2024年12月06日

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80周年を迎えた三陽商会 これまでの歩みを振り返り、感謝を届ける1年に

特設サイトも開設。80年間の歴史や記念商品を紹介する

三陽商会は5月11日、設立80周年を迎えた。同社は砥石商から始まり、防空暗幕を使ったレインコートを販売したことで、レインコートメーカーへと転換。デザイン性と品質を両立したコートを次々と発売し、コートメーカー、総合アパレルメーカーへと成長を遂げた。昨今は衣料を取り巻く状況が劇的に変化し、アパレルメーカーは新環境への適応を求めて各社模索しているが、同社は改めて自身の強みを見直し、優れた商品力を生かす方向に力を注いでいる。そんな三陽商会のこれまでの歩みを振り返り、感謝の気持ちを示すため、3月から様々な企画が始動している。

80周年のロゴ(左)とステートメント(右)

80周年企画は、23年度(2023年3月~24年2月)の1年間を通して実施する。それに先立ち、80周年記念のロゴとステートメントを制作した。ロゴは、この先もずっと変わらず丁寧に服をつくり続けていきたいという想いを、紡がれていく「糸」をモチーフにデザイン。ステートメントは「START A NEW STORY きょうが、始まりの日。」から始まり、服に込めた想いを表現している。

3月1日にはコーポレートサイト内に「80周年記念サイト」を開設した。80周年のステートメントを表現した動画や、80周年にちなみ全国80店舗のスタッフスナップ、周年記念商品、80年間の歩みなどを掲載している。

https://www.youtube.com/watch?v=tH5yaNFI4bk

80周年のステートメントを表現した動画も制作した

年間を通じて、80周年を記念した商品も販売する。春夏は祖業アイテムであるレインコートをはじめ、各ブランドがレインアイテムを開発。ウエア、傘やシューズなど、雨の日を快適に過ごすアイテムを3~5月に発売する。アーカイブ品をブラッシュアップした新商品も発売する。

衣服内部に雨水が染み込みにくい、レインウエアを数多く展開する

春夏の記念商品では、内部への漏水を防ぐ雨傘の縫製技術「つまみ縫い」を活用した商品が多く登場する。「マッキントッシュ フィロソフィー」と「ポール・スチュアート」からレインコート、「エス エッセンシャルズ」からブルゾン、ドレス、パンツ、「エポカ ウォモ」からブルゾンが発売される。同社は17年、コート専業ブランド「SANYOCOAT(サンヨーコート)」で「アンブレラ コート」を発売した際に、つまみ縫いを衣服向けに応用した新技術を開発した。今回はそれをより幅広い商品に取り入れている。

記念商品はいずれも、21年5月に発足した全社横断のプロジェクト「商品開発委員会」を通じて開発した。春夏シーズンで21ブランドから約80型を発売し、秋冬もコートを中心に新商品の発売を計画している。

ブランド総合カタログ「SANYO Style MAGAZINE(サンヨー・スタイル・マガジン)」では、80周年記念特別号を4月と11月に発行する。4月の特別号「The Joy of Fashion(ザ ジョイ オブ ファッション)」は、スペシャルゲストとして俳優の高梨臨氏と元日本代表のプロサッカー選手の槙野智章氏夫妻が登場。表紙と巻頭特集を飾った。芥川賞受賞作家の綿矢りさ氏による特別寄稿エッセイや、80周年記念商品の特集ページもあり、スペシャルな内容となっている。

高島屋日本橋店で行ったポップアップの様子

3月には、高島屋日本橋店が90周年を迎え、両社共に “周年イヤー”であることから、共同イベントを行った。これまでの顧客とのつながりを大切に、そして新しい客とのつながりを拡げていく場として、3月22~28日に髙島屋日本橋店で「SANYO 80周年記念企画『SANYOCOAT アーカイブ展』」を実施。三陽商会の祖業ブランドである「サンヨーコート」の歩みを紹介するパネルやアーカイブ商品を展示し、各ブランドの80周年記念商品を販売した。

多くの客で活況を呈し、中でもアーカイブコートの展示に人が多く集まった。「昔、これに似たコートを着ていた」と懐かしそうに娘に語る客や、「今の時代にもこんなのがあったらいいわね」と話す客、「値段がいくらでもいいから購入したい」とアーカイブ商品に魅了された客など、三陽商会の過去と現在を楽しむ様子がみられた。

年表やパネルを興味深く読み込む客や、「三陽商会の商品が大好きなので頑張ってください」と声を掛ける客も多く、スタッフにとっても同社が多くの人に支えられていることを実感する機会になったという。

東京・銀座のサービスステーション(1952年頃)

三陽商会とコートは、切っても切れない縁がある。同社は砥石商として1943年に吉原信之が設立した後、戦後の物資が少ない中で事業を模索。防空暗幕を用いた紳士用の黒いレインコートが生まれた。47年には、戦時中のパラシュートの生地から着想を得てつくったオイルシルクの婦人用レインコートが流行。49年にレインコート製造販売専業に転換し、進駐軍の家族用レインコートを大量に受注するなどして大きく飛躍を遂げた。

進駐軍用レインコートの生産をきっかけに百貨店や素材メーカーとの関係を築き、デザイン性のあるレインコートを次々と発表。地味だったレインコートを‟おしゃれ着”へと塗り変えていった。その後、工場の設立や技術部門の設置によって生産体制を強化し、多様なブランドを扱う総合アパレルメーカーとして業容を広げていった。

70周年の2013年には、ファッションの多様化が進む中、生活者から共感・共鳴され愛される企業を目指して、企業タグライン「TIMELESS WORK. ほんとうにいいものをつくろう。」を策定。これを象徴する商品として、100年コートを発売した。三陽商会のものづくりの技術を結集した100年コートは高い評価を受け、ハイグレードラインの「100年コート 極KIWAMI」、軽さと上質感を両立させた「100年コート 粋SUI」など商品展開を広げている。

商品開発委員会の様子

無論、こうしたものづくりへのこだわりは他のアイテムにも生かされている。最近は商品開発委員会を通じて部署やブランドを超えて商品開発に取り組むなど、その力をますます磨いている。

同社はライセンスブランドの契約終了やファストファッションの流行などによって、ここ数年は苦戦が続いたが、22年度は7期ぶりに営業黒字化を達成。収益力を高める構造改革が功を奏し、人流の復活も追い風となった。節目となる今年度は顧客への感謝を示すと同時に、会社としてさらなるステップアップを目指す構えだ。