2024年10月12日

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「レ クリント」、創業から80年 手仕事による明かりを伝え続ける

「レ クリント」は今年創業80周年。新作の「ブーケ」(画像左、2点)と「モデル328」(画像右、2点)が誕生した

必要なところに必要な明かりを――。北欧の照明文化を伝え続ける「LE KLINT(レ クリント)」は、今年創業80周年を迎えた。デンマークを代表する王室御用達の照明ブランドとして、創業時からデンマークのオーデンセにある工房で、職人達の手仕事により美しいシェードランプをつくり続けている。10月26日、日本の販売代理店であるスキャンデックスの本社では、新商品の展示会が開かれ、折り職人によるシェード制作のデモンストレーションも披露された。

画像左から、CEOのキム氏、チェアマンのラスムッセン氏、折り職人のマリア氏

当日は、デンマークから来日したレ クリント社のキム・イェンセンCEO(以下、キム氏)と、クリント財団のチェアマンのラース・ラスムッセン氏、そして折り職人のマリア・シモンセン氏(以下、マリア氏)も揃った。

キム氏は会の冒頭のあいさつで、デンマークをはじめ北欧で大切にされる「ヒュッゲ」について語った。デンマーク語で「居心地が良い空間」や「楽しい時間」を意味する。キム氏は「日本では『ヒュッゲとはどういうものか』とよく聞かれるが、ヒュッゲは店に行って買えるものではなく、人と人とのつながりの中で生まれるもの。家族や気心の知れた友人と過ごして、温かな気持ちになること」と語る。「ヒュッゲな時間を過ごすのに大事なのは、まず家を飾ること。家具などに加え、照明も重要なエレメントになる。メインの明かりを消して、小さな明かりの中で(自分にとって)特別な人達と、目と目を合わせて話すことがヒュッゲになる」(キム氏)と説明した。

今回、2つのシリーズから新作のランプが登場。日本での発売は来年の予定となる。オルリアン・バルブリ氏がデザインした「モデル328」シリーズのフロアランプとテーブルランプは、創業80周年を記念してつくられた。シェードは、日本の折り紙にインスピレーションを得たブランドのDNAでもある「モデル1」をベースにデザイン。クラシックなプリーツのシェードが、光源を柔らかく包み込む。レ クリントでは久しぶりの木製ランプで、支柱はオーク材。支柱脚部に付けた真鍮のディテールからコードが出る構造となる。伝統的かつモダンな印象で、細部のデザインにはエレガンスさが感じられる。

「ブーケ」シリーズのテーブルランプ。凛と咲く一輪の花を表現した

デザイナーのセンヤ・スヴァ―・ダムケア氏による「ブーケ」シリーズからも、フロアランプとテーブルランプが登場。2007年に発表したペンダントタイプは、チューリップの花束からインスパイアされたデザインだが、今回は咲き誇る一輪の花をイメージしてつくった。フロアランプは、緩やかにアールを描く細長い脚が特徴。脚に触れると風にそよぐ花のようにわずかに動く仕掛けだ。テーブルランプは台座にくぼみがあり、鍵やアクセサリーなどの小物を置くこともできる。

オーデンセの工房で折り職人を務めるマリア氏が、シェードの折り加工を実演した。新作のモデル328でも使用されているモデル1のシェードと、柔らかなカーブが特徴的な名作「サイナスライン」の2パターンだ。テーブルに広げられたのは、ガイドとなる無数の線のエンボスが施された1枚の樹脂シート。マリア氏は1本目の線を折ると、そこから一切の迷いなく折り進めていく。折る順序に合わせてシートの向きを素早く変え、指先を使ってしっかりと折り跡を付けながら、1つ1つの工程を重ねていく。17年の経験で培われた熟練の手さばきで、シートはみるみるうちに美しい連続性を持った立体へと姿を変えた。

「サイナスライン」の大きなシートを折り始める

折り加工後、専用ミシンでシートの両端を縫い合わせて断つ

シェードの上下に固定用の輪を付ける

細部の折りを調整して完成

マリア氏は、食品業界から転職してレ クリントに入社した。前職でも手先を使う仕事をしていたため「レ クリントで、自分の手先の器用さが求められる仕事に就けて幸運だった」と当時を振り返る。「初めは何をやるにしても大変だった。やるしかないと、ひたすら忍耐強くやり続けてきた」(マリア氏)。卓越した技術の習得には苦労も多かったが、デザイナーと一緒に商品開発にも携わるなどやりがいを感じているという。

汎発性のある樹脂シートを、きれいに折り進めるのは至難の業。随所でマリア氏がサポートしてくれる

実演の後には、記者を含め当日集まった人たちもモデル1の折り加工を体験。“マリア先生”のレクチャーを受け、悪戦苦闘しながらも、最後にはそれぞれが折り上げたシートが並び、皆で達成感を味わった。

キム氏は「私達はレ クリントを支えてくれる力強いパートナーを必要としており、今日はパートナーの皆さんと会えて本当にうれしかった。シェードの折りを体験してもらったので、皆さんも(レ クリントの)ファミリーだと思っている。本日はヒュッゲな時間をありがとうございます」と締めくくった。

レ クリントのクラフトマンシップは今日も受け継がれ、これからも「ヒュッゲ」を伝える明かりとなるだろう。

(中林桂子)