2024年11月15日

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大丸松坂屋百貨店、食品のサブスクを開始

5月15日に発表会を実施。右から岡﨑専任部長、「冷凍王子」こと西川氏、朝倉バイヤー

大丸松坂屋百貨店は16日、食品のサブスクリプションを始める。目利きのバイヤーが厳選した、名店の料理を冷凍で毎月届ける。コースは「ちょいリッチBOX」(6500円)、「しっかリッチBOX」(9000円)、「すごリッチBOX」(1万2000円)からなり、料理のグレードや数が異なる。2023年度(23年3月~24年2月)に3000人の利用、25年度までに50億円以上の売上げを見込む。

食品のサブスクは「ラクリッチ」と名付けた。「楽(らく)」と「リッチ」を掛け合わせた造語だ。コンセプトは「“おまかせ”でおいしい出会いを。」で、食品に精通したバイヤーが25のブランドからセレクトする料理の半分ほどは届くまで公開せず、文字通り“出会い”を演出する。大丸松坂屋百貨店の調査によれば、サブスクの利用者には「選ぶのが面倒」という声が多く、それを解消する狙いもある。

事業責任者の岡﨑路易DX推進部専任部長は「ラクリッチの特長は3つ。名店の味が自宅で楽しめる、料理の半分は秘密で毎月の楽しみになる、経験と個性が豊かなバイヤーがセレクトする」と説明する。

ラクリッチには「RISTORANTE HONDA」や「OGAWA」、「西洋銀座」、「おかず本舗 佃浅」、「まつおか」、「日本料理 鈴なり」、「ポール・ボキューズ」、「神戸コロッケ」、「四陸」、「赤坂四川飯店 陳健一監修」など25の名店が名を連ね、3種類のコースで50品強の料理を用意。うちRISTORANTE HONDAの「ポルチーニとエリンギのクリームソース・ニョッキ」やOGAWAの「黒毛和牛しぐれ煮」など7品がオリジナルだ。オリジナルは試作を何度も繰り返し、名店からゴーサインが出された逸品だ。ポルチーニとエリンギのクリームソース・ニョッキは完成までに約10カ月がかかったという。

「RISTORANTE HONDA」が手掛ける、ラクリッチのオリジナル「ポルチーニとエリンギのクリームソース・ニョッキ」は完成までに10カ月を要した

冷凍された料理は専用の倉庫にまとめ、1カ月ごとに利用者へ送る。ちょいリッチBOXでは6~8品、しっかリッチBOXとすごリッチBOXでは7~10品が届く。

全ての料理は電子レンジや湯せんなどを使って簡単に食べられる。いずれも少量で、食べ切りやすい。商品調達責任者の朝倉宏二DX推進部バイヤーは「家族が一緒に食事する機会は減ってきているが、ちょっと贅沢な時間を過ごしてほしい」と想いを込め、「冷凍王子」として知られ、ラクリッチのアドバイザーを務める西川剛史氏は「リッチには『心が楽しくなる』、『心が豊かになる』という意味もある。その感覚で食べてほしい」と話した。

ラクリッチに対する注目度は高い。大丸松坂屋百貨店がメール会員を対象にモニターを募集すると、定員の約300倍が申し込んだ。評価も上々で、普段は半年や1年に1回程度しか冷凍の料理を利用しない人も「冷凍とは思えない」、「冷凍=手抜きのイメージを払拭してくれた」と称賛した。

16日に受付を開始して以降は、まず自社のアプリやSNS、ウェブサイトなどで情報を発信。認知度を上げて利用を促す。安易な割引などは行わない。初年度に3000人の利用、25年度に50億円以上の売上げを見込み、28年度以降には卸売や海外展開を視野に入れる。

大丸松坂屋百貨店は新型コロナウイルス禍で客との新たな接点を追求してきた。「コロナ禍以前はタッチポイントがほぼ店頭と外商のみで、コロナ禍で休業を余儀なくされると、手も足も出なかった」(澤田社長)からだ。岡﨑氏も「時間と場所の制約を克服しなければ、未来がない。タッチポイントのオンライン化と我々流のオンラインビジネスが求められる」と同調する。

実際、コロナ禍の約3年間でオンラインのタッチポイントを拡大してきた。例えば「大丸・松坂屋アプリ」は累計のダウンロード数が180万を突破。客のオンライン上での行動、送ったメールの開封率などを把握し、販促の精度を向上させてきた。

さらに、21年度にはファッションのサブスクリプション「アナザーアドレス」を、22年度にはメディアとインターネット通販を融合させた“メディアコマース”として「デパコ」をスタート。オンラインビジネスを拡充してきた。

ラクリッチは“第3の矢”にあたる。澤田社長は「我々は生活そのものをサポートするのではない。人生を豊かにする、人生に彩りを与える、人生を文化的にするのが役割であり、そこで存在感を発揮していきたい。昨年12月に腸炎で1カ月の療養を強いられたが、回復して久しぶりに白米を食べたら、涙が出るほどおいしかった。おいしさは幸せにつながる。すなわち、ラクリッチは当社を含めたJ,フロントリテイリンググループのビジョン(くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。)にも合致する」と力を込めた。

(野間智朗)