2024年10月10日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 富裕層が利用するプライベートバンクの実像(1)

プライベートバンクは資産運用に特化した金融機関だ。保有資産数億円以上の富裕層の多くが利用している。そこで2回に亘り、富裕層が使っているプライベートバンクについて解説していく。

「富裕層は、プライベートバンク(以下、PB)を“対象としている保有金融資産と機能”で選んでいる」

資産規模数十億円以上の富裕層を抱えるPBのAさんは語る。

このうち、対象顧客の保有金融資産について、PBは「金融資産○億円以上の人でないと基本的には口座開設を受け付けない」といった“足切り基準”を設けている。その基準を下回る、もしくはギリギリ上回る程度の金融資産である場合、「仮に口座を作ることはできても、まともなサービスを期待することは難しい」(Aさん)。したがって、富裕層は「身の丈にあったPB」を選んでいるのだ。

続いて機能については、自身が持っている資産運用の目的を達成できるかどうかということだ。完全にお任せで資産運用したいのであれば、一任勘定の機能を持ったPBを選ぶし、レバレッジをかけて運用したいのであれば、有価証券担保ローンに強いPBを選んでいる。

それではどのようなPBがあるのか、その特徴を見ていくことにする。

まずは外資系PBの日本拠点だ。UBSやクレディ・スイスをイメージしてもらえばいい。以前は多くの外資系PBが日本に拠点を持っていたが、2010年代にそのほとんどが撤退してしまい、メジャープレイヤーのなかで残っているのが、このスイス資本の2社だ。

UBSやクレディ・スイスが対象とする顧客の保有金融資産は、約10億円以上。いわば「10億円以上の金融資産を保有している富裕層」だけを顧客とみなしているわけだ。だが、それだけで無条件に口座を開設できるわけではない。

口座を維持するための最低預かり残高は約5億円だ。つまり、5億円以上はPBに入金しておく必要がある。ただ、5億円ギリギリ預けられる程度の富裕層では、優良顧客とはみなしてもらえないことが多い。

では、どういった顧客が“上客扱い”になるのか。

それは、保有金融資産が数十億円以上の富裕層だ。5億円を預ければ口座は開設できるが、営業担当のバンカーが足繁く通うほどではない。

機能面でいうと、外国債券や外国株式を担保にした有価証券担保ローンのラインアップは、日系PBよりも充実している。実は国内の金融機関で、リーズナブルな条件で外国証券を担保としたローンが組めるのは外資系PBくらいだ。

外資系PBは、一任勘定やオーダーメイドの仕組債など「特別な金融商品に投資できること」を売りにしていることが多い。しかし、一任勘定のパフォーマンスはインデックスファンドと遜色なく、仕組債はどこの金融機関でも同じ内容のものが組成できるという意味では、金融商品での優位性はそこまでない。

日本拠点の外資系PBの大きなメリットには、「国内でスイス系PBにお金を預けることができる」という点も挙げられる。お金を預けるのは日本拠点だが、スイス系PBのサービスを享受することができ、担当者も日本にいるため、比較的いつでも会うことができる。アクセスできる金融商品の幅広さは、後述する外資系PBの海外拠点に分があるが、その安心感ゆえに、外資系PBの日本拠点と取引している富裕層も多い。

続いて、外資系PBの海外拠点だ。スイス系やシンガポール系で、海外に拠点があるPBをイメージすれば良いだろう。拠点となるエリアはスイス、シンガポール、香港などの金融センターがほとんどだ。

外資系PBの海外拠点であっても、保有金融資産は約10億円以上、最低預かり残高は約5億円以上と、外資系PBの日本拠点とだいたい同じレベル。なかには最低預かり残高が1億円以上のPBも存在するが、やはり上客と認識されるためには、保有金融資産数十億円以上の富裕層であることが必要だ。

機能面でいうと、アクセスできる金融商品の幅広さが大きなメリットだ。同じ会社でも海外拠点の場合は日本拠点と比べものにならない。日本で金融商品を販売するためにはかなりの導入コストが必要なので、外資系PBの日本拠点だと、アクセスできる金融商品はごく一部に限定される。海外拠点はその縛りがないので、幅広い金融商品へ投資できるようになるというわけだ。

「バンカーにもよるが、あまり非効率な金融商品を販売していないことも良い点だ。日本だと、仕組債だけで生計を立てているバンカーも数多く存在する」とAさんは指摘する。日本拠点と異なり、少人数で運営されているため、経営コストが安く、顧客から多額の手数料を得る必要があまりないのだろう。

外資系PBの海外拠点とマッチすると思われるのが、海外移住した日本人富裕層だ。どれだけ幅広い金融商品を扱えても、顧客が日本にいる場合は提案ができないためである。そういった意味では、現在は日本に住んでいるが、今後、海外移住を計画しているという富裕層にもオススメだ。移住のアドバイスやサポートを行っている外資系PBも存在する。

次回は、日系PB(日本の金融機関のプライベートバンク)の特徴を紹介しよう。

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