2022年05月19日

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【所見所感】「百貨店商い」の新しい出発

あけましておめでとうございます。読者の皆さまに少しでもお役に立てる情報を発信してまいりますので、引き続き、ご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

 

厳しい冬を乗り越え、新たな成長へ

2022年(令和4年)、「壬寅(みずのえ・とら)」は厳しい冬を乗り越え、芽吹き始める段階の年、新たな成長に向けて動き出す1年になると言われているようだ。「壬」は「妊に通じ、陽気を下に姙(はら)む」、わかりやすく言うと「エネルギーを蓄える」という意味を持ち、十干で9番目にあたるため「次の周期の準備期間」、陰陽五行説では水の陽にあたり「厳冬」や「沈滞」を表しているそうだ。「寅」は「螾(みみず)に通じ、春の草木が生ずる」という、作物の実りを助けるミミズが土の中を動くイメージから「新しく動き始めた段階」の意味を持つ。干支では3番目で、周期の始めの「誕生」を、陰陽五行説では木の陽にあたるため「大きな成長」を表しているそうである。

百貨店業界も早期業績回復と新たな成長への礎を築かなければならない段階にある。大手百貨店が新中期経営計画で掲げているように、「百貨店事業の再生」に向けた各社各様の構造改革、戦略・戦術をさらに加速させ、迅速に実行していく年だ。髙島屋の村田善郎社長は、今年を「百貨店の再生に向けた『異次元の構造改革』の年」と年頭所感に記している。昨年は多くの百貨店でコスト削減が進み、売場や売り方、サービスなどで新しい価値提供が続々と具現化されたものの、まだ回復途上に過ぎない。

全国百貨店の21年の売上高は、1月から11月まで累計の前年比で5.4%増だが、19年比では23.5%減で、コロナ禍前の「8掛け」にも満たない実態である。コロナ禍が収束しても、業種業態を超えた「業際なき競合」が緩和されるわけではない。人口減少・少子高齢化は着々と進展し、3年後の25年には消費をリードしてきた「団塊の世代」が全て75歳以上の後期高齢者になる。百貨店再生は待ったなしだ。一人ひとりが危機意識を強め、各社各様の構造改革・店舗革新にスピード感を持って取り組まなければならない。むろん釈迦に説法なことであろう。昨年7月まで5回に亘り開かれた経済産業省の「百貨店研究会」報告書(5回目)には、最終ページに「百貨店業界に残された時間はそれほど多くはないかもしれない」と記してあった。

 

芽吹き始めた種も

コロナ禍で消費環境は劇的に変化し、生活者の消費に対する価値観の変化も加速した。百貨店が早期業績回復と再成長戦略に転換していくために留意すべき環境変化については、大手百貨店が新たな中長期経営計画の策定にあたり明示しており、ここでの詳細は省略する。要は、百貨店は「変化適応業」であり、変化に適応していけるかどうかである。

日経MJの「2021年ヒット商品番付」(12月3日付)では、「Z世代」と「大谷翔平」が東西の横綱で、「サステナブル商品」と「東京五輪・パラリンピック」が大関に番付されていた。1990年代半ば以降に生まれたデジタルネーティブ世代である「Z世代」は、「環境や自分らしさを大事にする新時代の消費スタイルを先導し、企業にマーケティングの変革を促している」と寸評していた。「サステナブル商品」は、「脱プラスチック製品や古着の再利用、使い捨てにしない容器回収など様々な手法で環境にやさしい消費スタイルが広がる」という変化を捉えた番付だ。さらに小結に密にならないレジャーとして注目された「ゴルフ」、前頭に商品の展示や説明に特化してネットで販売する、リアルとデジタルが融合した「売らない店」が番付されていた。

環境や社会問題に配慮したサステナビリティに関連するモノ・コト提案は、既に多くの百貨店で取り組んでおり、コロナ禍でより活発化した。さらに「売らない店」に関しても、そごう・西武や大丸松坂屋百貨店が挑戦しており、リアルとデジタルが融合した売り方や売場づくりも随所で行われている。昨年10月8日に建て替え改装が先行オープンした阪神梅田本店は阪急阪神百貨店が進めるOMO型百貨店のモデル店舗で、今年春に地下1階の「阪神食品館」が完成してグランドオープンを迎える。

コロナ禍の2巡目に入った昨年から「百貨店再生」への改革・改善が少しずつ顕在化してきた。さらにこれまでの百貨店の枠や常識にとらわれない新しい体験価値の提供も枚挙に暇なく具現化された。次世代型百貨店の創造、並びにこの新百貨店を中核とした新しいグループ像の構築に向けた種まきが活発化し、中には芽吹き始めた種もあろう。

 

生活者の本音と商いの本質

日経MJ(12月8日付)で、「小売業の進むべき道」について、セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏とファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏のインタビュー記事が掲載されていた。無人コンビニについて、鈴木氏は「人件費は下がっても、それ以上に売り上げが下がるとみている。(中略)商売は人を相手にするからこそ、人の心理をつかまなければいけない。消費は心理学。やっぱり人間相手の商売だから人間の心理を追求することが重要だ」と答えていた。

柳井氏はヒットを生むことについて、「そもそもヒットを読む必要はないと思います。(中略)毎日の商売でのコミュニケーションからお客様の本音を聞き、商品を作ることです。(中略)多くの企業は本質をつかまずに表面の化粧部分だけを見ている気がします」と。さらに日本の服のスタンダードを変えたことに関して「業態を越えるのは当たり前です。小売業はローコスト分配の考え方でしたが、それでは付加価値を生まない。チェーンストア理論はもう通用しない。最後は人間の力になります」と述べていた。

業界でイノベーションを起こしてきた両氏が考える商いの本質が垣間見え、その起点は生活者の「本音」に潜んでいる。

多くの百貨店では、今年もデジタルを駆使した新たな価値提供やアップデートしたモノ・コト提案が活発化してこようが、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)時代であり、想定通りに進まないケースも少なくなかろう。だからこそ、商いの本質、生活者の本音を常に探求し、それらを見失わないことが肝要だ。百貨店再生に向けた改革のアクセルを踏み込み、そして現場で顧客一人ひとりに新しい体験価値を提供していくうえで、忘れてはならない要諦に違いない。

現時点でオミクロン株の先行きは不透明だが、百貨店再生が本格化し、「V字回復」への新たな出発点になることを期待したい「壬寅」である。

(ストアーズ社 編集長 羽根浩之)

 

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