2022年05月19日

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【連載】高島屋横浜店、パンを発泡酒や堆肥に再生~SDGs 百貨店の流儀~

昨年3月にオープンした、高島屋横浜店の「ベーカリースクエア」

注)僚誌「ストアーズレポート」2021年11月号に掲載した記事を一部再編集しました

「SDGs」、「サステナブル」、「環境経営」といった言葉が認知されて久しい。今や「持続可能」は小学校の授業にも登場する。百貨店業界の各社も経営の軸足に据え、様々な形で具現化を急ぐ。企業としての大局的な取り組みにとどまらず、店舗単位でもSDGsやサステナブルを掲げたモノやコトが増えてきた。この連載では、それらを紹介していきながら、百貨店業界とSDGsやサステナブル、環境経営との最適な向き合い方、持続を可能にするマネタイズへの道を探る。第1回は髙島屋横浜店が推進する、パンの廃棄の削減やアップサイクルにフォーカス。冷凍販売から発泡酒化、堆肥化まで、柔軟かつ斬新な発想がパンパンに詰め込まれている。

高島屋横浜店の地下1階には、賑わいが絶えない売場がある。昨年3月にオープンした「ベーカリースクエア」だ。日替わりで約30ブランド、約200種類のパンが登場する編集売場「カナガワ ベーカーズ ドッグ」をはじめ、「ブラフベーカリー」、「ボンヴィボン」、「シゲルキッチン」、「ファーロ」、「ジュウニブンベーカリー」、「メゾン・イチ」、「サンジェルマン」ら約400㎡に約40のブランド、500種類以上ものパンが揃う。豊富な選択肢に加え、店内厨房で焼き上げるからこその〝出来たて感〟が客の支持を獲得。1日あたり1万個以上のパンが売れる。反面、賞味期限や消費期限の問題で毎日3~4kgにのぼる廃棄が発生。ロスの削減は永続的な課題だ。

実は売場を構える前から、アイデアを練ってきた。加納淳平横浜店販売第4部副部長は「前提として、SDGsに取り組みたかった。単純に人気のブランドを引っ張ってくれば成功する時代ではない。事実、ストーリー性が高い商品への関心が強まっている。売場が永く愛されるためには、SDGsの視点が必要。いわゆる『SDGs(持続可能な開発目標)17の目標』における、8番(=働きがいも経済成長も)と12番(=つくる責任 つかう責任)を、売場に落とし込もうとした」と経緯を説明する。

SDGsを採り入れる上で、重要視したのは“分かりやすさ”だ。加納氏は「SDGsという言葉は社会に浸透しつつあるが、企業や団体らの施策はあまり知られておらず、戦略的に使いこなせてもいない」と分析した上で、「社会に受け入れられるとともに、(高島屋横浜店の)ファンを増やせる取り組み」を目指した。

1つ目は、SDGs17の目標の8番を踏まえた、中小規模のパン屋の支援だ。一般的に中小規模のパン屋は「朝早くから夜遅くまで働かなければならない」、「ロスが多く儲からない」とみられ、後継者不足が常態化。コロナ禍も経営に大打撃を与え、廃業が相次ぐ。

加納氏は「培われた技術や文化、さらには“街のパン屋さん”が担う地域のコミュニティ機能も失われていく」と危惧。パンのセレクトショップの運営やパンに関する物流などを手掛ける横浜市内のベンチャー企業、ハットコネクトと組み、同社が中小規模のパン屋から商品を集め、高島屋横浜店が全て買い取り、人を付けて売るビジネスモデルを構築した。

中小規模のパン屋は製造に専念できて総労働時間が減り、百貨店に出て知名度を上げられる。高島屋横浜店が買い取る商品の金額は1店舗あたり1日に約3万円で、年間では1000万円近くに達し、経営の下支えにもなる。髙島屋にとっても、品揃えを特徴化できる。まさに共存共栄で、SDGs17の目標の8番「働きがいも経済成長も」にも適う。

2つ目は、SDGs17の目標の12番に繋がる、パンのリユースやアップサイクルだ。まず、売れ残りそうなパンの冷凍販売を検討。リベイクも視野に入れたが、「百貨店として安全・安心に疑念を払拭できない」(加納氏)と判断し、最終的には冷凍販売に決めた。第三者の公的機関のチェックをクリアしたパンに限って取り扱う。「パンの冷凍販売を成功させるためにはバラエティ感が不可欠だが、余り方が不均一で、1日あたり3~5点しか出せず、収益は上がっていない。チーズやクリーム、果物を使ったパンは冷凍すると味が落ち、販売に向かない難しさもある」(加納氏)と問題を抱えるが、当面は継続する。

次の一手は、廃棄間近のパンを原料とする発泡酒の開発だ。海外では珍しくなく、日本でも先行する企業があり、当初から案を温めていたという。ただ、酒類市場に特有の障壁が存在した。ビールや発泡酒などは年単位で製造用の樽が埋まっており、簡単に参入できない。「2~3カ月を費やして探したが、神奈川県内では見付からず、ハットコネクトの担当者が〝飛び込み〟で訪れた、東京都江東区で醸造所やビアパブを運営するON TAP 江戸東京ビールがたまたま空いており、ようやく協力を得られた」。加納氏は苦労を振り返る。

発泡酒は、本来使用する麦の約23%をパンで代用。パンは乾燥させて細かく砕き、麦と一緒に加熱して発表酒の原料に加工する。味は、パンとの相性を追求。苦みが少なく、すっきりと優しい味に仕上げた。名前の「リ・ブレッド」には「パンが発泡酒として還ってくる」という意味を込めた。

完成までに約1カ月が必要で、しかも200本ほどしか製造できないため、昨年8月18日に毎日限定20本で販売をスタート。同10月15日までに450本が売れており、人気は上々だ。加納氏は「リピーターが増えており、まとめ買いする人もいる」と手応えを掴む。パンのブランドごとに発泡酒を出すプランもある。

「リ・ブレッド」と名付けた発泡酒。苦みが少なく、すっきりと優しい味に仕上げた

もう1つ、パンの堆肥化が進行中だ(取材当時)。アルソア慧央グループとタッグを組み、同社が山梨県に所有するレインボーファームにパンを運んで土に混ぜ、堆肥として再生させる。この堆肥では、カボチャやサツマイモを栽培。それを用いたパンを高島屋横浜店で昨年10月下旬に販売した。青木和宏執行役員店長は「売場に並んだパンが、姿を変えて同じ売場に戻ってくる。里帰りのようで、お客様に響くのではないか」と期待を寄せた。

「真面目なテーマに、真面目な内容では広がらない。ポップでカジュアルな内容が大事」と、加納氏は強調する。だからこそ、パンでビールや堆肥を作るのだ。ベーカリースクエアには、近隣の国際フード製菓専門学校の生徒が作ったパンや障がい者の自立を支援する「スワンベーカリー」のパンが〝普通〟に並び、他のブランドと売上げを競う。「SDGsだらけの売場」(青木店長)でありながら、客に色眼鏡をかけて見させない。パンに挟まれた具のように、SDGsが違和感なく存在する売場だ。