2022年07月07日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 富裕層に大打撃!最高裁で相続めぐる異例判決

4月19日、最高裁は相続をめぐる節税に異例の判決を下した。富裕層の間では一般的な節税法だけに影響は甚大だ。しかも国税の姿勢にお墨付きを与えた判決だっただけに、富裕層には厳しい時代が到来したといえそうだ。

路線価での評価に最高裁がNO

都内で事務所を構える税理士は、暗い表情を浮かべていた。

「大変なことになった。もう富裕層を相手にした節税のコンサルティングはやりたくないよなぁ」

なぜ税理士は、こうつぶやいたのか。今年4月19日に最高裁判所が節税をめぐる異例の判決を出したからだ。それを受けてこの税理士は、「われわれが租税回避行為や脱税幇助(ほうじょ)などに問われ、資格を剥奪されかねない」と震え上がっているわけだ。

では、まず異例と言われる判決を簡単に振り返っておこう。

この裁判は、2012年6月に94歳で亡くなった被相続人の所有するマンション2棟の評価額について、相続人側の評価額が著しく低いと国税当局が否認したことがきっかけだ。

被相続人はマンション2棟を、銀行から資金の一部を借り入れるなどして8億3700万円と5億5000万円の、合計13億8700万円で購入。相続に際して相続人側は、2棟のマンションの評価額を路線価で評価し、約3億3000万円で申告した。

これに対して国税当局は不動産鑑定を実施し、マンション2棟の評価額を約12億7300万円と判断。相続人側の評価は過度に低く適当ではないとし、相続人に2億円以上の追徴課税をしたことから、相続人側が追徴課税処分の取り消しを求めて争いとなっていたのだ。

相続において不動産を路線価で評価するのは一般的。というのも路線価は、実勢価格より低く評価されるからだ。多くの富裕層がこうした手法を用いて節税しており、これまでは認められてきた。そうした状況に国税が噛みつき、最高裁も国税に軍配を上げたのだ。

国税のさじ加減で適用できる総則6項

税理士たちが震え上がっているのには理由がある。今回、国税がよりどころにしたのが、「財産評価基本通達 第1章総則6項」、通称「総則6項」と呼ばれるもの。「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」というものだ。

相続税法では、相続税の対象となる財産の評価額について、相続時の時価により評価するとしている。しかし、未上場株など市場が存在しない財産は、誰が計算しても同じ評価になるようなルールが必要。これを定めたのが財産評価基本通達で、さまざまな財産の評価方法が細かく具体的に定められている。

未上場株の評価方式もこの評価通達に定められているが、評価方法を画一的に適用した場合、評価が実態と懸け離れてしまうケースもある。そこで、例外規定として総則6項が定められているのだ。

だが、これが非常に厄介な規定。評価通達で決まっていなくても、さらに条文上は適法であったとしても、その評価が「著しく不適当」と見なされてしまえば、財産評価額が否認されてしまう。つまり、「どれだけこちらが適法だと主張しても、すべて国税のさじ加減で判断されてしまう」(別の税理士)規定なのだ。

伝家の宝刀を振りかざし始めた国税

そもそもこの総則6項は、行き過ぎた節税対策に対抗するために設けられた規定。だが運用次第でどうとでも使える代物とあって、以前はそこまで適用してこなかった。そのため「伝家の宝刀」と呼ばれてきた。ところがここ4〜5年国税は姿勢を転換させ、伝家の宝刀を富裕層に向けて振りかざしている。

実際、2015年にHOYAの元社長が亡くなり、遺族が相続財産の申告をした際にも、この総則6項が適用された。

元社長が亡くなる前にHOYA株を110億円で現物出資して資産管理会社に移管。資産管理会社は、その株をすぐさま子会社に寄付した。その後、元社長が死亡、親族が未上場の資産管理会社を相続することになった。その際、株式の評価は通達にある「類似業種比準価額方式」で20億円とした。

ところがこれに国税当局が待ったをかけた。巨額のHOYA株を保有する子会社の価値が反映されていないのは「著しく不適当」とし、再評価のうえ90億円の申告漏れを指摘したのだ。

富裕層に詳しい前出の税理士は、「株を転々とさせ、しかも株価を引き下げやすい類似業種比準価額方式を使ったことが税逃れと認定されたようだ」と指摘。そのうえで、「ルールに従ってやっていても否認されるのだから恐ろしい」と語る。

こうしたケースはHOYAだけでなく、教育出版社の中央出版や、キーエンスの創業家などで相続が起きた際も同様だ。国税は、いずれも贈与や相続で取得した株式の評価額が過少だとしている。

最高裁のお墨付きで勢いづく国税

こうした流れの中、今回の案件でも総則6項を用いた国税。相続に詳しい税理士は、「昨今の国税当局は、なりふり構わぬ姿勢で臨んでいるように見える」と明かす。

国税出身の別の税理士は、「『裁判で負けてもいいから、節税目的のスキームはとにかく否認しろ。そのうち法律が変わるから』と、現場はハッパをかけられている」と明かすほどだ。特に「大規模な節税策を行っている富裕層は格好のターゲット。狙い撃ちしているといっても過言ではない」と打ち明ける。

今回の判決で最高裁は、総則6項の適用について「相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である」とし、実質的な適用に「お墨付き」を与えた形だ。

となると国税は今後、総則6項の適用をさらに加速させることは間違いなく、富裕層にとっては厳しい時代が到来したと言えそうだ。

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