2024年07月14日

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そごう・西武、「シェアするコスメ」で男性の購買意欲を喚起

西武渋谷店ではA館とB館の連絡通路を使って「シェアするコスメ」を訴求した

世界的にジェンダーレス化が加速する中、百貨店の化粧品売場でも男性の姿が珍しくなくなってきた。百貨店やメーカーも、若年層を中心にスキンケアやメイクに関心を寄せる男性は増加の一途をたどるとみる。しかし、「何から始めればいいのか」や「どれを買えば合うのか」と悩む男性は多い。そこに商機を見出したのが、そごう・西武だ。7月1日~8月17日に「シェアするコスメ」と題した、店舗とインターネット通販サイトを連動させたプロモーションを実施。文字通りパートナーや家族らと一緒に楽しめる化粧品を訴求し、体験型のイベントも盛り込み、男性の美容初心者の購買意欲を喚起する。7月27日時点では、期間中の男性の売上げが前年比で2桁増と好調。プロモーションの効果が表れている。

シェアするコスメを企画した背景には、ジェンダーレス化だけでなく、新型コロナウイルス禍の一段落もある。今年3月13日からマスクの着用が個人の判断に委ねられ、外すと決めた人は多いが、新たな不安に直面する。コロナ禍で“隠せていた”肌の状態だ。周りの目を意識して、スキンケアに取り組む人が増えた。スキンケアは、美容に興味を持った男性にとっての入門編でもある。百貨店やメーカーにとって、男性を取り込むチャンスだ。

数字も裏付ける。そごう・西武では2023年度(23年3月~24年2月)、化粧品のカテゴリーで男性の売上げが前年の1.2倍で推移。構成比も全店計で約12%と2桁台に到達し、西武池袋本店では15%に上る。男性の活発な消費行動を指し示す。

ただ、そごう・西武は「男性」を前面には打ち出さない。シェアするコスメを手掛けた温品龍リーシング本部リーシング一部コスメ担当は「今、性別や年齢はボーダーレスで、できるだけ言葉にしない。男性用の化粧品が売場に当たり前に置いてあり、『自分でも買えるんだ』となるようにしたい。実際、例えばコーセーは『コスメデコルテ』の広告にメジャーリーガーの大谷翔平選手を起用したが、商品を男性用とは謳っていない。あくまでも『大谷選手が使っている』。シェアするコスメも、共通のテーマやポップは用意しつつ、一人一人に合わせて商品を提案する」と意図を説明する。

「シェアコスメ」でなく「シェアするコスメ」と銘打った理由も明確だ。近年は経済的な理由を含めて1つの化粧品をパートナーや家族らと共用する人が少なくないが、そごう・西武は「同じブランドで揃える」あるいは「どのブランドが良いか教え合う」といった新しい習慣を“シェアする”と定義した。初心者の男性に、いきなり「リップを使いましょう」と提案しても、心理的なハードルが高い。「まず、パートナーや家族らと化粧品を一緒に楽しみましょう」と肩を押すのが、そごう・西武の姿勢だ。百貨店業界が注力するライフスタイル提案の一環でもある。

ライフスタイル提案を試みる上では、店舗に専用の売場を設けると客の目を惹きやすいが、シェアするコスメでは既存の化粧品売場の各ショップにPOPを配したり、プロモーションスペースでPRしたりするにとどめた。「自然な見え方で提案がミックスされている方が分かりやすい」(温品氏)と考えたからだ。化粧品売場では「イプサ」の「ザ・タイムR アクア」、「コスメデコルテ」の「ヴィタ ドレーブ ハーバル ローション」、「カネボウ」の「グローバル スキン プロテクターa」、「バウム」の「オーデコロン」などを推奨する。

西武池袋本店や西武渋谷店、そごう千葉店など一部の店舗では、「SK-Ⅱ」と組んで体験型のイベントも実施。AIを用いた非接触型の機器で肌の状態や年齢を測定し、最適な化粧品を提案する。美容初心者の男性には有益な機会だ。SK-Ⅱは直近6カ月で男性の売上げ構成比が13%(7月27日時点)で、親和性も高い。

西武池袋本店、西武渋谷店、そごう千葉店では「SK-Ⅱ」と組んだ体験型のイベントを実施(写真は西武渋谷店)

店舗との親和性という意味では、国内外から人が集まり、ジェンダーレスの坩堝(るつぼ)といえる渋谷駅周辺に位置する西武渋谷店が高い。A館とB館を結ぶ連絡通路にシェアするコスメの対象商品を並べたほか、B館の1階ではフレグランスを美しい装飾とともに展示し、デジタルサイネージでも紹介。大々的に情報発信した。

西武渋谷店のB館1階には、美しい装飾とともにフレグランスが

西武渋谷店のB館1階のデジタルサイネージ。大画面にフレグランスが映し出された

店舗に加え、ネット通販サイト「e.デパート」や化粧品などの情報を発信するウェブサイト「美流百華WEB」でも、シェアするコスメを特集。男性と女性の美容系インフルエンサーを店舗に招き、買い物を楽しんでもらう記事も投稿した。「性別に関係なく、自ら情報を収集する時代。読者に知識が備わっているのは前提として、もっとくだけた内容で、記事を読むと『パートナーと店舗に行ってみたい』、『店舗で試したい』、『こんな生活を送ったら面白い』となるように工夫した」(温品氏)という。店舗に誘導する一方、記事からe.デパートにアクセスできるようにして、売り逃しを防ぐ。近くに店舗がない地域に住む読者も多く、その受け皿でもある。

シェアするコスメを始めた7月1日以降、男性客による化粧品の売上げは前年比2桁増と好調だ。体験型のイベントも好評で、7月25~31日に行った西武渋谷店では新客の開拓につながったという。今後について温品氏は「今回は新しいチャレンジ。効果を測定して次につなげる」と力を込める。具体的には未定だが、化粧品市場の最大のヤマであるクリスマスに向けて仕掛けを準備中だ。

ジェンダーレス化という商機を、いかに生かすか。男性用の化粧品、フレグランス、ネイルケア、アイブロウ、脱毛などは伸び代が大きい。そごう・西武は「シェアする」を切り口に、拡販を狙う。

(野間智朗)