東急百の「シブヤビューティージャム」、‟渋谷発”の切り口で差異化 デパコスメディアの最前線(下)
「シブヤビューティージャム」のオリジナルメイク記事。渋谷らしい高感度なルックが特徴だ
今やファッションやトレンドの発信源が、SNSやネットメディアとなっている。リアル店舗やオールドメディアは、情報発信の手軽さやスピード、拡散性でインターネットには敵わない。しかし近年は百貨店もネットを活用し、新客獲得や組織顧客化に努めている。とりわけ新客との接点になる化粧品カテゴリーでは、化粧品単独のオウンドメディアを立ち上げ、百貨店ならではの情報発信に取り組んでいる。
連載『デパコスメディアの最前線』は前後編で、前編は大丸松坂屋百貨店の「DEPACO(デパコ)」、後編は東急百貨店の「SHIBUYA BEAUTY JAM(シブヤビューティージャム)」について取り上げる。いずれも自社内に編集部を持ち、社員が企画・編集に全面的に関与している媒体である。
23年にリアルイベントとして開始、24年からウェブ連動に

リアルイベントは、これまでの東急百貨店にないような感度に訴えるビジュアルを制作し、好評を博している
東急百貨店は、「渋谷発」をテーマにしたビューティーコンテンツ「SHIBUYA BEAUTY JAM」(シブヤビューティージャム、以下SBJ)によって、支持を拡大している。同社は長年に亘り渋谷で商業施設を運営しており、同社ならではの切り口として着目した。SBJはウェブと店頭の連動型プロジェクトで、ウェブメディアとリアルイベントの双方で渋谷らしい高感度な情報を伝えている。
SBJはウェブより先に、リアルイベントとして始まった。23年12月1~10日に初のイベント「SHIBUYA BEAUTY JAM」を、渋谷スクランブルスクエア、渋谷ヒカリエShinQs、SHIBUYA109 渋谷店の各施設内で運営するビューティー売場で開催。東急百貨店東横店が2020年3月、同本店が23年1月で閉じた中で、改めて渋谷のビューティーを伝えるイベントとして企画した。
これまで化粧品は商品軸で訴求することが多かったが、同イベントは感度への訴求を前面に打ち出した。SBJディレクターの小泉尚美課長(事業推進室事業戦略部デジタルマーケティング担当)は「渋谷の街に来る方を対象に、化粧品やメイクに興味を持ってもらうためのステップとして、『とにかく東急百貨店らしくない』メインビジュアルを用意した」と語る。
百貨店が感度軸のビジュアルを制作することは珍しく、その新鮮さもあって、客や取引先から大きな反響があった。そのため、感度へのアピールを主軸とした企画を継続的に行うことになった。イベントは年に2回の開催で、メインビジュアルに渋谷で活動するロックバンドを起用したり、芸能人とコラボした企画を実施したりと、認知度を上げるための施策も講じている。
感度軸の発信で「憧れ」や「好奇心」を醸成

「SHIBUYA BEAUTY JAM」のキービジュアル
とはいえ年に2回のイベントのみでは頻度が低いため、常設的なタッチポイントとして、24年11月にウェブメディア「SHIBUYA BEAUTY JAM」を開設した。ターゲットは渋谷への来街者で、「自分の興味関心や好奇心に従い、自由にメイクを楽しんでもらう」ことを狙いとした。ウェブ開設に伴い、社内に編集部も設立。「化粧品は、我々が売場編集を直営で手掛けていたカテゴリー。社内の人間の視点を大事にしたいと考えた」と小泉氏は話す。
ウェブメディアでは、各ブランドのニュースリリースや新作情報、イベント情報に加え、独自コンテンツとしてバイヤーおすすめ紹介、開発者インタビュー、イベントレポートといった記事を投稿。独自コンテンツは月に8~10本を目安に制作している。SBJならではの情報として、渋谷で行われるイベントの情報なども掲載する。
リアルイベントと同様に感度軸の訴求を大事にしており、オリジナルのメイクルック記事は、雑誌や広告のようなクオリティで作成。遊び心のあるファッショナブルでモードなメイクが多く、全体的なサイトデザインも含めて憧れや好奇心を抱かせるようなものにしている。
顧客との接点があるからこそ、届けられる内容に

小泉尚美ディレクター(左)と西鳥羽萌編集長(右)
ローンチ以降PV数は伸び続け、今年10月初旬時点で、同社の従来のビューティーサイトと比べて約6倍にまでなった。これは編集部を設けて情報発信の体制をしっかりと構築したこと、3施設のスタッフと定期的にミーティングを行い、現場の声を発信していることが要因として挙げられる。
バイヤーなどの経験がある社員が編集者として取材・制作を行うことで、より最先端のトレンドや、リアルな感覚を伝えられるようになった。西鳥羽萌編集長(ビューティー・自主MD部ビューティー担当バイヤー)は「チームの中に、日常的にお客様と接している店頭勤務のメンバーがいることで、『この企画がよりお客様に伝わる!』と想像しやすく、感度軸の訴求にもつながる」と述べる。
また、「以前は『東急百貨店のビューティー』を伝えるサイトだったため、どうしても総花的だった。春夏秋冬の、全国的にプロモーションが掛かる時期に当社もやっていたが、それだとお客様は他の色々なサイトと見比べることになる。特徴付けが難しかった」(西鳥羽編集長)。“渋谷”というキーワードを設定し目的を明確化したことで、コンテンツづくりや掲載情報の選定がやりやすく、情報発信の量・質の向上につながった。
様々な人や団体と‟ジャム”し、規模を拡大

現在は渋谷の若者とコンテンツを共創する期間限定プロジェクトが進行中だ(写真はキックオフミーティングの様子)
SBJは、渋谷と 「ジャムる(混ぜ合わせる)」ことによる意外性や感動の創出を目的の1つとしており、コラボレーションも活発に行っている。今年9月には、渋谷の若者マーケティング機関「SHIBUYA109 lab.」との期間限定プロジェクトを開始。SBJの独自編集記事やショート動画の企画、11月27日から始まるリアルイベントのノベルティ制作に取り組んだ。
「トレンドのキャッチ力やSNS発信に対する意識など、非常に勉強になった。これからも同業他社や異業種など、様々な人達とコラボを広げていきたい」と西鳥羽編集長は話す。昔から独自のカルチャーが根付いている渋谷は、今でもユニークなモノ、コト、ヒトがある。それらを掛け合わせてどのようなコンテンツができるのか、SBJの今後に注目が集まりそうだ。
(都築いづみ)