2022年07月02日

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【連載】東急百貨店、「最短30分、店頭と同じ価格」で独自性

東急百貨店は昨年9月2日、渋谷駅周辺に構える「渋谷 東急フードショー」、「東横のれん街」、「東急フードショーエッジ」で、食品宅配を開始した

コロナ禍によって生じた「イエナカ消費」を追い風に、急成長を続けるのが食品の宅配だ。百貨店業界の各社も、新たなサービスを立ち上げるなどで本腰を入れる。いわゆる「デパ地下」の品揃えの上質さや稀少性、特別感は広く知られており、1度の注文で様々な飲食物を届けてもらえる利便性と送料の割安感も手伝い、総じて売上げは好調だ。20代や30代をはじめ、百貨店に馴染みがなかった人々の利用も多い。収穫は多いが、オペレーションや人員などに課題を抱え、「アフター・コロナ」でも食品宅配が一定の需要を維持できるかには疑問符も付く。食品宅配は、百貨店にとって中長期的な収益源に育つのか――。各社の現状を追う。

《連載》百貨店業界が本腰を入れる食品宅配の現状と課題 第4回 東急百貨店

店頭でも、宅配でも、商品の価格は同じです――。一般的なフードデリバリーサービスでは手数料などが上乗せされるため、同じ商品でも店頭より高くなるが、東急百貨店はアプリ「テイクアウト&デリバリー by 東急フードショー」で同一化。コロナ禍で需要が急増する一方、競合も激化の一途を辿る食品宅配市場で、割安を強みに勝ち抜く。

東急百貨店は昨年9月2日、渋谷駅周辺に構える「渋谷 東急フードショー」、「東横のれん街」、「東急フードショーエッジ」で、食品宅配を開始した。フードデリバリーサービスを提供するチョンピー社と協業。食品を宅配あるいは専用のロッカーで、最短30分で受け取れるようにした。

注文や決済、受け取り方の指定などは、アプリを介する。注文は各ショップに配した専用のタブレットに表示され、その販売員が商品を用意。東急百貨店の社員が受け取り、テイクアウトならロッカーへ、宅配ならドライバーの待機所へ運ぶ。東急百貨店の社員は専任と食品売場との兼任で構成する。

商品の代金は店頭と同じで、送料は宅配が700~900円、ロッカー利用料が200円。宅配は3km圏内に限る。送料は事業の継続性を重視し、やや高めに設定した。1000円以上の買上げにつき1個のスタンプが貯まり、5個ごとに500円分のクーポンがもらえる。

受け取り用のロッカーも設置。いわゆる「BOPIS」の需要に応える

東急百貨店は以前から、店舗ごとに即日配送を手掛けてきた。午前中に注文すると、午後に届けてもらえる仕組みだ。渋谷駅周辺でも、渋谷ヒカリエ ShinQsが2016年、同じビルにオフィスを構える企業への弁当の販売を開始。渋谷ヒカリエの外にも販路を広げながら、売上げを伸ばしてきた。

しかし、コロナ禍が直撃。テレワークが定着し、弁当の販売は岐路に立たされた。オフィスワーカーに限らず、来街者が激減し、3カ所の食品売場も苦境に陥った。客が来ない以上、行くしかない――。方針を転換し、チョンピーと組んで一昨年の8月に「東急フードショーエッジ」で食品宅配を始めた。

チョンピーのプラットフォームを利用して稼働した食品宅配は、「複数のショップをまとめて買える」と歓迎され、じわじわとリピーターが増加。実際、弁当や惣菜と和洋菓子の組み合わせをはじめ、まとめ買いが多く、客単価は想定を上回った。東急百貨店の店舗では買い物の経験がない、新客の開拓にも成功。新たな収益源としての定着に手応えを得た。

ただ、チョンピーのプラットフォームを介するため、利用者の“見える化”や店頭と同じ価格での販売、独自の販促策は難しい。そこで、独自のアプリの開発に踏み切った。

障壁となったのは、システムや物流だ。いくつかの企業を検討したが、最終的にはチョンピーにアプリの開発とドライバーの手配を依頼。アプリを開発する費用は少なくないが、チョンピーは昨年8月26日、テイクアウトや宅配を始めたい飲食店に専用のアプリを開発する新しいサービスを発表しており、それを東急百貨店版にアレンジしてもらう形で抑え込んだ。

調整に時間がかかったのは、商品のカテゴライズや説明だ。橋本崇顕事業開発部事業開発担当兼食品統括部EC推進担当マネジャー(取材時)は「食品宅配は利用者が『気分』で買う傾向が強いため、例えばサラダのカテゴリーにジュースがあったり、多国籍料理のカテゴリーにニュージーランド産の蜂蜜があったり、それに対応できるカテゴライズとなっており、品類で明確に分ける百貨店とは異なる。フードデリバリーやネットスーパーにアレルギー表示の義務はないが、当社は百貨店として、ネット通販サイト『東急百貨店ネットショッピング』と同様にアレルギーや原産国などの表示を心掛けている」と苦労を振り返る。

競合がひしめく食品宅配に本格参戦する上で、こだわったのは「最短30分、店頭と同じ価格」(下山拓郎経営企画部経営企画担当兼事業開発部事業開発担当マネジャー(取材時))だ。

品揃えは惣菜から弁当、和洋菓子、グローサリー、そして生鮮品まで、3カ所で2500SKU近くにのぼる。品揃えの幅を広げると、ピッキングや管理の手間暇が嵩み、特に生鮮品は“目利き”も含めて難易度が高いが、下山氏は「多種多様な商品を扱うデパ地下の強みを、あらゆる手を尽くして最大化する。まとめて届けてくれる、あるいはBOPISといった利便性は武器になる」と強調する。

事前のポスティングや店頭での宣伝も効き、注文は順調に伸長。注文の8割が宅配、2割がテイクアウトで、商品では弁当や惣菜が人気だ。売れ行きは「写真」と「説明文」に左右されやすく、これはインターネット通販サイトと変わらない。食品宅配ならではの仮説として浮かび上がってきたのは、女性とラーメンの親和性の高さだ。周りの目が気にならず、頼みやすいとみる。橋本氏は「食品宅配ならではの売れ筋を掴めれば、より成長力に弾みが付く」と分析に力を注ぐ。

課題の解決も急務だ。「アプリがダウンロードされた数に比べて注文が少ない。仕組みの面でも、時間指定や大量の注文ができず、メッセージカードや熨斗(のし)、手提げ袋などに対応していないため、ギフトニーズも取り込み切れていない」(橋本氏)。アプリをダウンロードしただけの人に利用を促すためにはクーポンを配る手があり、1度は試したが「その時にしか買わない人が多い。それでは意味がなく、他の方法も模索している」(橋本氏)という。

アプリ「テイクアウト&デリバリー by 東急フードショー」の画面

コロナ禍で食品宅配の需要は旺盛だが、生存競争は激しい。下山氏は「1度使って『便利』となれば、継続してもらえるはずだ。お客様が便利と思えるかが勝負。伸びていけると確信している。当社にとって“フード”は中核。今後は沿線の店舗にも広げていきたい」、橋本氏は「店舗でもネットでも、同じ買い物体験を可能にする。これはコロナ禍でも何でも関係ないはずの指針で、ゆえに食品宅配は廃れないと考えている。まずは全ての取引先の参加を目指す」と、それぞれ意欲を燃やす。

「食品宅配を数年後の標準装備とする」(下山氏)。東急百貨店は本気だ。

(野間智朗)

 

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