2021年10月21日

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大丸松坂屋の新たな挑戦、“売らない売場”が始動

10月6日、大丸東京店の4階にオープンした「明日見世」

“売らない売場”の誕生だ――。大丸松坂屋百貨店は10月6日、いわゆるショールーミングストア「明日見世(あすみせ)」を大丸東京店の4階に開いた。約100平米に19のD2C型ブランド、約150SKUを集積。商品は売場でなく、専用のQRコードを読み込み、各ブランドのインターネット通販サイトで購入する。ショールーミングストアだが、客が商品の特徴やストーリーなどを理解しやすいように「アンバサダー」と呼ぶ販売員を配置。“売らない”は仕組みであり、マンパワーで購買意欲を喚起する。

明日見世は3カ月ごとにテーマを設け、全てのブランドを入れ替える。初回は「社会を良くするめぐりと出会う」で、化粧品や雑貨、衣料品、インナーウエアなどを揃えた。ブランドでは、百貨店初となる化粧品の「citrea(シトレア)」、本州初となる化粧品の「KOGANE BY SACRAN(コガネ バイ サクラン)」、リラックスウエアの「neemee(ニーミー)」らが名を連ねる。

明日見世の運営に携わる下澤香南子本社経営戦略本部DX推進部デジタル事業開発担当が推奨するブランドは、環境に配慮した素材を積極的に用いる衣料品を展開する「WRINN(リン)」、人にも地球にも優しい化粧品を販売する「Save ME(セイブ ミー)」、規格外で廃棄される果物を使ったビールを製造する「Beerful(ビアフル)」。中でも“イチオシ”はリンで、下澤さんは「デザイン性が高く、特にパンツのラインのキレイさは女性の目を惹く。ファッションを楽しみながら衣料品や環境の問題を考えられる」と魅力を語る。

環境に優しいだけでなく、ファッション性にも優れる「WRINN」

ブランドは「Social good」(=サステナブル、地域貢献など)、「Essential beauty」(=プロダクトのストーリーや美しさ、機能美など)、「Breaking stereotypes」(=固定観念から脱却できるような商品背景など)の3つをキーワードに選定。キーワードとの親和性が高いミレニアル世代やZ世代を取り込む。

ブランドの大半は、大丸松坂屋百貨店と初めて取引する。少人数で運営するブランドが多く、人員や物流などのコストの面で百貨店はハードルが高かった。一方で、明日見世には出品料を払い、サンプルを送れば出られる。明日見世の責任者である廣澤健太本社経営戦略本部DX推進部スタッフデジタル事業開発担当は「まずは新たなブランドと付き合いを始めたかった。出品料は、かなり安いと思う。短期的に儲けるのではなく、明日見世でブランドの認知度を上げ、育ったブランドは常設のショップとして大丸松坂屋百貨店に出るような、中長期的なトライ」と狙いを明かす。

規格外で廃棄される果物を使い、ビールを製造する「Beerful」

アンバサダーと呼ぶ販売員は、商品の作り手の想いを伝えるとともに、客の声を集めて作り手のマーケティングにも貢献する。下澤さんは「ネット通販がメインのブランドが多く、お客様の声は重要。事前にブランドが知りたい情報を把握しておき、接客に生かす」という。

アンバサダーは大丸松坂屋百貨店の社員で、5人でスタート。うち2人は「ギンザ シックス」内で大丸松坂屋百貨店が運営するセレクトショップ「シジェーム ギンザ」の出身で、知識や経験は豊富だ。アンバサダーに対する客の反応が良ければ、他の雇用形態も含めて増員を視野に入れる。

アンバサダーは、衣類やプラスチックなどのリサイクルを手掛ける日本環境設計のリサイクルプロジェクト「BRING(ブリング)」が製作した制服を着用。売場の什器や装飾にはリサイクルできる素材や中古家具を用いるなど、商品以外でも“サステナブル”を表現する。

9月27日には、各ブランドのポータルサイトと位置付ける明日見世のウェブサイトもオープン。「フェイスブック」や「インスタグラム」のアカウントも立ち上げ、情報発信を活発化して、認知度を高める。コロナ禍が一段落すれば、売場でイベントも行う。

売場の中央にはコミュニケーションスペースを設け、アンバサダーとゆっくり話せる。イベントも可能だ

廣澤氏は「お客様とブランド、ブランドとブランドなど“出会いの循環”から、新しい可能性を生み出したい。インキュベーションの拠点として、今後はブランドとブランド、あるいはブランドと地域のコラボレーションを実現させる」と意欲を燃やす。

大丸東京店に構えたのは「取引先が駅立地や高い集客力に“出る価値”を感じられ、お客様にはミレニアル世代も多い。しっかりと世界観を伝えられる面積、約100平米の売場も確保できた」(廣澤氏)からだ。

廣澤氏が明日見世で最もこだわったのは“人”、すなわちアンバサダー。廣澤氏は「POPやウェブサイトでは、作り手の想いを伝え切れない。アンバサダーは必ず事前に勉強会を開き、商品を試す。コロナ禍でも可能ならば、取引先を訪れて体感する。商品のファンにならないと全てを伝え切れない」と強調する。

今後については「いかに場の価値を高められるか。売場の中央にはコミュニケーションスペースを設け、じっくりと話せる。時にはブランドの人に来て、説明してもらいながら、売場のファンを増やしていきたい。アンバサダーにもファンが付くと理想的。これまでの百貨店はモノを売ってきたが、明日見世は“メディア”としての場。受け入れられるか、検証していく。もう1つ、直接的にはモノを売らないアンバサダーが、新たな役割として機能するか。それも見ていく」と、廣澤氏。大丸松坂屋百貨店にとって初めての、そして大きな挑戦が始まった。