2024年04月30日

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ナイガイの「ハマグリパイルソックス」が70周年、手仕事が支えるロングセラー

記念すべき70周年を迎える今年、新作とともにさらに訴求する

ナイガイの「ハマグリパイルソックス」は今年、誕生から70周年を迎える。百貨店を主販路に、秋冬の主力商品として展開してきた。内側のパイル編みによる厚みが暖かさとクッション性を高め、足を包み込むフォルムでかかとの脱げにくさも防ぐ。名前の由来である履き口の三角系の刺繍は、職人が一つ一つかがり縫いをして仕上げるという丁寧な仕事が光るアイテムでもある。今秋冬はカシミヤ100%製やキャラクターとのコラボデザインに加え、ライセンス契約を結んだ「ドラえもん」モチーフも登場。ロングセラーを支えてきたものづくりに、新しいエッセンスを加えて打ち出す。

70周年記念商品としてつくられたカシミヤのソックス

ハマグリパイルソックスは、1955年に神奈川県横浜市にある綱島工場でつくられた。当時は高度経済成長期に差し掛かり、人々の生活様式が急速に変化するとともに、各家庭の台所環境も変わりつつあった時代。寒い板の間で家事をする女性の声を受け、「台所仕事をする時に履いて欲しい」という想いから開発に至った。

現在は「靴下のまち」とも呼ばれる国内生産量トップの奈良県広陵町にある工場で、年間13万足を生産している。ナイガイの担当執行役員兼技術開発部GM兼広報室長兼SDGs担当の土屋聡子氏は「(製造するのに)決して効率の良い商品ではないが、ナイガイの看板商品」と明言する。約40年前の時点で、毎年秋冬だけで10万足売れる商品だった。しかしそれは専用の編み機を使用すること、最終的な履き口のかがり縫いを職人が行うことで「10万足しかつくれなかった」という事情がある。

今では新しい編み機に変わり、生産数は以前より上がったものの、職人の手による最終工程は変わっていない。履き口に連なる三角形の刺繍は、戦前からある「ハマグリミシン」と呼ばれる古い型の専用ミシンで施した後、熟練の職人が一つ一つかぎ針でかがって、きれいなハマグリの形に仕上げる。これにより、さらなる増産は難しいため、工場では通年製造して秋冬の販売時に対応しているという。

ハマグリパイルソックスが他の靴下と比べて最も特徴的なのは、その「厚さ」だ。一般的なパイルソックスのループの高さが2~4mmなのに対し、ハマグリパイルソックスは専用のマシンで高さ5mmのループに編む。このループの長さが足裏と床面の間に空気層を保ち、熱を逃げにくくして足元の暖かさをキープする。

暖かさだけでなく、履き心地の良い設計にもこだわっている。かかと部分は「スーパーワイドヒール」という独特の形状で、足の収まりを良くして脱げにくくなっている。素材も耐久性や全体の風合い、毛玉のできにくさなどを考慮し、最適な混率で紡績した専用糸を使用する。

ドラえもんカラーに、気持ち良さそうに眠る「ドラえもん」が刺繍されている

今秋冬は70周年を祝う記念商品や、人気のキャラクターを施したラインナップを揃える。目玉となるのが、明治20年創業の深喜毛織がカシミヤ100%の糸で織り上げた一足。価格は1万3200円と靴下としては破格だが、周年にふさわしい上質な逸品として打ち出す。

ハマグリパイルソックスの工場が奈良にあることから、奈良の地で1956年の創業以来、蚊帳や蚊帳生地の商品を製造する株式会社白雪ともタッグを組んだ。キャラクターの「ハマグリちゃん」を刺繍した白雪の看板商品「白雪ふきん」と、ハマグリパイルソックスのセットで、奈良のものづくりをボックスに詰め込んだ。

今秋からライセンスブランドとして展開をスタートさせる「ドラえもん」のデザインも登場する。ドラえもん自身のカラーであるブルーを表現した生地に、気持ち良さそうに寝転ぶドラえもんの刺繍をポイントで施した。ナイガイの今泉賢治代表取締役社長の熱意により、1年以上前から企画を進めてきたという。

そのほか、既存のライセンスブランドとのコラボデザインも初投入。ディテールまで細やかに刺繍した「ポロラルフローレン」のベアのタイプや、ラメ糸を混紡してかわいらしさを引き立たせた、サンリオの「ハローキティ」「マイメロディ」「クロミ」それぞれのタイプも揃える。「昔の機械は柄が入れられなかったが、今は最新のマシンを昔のパイル編みができるように改造して、ジャカード織りができるようになった」(土屋氏)。キャラクターの細かな表情や形状、ブランドの世界観を、刺繍で忠実に表現できるようになったことも、商品づくりの幅を広げられる要因のようだ。

こうしたキャラクターデザインのソックスは外国人にもファンが多いことから、インバウンドもターゲットにする。特に新たに始めるドラえもんについては、日本だけにとどまるキャラクターではないと位置付け、広いマーケットを見据える。

ハマグリパイルソックスの主販路は、これからも百貨店だ。現在の都心百貨店における好調なインバウンド消費に、「当社の靴下も海外のお客様が買ってくださるケースが多いので、そうした方々にインパクトを与えられる企画を考えていきたい」と土屋氏。さらに、ギフト需要についても勝算があるとみる。

70周年を記念するロゴマークは、歴史を感じさせるレトロな印象も

今秋は、周年フェアの開催やプレゼントキャンペーンなども計画している。ハマグリパイルソックスの70周年とともに、ナイガイならではの丹念なものづくりを幅広い層へアピールする狙いだ。

(中林桂子)