2024年10月12日

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大手百貨店、2024年のおせちを相次ぎ発表・上

松屋は8月28日におせちを発表した

大手百貨店が8月28~29日にかけて、相次ぎ2024年のおせちを発表した。高島屋は、新型コロナウイルス禍などを契機に冷凍食品の需要が増加しているのを捉え、「冷凍おせち」の品揃えを増やしたほか、昨年に初めて展開して好調だったカスタマイズが可能な「よりどり彩りおせち」、昨年は早期完売した「スイーツおせち」などを拡充。大丸松坂屋百貨店も冷凍おせちを強化し、独自性の象徴であり売れ行きが良い著名人や人気店が監修した「特別企画おせち」も充実させた。そごう・西武は、料亭や名店の一段重のラインナップを昨年の3倍以上に、おせち以外の「ごちそう」も同じく1.5倍に、それぞれ拡大。東武百貨店は大人数向けを前年の約1.1倍に増やし、“肉づくし”など年始の集いを盛り上げる新しいスタイルのおせちを初めて企画した。松屋は店舗が位置する銀座や浅草の名店、シェフのおせちを前面に出し、環境に配慮したおせち、冷凍食品など“非おせち”でも特徴化する。おせちはコロナ禍による「巣ごもり」で売上げを伸ばしてきたが、アフターコロナの“初年度”は親族や友人らと集まる機会が増えるとみて、品揃えの魅力化で前年実績のクリアを目指す。

28日に高島屋と松屋、29日に大丸松坂屋百貨店、そごう・西武、東武百貨店が報道陣におせちを公開した。

高島屋の天笠亜佑子MD本部食料品部バイヤーは、品揃えのキーワードとして①カスタマイズ②スイーツおせち③肉づくし④フードトリップ⑤ファンテインメント⑥ヘルシー、ウェルネス、サステナブル⑦冷凍おせち⑧オードブル肉おせち――の8つを挙げた。

①は、よりどり彩りおせちを指す。30品目から12品か9品を自由に選べる。全て同じ品を選んでもいい。昨年は12品だけだったが、好評で9品を追加した。ただし、インターネット通販サイトで購入できるのは12品のみ。金額は選んだ品によって変わる。②のスイーツおせちは昨年に早期完売するなど好評で、今年は既存の「トシ・ヨロイヅカ」と「モンサンクレール」に「たん熊北店」を加え、計3種類を用意した。

30品から好みの12品か9品を選べる「よりどり彩りおせち」

昨年は早期完売した「スイーツおせち」には、「たん熊北店」が加わった

③の肉づくしも人気で、「焼肉きゅうこん」が新登場。④のフードトリップは「非日常感を味わえるおせち」で、新規の「富小路 やま岸」や「レストラン イェン」をはじめ予約が困難な人気店や名店が集う。⑤のファンテインメントは、集いの場を盛り上げるおせちで、「すみっコぐらし」や「宇宙戦艦ヤマト」とのコラボレーション、犬用の「ペットのごちそうおせち」などからなる。

⑥は「コウジアンドコー イタリアン」が手掛けるヴィーガンおせち、高校生や障碍者の雇用に積極的な企業と組んだ「髙島屋 未来にやさしいおせち」、高齢者が安心して食べられるように料理を一口ずつにカットした「一口・きざみサポートおせち」などで構成。⑦の冷凍おせちは年々売上げが伸びており、その中核は15年連続で人気ナンバーワンの「髙島屋おせち三段重」だ。⑧は年末年始の集まりに最適なオードブル風おせちで、「美濃吉 もてなし料理膳」や「銀座ローマイヤ 洋風オードブル」などを揃える。

天笠氏は、とりわけ冷凍おせちに伸び代を見出す。「当社の通信販売は冷凍、冷蔵が中心かつ人気。今年は通販で約250種類のおせちを扱うが、うち7割を売上げが右肩上がりの冷凍で占めた。品揃えも精査し、多様なニーズに対応できる」と自信を示した。通信販売ではネット通販も伸び続けており、おせちにおけるシェアは約4割に達した。

売上げが右肩上がりの冷凍おせちを強化した

高島屋は店頭で約900種類、ネット通販サイトでは約1150種類を取り扱い、販売期間は店頭が9月20日~12月25日、ネット通販サイトが9月15日~12月26日。「アフターコロナの今年は昨年以上に人の移動が予想されるが、集いの場も増えるため、前年実績の確保を狙う」(天笠氏)。

松屋は28日、メディア向けに発表した。今年は「みんなが集うお正月」がテーマ。銀座ならではの豪華さや、料理教室体験といったオリジナリティのあるラインナップで、皆で集まる久しぶりの“お正月”を盛り上げる狙いだ。2024年度の商戦を展開するに当たり、松屋銀座のメールマガジン会員の約4万5000人を対象に「お正月の過ごし方」やおせちに関する意識調査を実施したところ、自宅や実家などで過ごそうと考えている人が全体の88.5%を占めた。食品部食品1課弁当惣菜担当バイヤー 田中翔氏は「売上目標は、前年比5%増の1億1000万円を目指す」と、意欲を示した。

インターネット通販サイトでは、10月1日に予約をスタート。店頭では銀座店が10月11日から、浅草店が10月1日からで、いずれも12月25日まで受け付ける。今年の商品数は208点で前年より14点増やした。そのうち松屋限定は16点で、新たに15店のおせちが登場する。会場に並んだバラエティ豊かな品揃えから見て取れるのは、内容、価格共に、その「豪華さ」だ。

アンケートでは「24年のおせち購入時に節約を意識するか」についても調査し、全体の71.6%が「意識しない」と回答した。内訳は「おせちは奮発したい」が13.3%、「普段は節約を意識しているが、おせちは意識しない」が29.7%で、「普段もおせちも節約は意識しない」が28.6%となった。おせちにかける予算も、平均で2万3884円と前回より約1700円増え、最高予算金額は15万円だった。

1年に1回のイベントだからこそ「おせちは豪華で食べたいものが欲しい」というニーズが多くあり、「皆で賑やかに過ごす正月への前向きな姿勢」が伺えることから、松屋ならではの「豪華さ」や「贅沢さ」を提供する。

松屋銀座店の「銀座の街を盛り上げたい」という想いに賛同し、今回初出店する「銀座 Ishida」の石田淳一オーナーシェフ

目玉の1つが銀座・浅草の名店の味が楽しめるおせちだ。70数年の歴史を持つ老舗洋食店「銀座 みかわや」の「謹製洋風おせち 三段重」(8万6400円)や、「銀座 Ishida(イシダ)」の松阪牛のあらゆる部位が堪能できる「和牛肉おせち」(7万5600円)は、松屋限定で初登場となる。銀座 Ishidaの石田淳一オーナーシェフは「コロナ禍が終わり、皆で集まるとなった時におせちも1つでは足りない。その中で肉に特化したおせちがあってもいいのでは」と話す。「間違いなく良いものを出す」ことにこだわり「価格は相当頑張った」と石田氏は笑みをこぼしながらも、「松阪牛のおいしさを味わってほしい」とした。

そのほか、銀座の隠れ家的ビストロの豪華な三段重のおせち(4万4000円)や、浅草の老舗のすき焼き店「ちんや浅草本店」の和洋おせちとすき焼きのセット(5万2800円)も初登場する。

料理教室でのレッスンとセットになった新たな企画。料理研究家の稲葉氏は「おせちのハードルを下げたい」と話す

“サステナブル”は今や商品ラインナップに欠かせない要素だが、今回は体験とおせちをセットにした斬新な企画を用意する。「ギャラリーキッチンKIWI(キウイ)」の「レッスン付き OSECHI秘伝レシピ&単品6品目セット」(3万5800円)は、料理研究家の稲葉ゆきえ氏が、手軽につくれるおせちや、残ったおせちを活用してフードロス削減につながるレシピをレクチャーしてくれる。品数は全12品で、6品は教室でつくり、もう6品は稲葉氏が調理してパウチされたものが年末に自宅に送付される。

「ピリ辛ペペロン田作り」や「柚子ブランデー黒豆」など、ユニークなメニューが揃う。稲葉氏は「おせちに関する昔ながらの言い伝えも意識しながら、現代風にアレンジした。おせちに入れた方がいいものは基本としてあると思うので、それは忘れずに伝えていきたい」と話す。家でつくるにはハードルの高い黒豆やローストビーフなどを入れ、家庭でのおせちづくりを楽しんでほしいとの想いを込めた。

自家製の食材を使用し、余った食材は肥料として再利用するというシェフの取り組みが感じられる、サステナブルなおせち

埼玉県秩父にあるイタリアン「クチーナ サルヴェ」の「坪内シェフが育てた野菜と旬の食材のイタリアンおせち」(3万7800円)も、サステナブルと“レストランクオリティ”の双方を叶える一品。坪内浩オーナーシェフは、自家農園で150種以上の野菜を育て、養鶏も手掛ける。自身で育てた食材を使用し、調理後に余った分は農園の肥料にしているという。田中バイヤーは「自分で食材を育てる」という点にフォーカス。「話を聞くうちに、サステナブルとして確立されたスタイルだと思い、訴求できれば面白いと思った」と出店を依頼した経緯を語る。

今年は、おせち以外の「もう1品」をキーワードにした商品も打ち出す。「スペインクラブ」の「ミニ・ハモン・イベリコ」(1万8360円)は専用台とナイフ付きで、本場スペインの原木生ハムを好きな分だけカットできる。「ウルフギャング・ステーキハウス」の熟成肉が味わえる「プライムリブ」(5万6000円)は、購入するとカリフォルニア最高峰のワイン「オーパス・ワン(2019)」(9万1300円)の購入権が、特典として先着3人に付与される。

高級な名店のメインディッシュからデザートまで楽しめる「ギンザフローズングルメ」

昨年8月に販売を開始して以来、好調な売れ行きの冷凍食品「ギンザフローズングルメ」もラインナップ。銀座の高級店の味を異なる内容で組み合わせた「セットA」(1万5000円)と「セットB」(2万5500円)を、各20セットと数量限定で用意する。冷凍庫にストックしておける利点を生かし、まさに「何かもう1品欲しい」を叶える。「『皆で集まる』というところで、おせちだけではなく色々なものをプラスアルファで提案したい」(広報担当者)。アンケートでも、おせち以外に購入する商品として「デザート」、「酒」、「オードブル」などが多数挙がった。

(野間智朗/中林桂子)