地方店は、どうしても『東京から商品を持ってきている』と捉えられがちだった。しかし、地元に根付き、お客様と一緒に成長していく売場にしたいという想いも込めた」(橋村氏)。

「サンヨー・スタイルストア」ではトライ&ピックを通じて、全ブランドの商品を取り寄せることができる

③「OMOの拠点」は、店舗試着サービス「TRY&PICK(トライ&ピック)」との組み合わせとなる。トライ&ピックは、ECサイト「サンヨー オンラインストア」上で商品を指定の店頭に取り寄せ、試着できるサービス。9月20日のサイトリニューアルのタイミングでサービスを開始した。基本的に取り寄せられる商品はそのショップのブランドのみだが、「サンヨー・スタイルストア」はほぼ全ブランド(一部のブランドを除く)の取り寄せができる。

これは同ストアの目的である「利便性」を叶えるためである。前述の通り、地方や郊外の百貨店では、取り扱いが無い三陽商会のブランドも多い。しかし「サンヨー・スタイルストア」とトライ&ピックによって、様々なブランドの試着が可能となる。

商品を購入するだけであればECサイトでできるが、衣服はサイズが合うかの試着も重要となる。顧客からもそうした声が寄せられており、その要望に応え、多くのブランドを試着する機会をつくることで、顧客の満足度を高める。「売上げの拡大も狙いだが、何よりもお客様の不安を解消し、快適にお買い物をしていただきたい」と橋村氏は話す。

「これからも愛される売場をつくっていきたい」と語る事業本部婦人服ビジネス部長の橋村有幸氏

こうして誕生した「サンヨー・スタイルストア」は今年3月に大和富山店を開き、7月に藤崎、9月に東急百貨店札幌店、10月6日に高槻阪急スクエア、10月18日に西宮阪急にオープンした。今後は「やみくもに増やすのではなく、コンセプトを理解していただける店舗へと出店していく」(橋村氏)方針で、「三陽商会は今年80周年を迎え、各ブランドも長きに亘りお客様に愛していただいてきた。これからも愛されるため、より良いおもてなしと利便性を提供できる売場をつくっていきたい」考え。

複数のブランドを扱う複合ショップは、販売スタッフの負担が大きい、世界観の表現が難しいといったデメリットがあるが、1人の客が一度に多くのブランドに触れられるというメリットも大きい。実際、売場の縮小や複合化によって売場効率が上昇した事例は多い。そこに様々な付加価値を加えた「サンヨー・スタイルストア」は、売上げにとどまらず多岐に亘る効果が期待できそうだ。

(都築いづみ)