2024年11月11日

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≪大阪地区主要百貨店店長パネルディスカッション≫「百貨店再成長」への マイルストーン

「大阪地区主要百貨店店長パネルディスカッション」(ストアーズ社主催)を7月6日(木)に開催した(ホテル日航大阪)。阪神梅田本店、大丸心斎橋店、あべのハルカス近鉄本店、高島屋大阪店、阪急うめだ本店(発言順)の店長を招いて、コロナ禍前の業績水準への完全回復と再成長へのフェーズに移行している中で、「『百貨店再成長』へのマイルストーン」をテーマに、短期・中長期視点でポイントとなる戦略・戦術を語っていただいた。

それぞれ前半と後半に分けて発言していただき、前半では2023年度の位置付け、重点施策の基本方針、春夏商戦で優先的に取り組んでいる具体的な施策などについて、独自の視点で述べていただいた。(司会:ストアーズ社編集部羽根浩之)


「個客」とのつながり、「ファン化」着々と

〇阪神梅田本店 小森栄司店長

約7年半に亘る建て替え工事が昨年4月6日に全館グランドオープンした阪神梅田本店の小森栄司店長は、3つのキーワードに基づき、具体的な事例を挙げながらその成果について言及した。

新生・阪神梅田本店は、「自分らしい生き方を追求しながら、毎日を豊かに暮らすために時間もお金も使いたい価値観」という「自分充足志向」のマーケットに焦点を当て、「毎日が幸せになる百貨店」をストアコンセプトに、新しい百貨店の創造に取り組んだ。

全館グランドオープン後から、目標達成に向けて「改めて『顧客基点』で、『個』のお客様の変化するニーズを捉えて提供していきながら、『個客』との関係づくりに取り組んできた」という。「個のお客様との関係づくり」とは、「知り合いから、お友だち関係、次いで親友関係に深まり、そして熱狂的なファンになっていく」というプロポーションを想定した取り組みである。

その成果を計る3つのキーワードの1つ目が「ファンコミュニティの形成」。「毎日が幸せになる百貨店」を具現化していくための3つの重点施策の1つでもある。対象顧客が好むスモールマスマーケットを捉え、それぞれ約100名の「ナビゲーター」(阪神百貨店の従業員)が、体験スペースやデジタルを活用してスモールマスマーケットを開拓・深掘りして、ファンコミュニティを形成してきた。マーケットの特性によって異なるものの、ナビゲーターのアカウントへのフォロワー数(合計)は20万人を超えてきた。ナビゲーターは個客との関係づくりだけでなく、「メーカーや生産者など、バイヤーの新しいネットワーク形成のツールにもなっている」という。

2つ目に挙げたキーワードは「新しい体験価値の提供」。「食の阪神の進化」を象徴する拠点の1つである「食祭テラス」(1階)で好評だったコンテンツの事例を紹介し、独自の体験価値の提供がファンコミュニティ形成にもつながっているという。
そして3つ目が「サービスの有料化」で、新しいマーケット開拓への手応えである。中でも食のサブスクリプションに着目しており、世界のウイスキー、コーヒーとクッキーなど、サブスクで提供するコンテンツを研究中だ。

いずれにしても「毎日が幸せになる百貨店」は、「真・顧客基点」を愚直に実践していくことで、それぞれのスモールマスマーケットを通じて、個客とのつながりを広げ、かつ関係性を深めながら、日々進化している。

強みを最大化へ、外商の高度化進む

〇大丸心斎橋店長 小室孝裕店長

大丸心斎橋店の小室孝裕店長は、2019年9月に建て替え工事が完成し、新本館としてグランドオープン後に取り組んできた「特別な価値と体験の提供」と、今期の3つの重点施策について言及した。

新本館は、百貨店MDである催事場や単品アイテム集積平場を休止またはコンパクトショップ化した上で、定期賃貸借契約による新しいカテゴリーの導入を進め、一方で特選ブランド、化粧品、美術、宝飾、呉服など百貨店の成長カテゴリーは従来型の仕入れ形態で運営するという、ハイブリッド型モデルを構築した。

「ここだけにしかない特別な価値の提供と、ここで買うことが特別な体験となる店づくり」に留意してきた。その1つが「館内装飾の強化」で、テレビ局の密着取材で取り上げられるなど、全館のVMD政策について説明した。

次いで重点施策については、「国内富裕層への対応」、「インバウンド(訪日外国人観光客)の支持拡大」、「エリア戦略」の3点を挙げた。

特に国内富裕層への対応策について、具体的な事例を挙げて説明した。強化策の中心は外商活動の高度化である。外商は「江戸時代の呉服商から続く確立されたビジネスモデル」という百貨店の最大の強みだ。この外商活動の高度化とは、外商顧客の潜在ニーズを顕在化させていく取り組みで、外商セールスを対象にした外商催事などで提案する商材のワークショップ形式による事前説明会、クローズドイベント開催によるVIP顧客への対応強化、データサイエンティスト(データ分析の専門家)によるデジタル活用など、具体的な取り組みを説明した。

中でもワークショップ形式の事前説明会と、データサイエンティストと共に購買予測までを組み立てる、いわばリアルとデジタルの融合による外商活動が成果を上げている。

外商活動の高度化は、大丸心斎橋店が培ってきた強みを最大化し、百貨店と専門店が融合したハイブリッド型百貨店モデル確立の肝になる取り組みであろう。

特選、食、スクランブルMDの拡充継続

〇あべのハルカス近鉄本店 千原昌和店長

あべのハルカス近鉄本店の千原昌和店長は、22年度に強化してきた営業施策を振り返りながら23年度の基本方針について述べた。

近鉄百貨店は24年度までの中期4カ年経営計画で「百“貨”店から百“価”店へ」を基本方針に掲げ、対象顧客の暮らし方の変化に寄り添った新たな価値の創造に取り組んでいる。言うまでもなくあべのハルカス近鉄本店は、その旗艦店として役割を担っている。22年度の営業施策では、「スクランブルMDの推進」、「特選ゾーンと食品の強化」、「催事・イベントの強化」を基本指針に掲げ、それぞれ具体的な施策とその成果から言及した。このうちスクランブルMDとは、婦人服、紳士服、化粧品、アクセサリー、食品など商品カテゴリーを掛け合わせて新しい売場を開発していくMD改革の一環。昨年春と秋に順次、新しい自主編集売場や取引先との協業による編集ゾーンを開設してきた事例を紹介した。

次いで中期経営計画の3年目となる23年度の基本指針について述べた。「あべの・天王寺エリア『ハルカスタウン』の魅力最大化」をテーマに重点施策を進めており、それに向けて継続的改装を手掛けている。前期の重点施策だった「スクランブルMDの推進」、並びに「特選ゾーンと食品の強化」が継続的改装の命題でもある。

スクランブルMDの推進では、今春も4月27日にタワー館5階に「美sion Terrace(ビジョンテラス)」を新設。美容や健康に関する消費に対して意識が高い「オトナ女子」を対象に、衣料品、化粧品、美容機器、生活雑貨、食品、ジュースバーなどを編集した。また特選ゾーンの拡充に向けて、ウイング館2階の婦人靴売場を3階に上げ、タワー館1階のアクセサリー売場をウイング館2階に移設して、特選ブランド誘致の準備を進めている。

改装では、近鉄百貨店が収益源に育成中のFC(フランチャイズ)事業の拡大戦略も関わってくる。この春は、タワー館12階のレストラン街に「スカイテラス」を4月12日に導入した。奈良県で有名なレストランのFCである。次いで秋にも食品売場に新業態のショップをFCで誘致する計画。

このほか、前期に続き催事・イベントの強化も重点施策に挙げており、あべの・天王寺エリア「ハルカスタウン」の魅力最大化に向けた取り組みを強化している。

「みなさんの高島屋」の土台固めに注力

〇高島屋大阪店 中村倫子副店長

高島屋大阪店の中村倫子副店長は、23年度を「土台づくりの年」と位置付けて、構造改革と営業力強化策に取り組んでいると説明した。高島屋は31年に創業200周年を迎える。それに向けた基盤づくりである。

高島屋は「百貨店事業再生」期と位置付けた23年度までの中期3カ年計画の営業利益目標を1年前倒しで達成した。大阪店は高島屋グループの大型店の中で半年先行して22年度上期から「大規模構造改革」を進めてきており、その成果が着実に現れてきている。「百貨店事業の持続的成長に向けた土台づくり」は順調だ。

今期はこの土台をさらに強固にしていくための営業施策に取り組んでいる。1つ目が「館全体のワンストップショッピング機能の向上のための品揃えとサービスの充実」、2つ目が「お客様のファン化」、3つ目が「全従業員が能力をフルに発揮できるような働き甲斐へのエンゲージメントの向上」である。

品揃えとサービスの充実については、「従来の延長線上ではない新しい価値を創造していくのが百貨店本来の大きな役割」とした上で、「既存のお客様のニーズだけでなく、新しいお客様の好奇心を満たす『スキ』が溢れる店にしていきたい」と強調した。その好奇心を「スモールマスMD」と捉えて、12の特徴ショップ(自主編集売場)を中心に、スイーツや化粧品など様々な領域でスモールマスMDの提供に取り組んでいる事例を紹介した。

このほか、顧客との関係性を再構築して熱烈な高島屋ファンを増やしていく「ファン化」への取り組み、そして「従業員がここで働きたいと思える環境づくり」についても事例を挙げて説明した。

いずれにしても同店の「お客様との距離感が近い」特徴を生かして、「『大阪高島屋に来たら楽しい』、『自分のために何かしてくれる』と感じていただける『みなさんの高島屋』づくり」に余念がない。

グループ国内外富裕層戦略の拠点に

〇阪急うめだ本店 佐藤行近店長

前半の最後は、22年度(23年3月期)に過去最高の売上高を更新した阪急うめだ本店の佐藤行近店長に語ってもらった。過去最高の売上げを計上した要因を簡単に振り返り、23年度の重点施策について言及した。

入店客数がコロナ禍前の8掛け状態下での過去最高売上高だけに、「買上げ率と買上げ単価の上昇」に起因する。けん引したのは外商顧客とペルソナカード顧客である。領域では、コロナ禍前から継続して強化してきたインターナショナルファッションとジュエリー、モードファッションのリモデル効果が売上げ増に大きく寄与している。加えて「9階の祝祭広場や各階のコトコトステージを拠点にしたプロモーションやイベントなど楽しい体験価値の提供によってライトユーザーの購買額も伸びてきた」という。ただ一方で、「ミドルマーケットの伸びが低く、一人一人の多様なニーズ、つまりスモールマスマーケットに十分に応え切れていない大きな問題」が露呈された。

今期の営業施策では4つのポイントに着目している。1つ目が「国内外の富裕層顧客とのパーソナルな関係づくりによってLTV(ライフタイムバリュー)を高めていく営業活動の強化」、2つ目が「ミレニアル世代とアッパーミドルを対象に、ライフステージやライフイベントが充実したものになるように、ジャーニーを描いて全館で最適な商品やサービスを提供していくことで、マイストアとして愛着を持って利用していただけるようになる取り組み」、3つ目が「永遠のテーマであり、阪急うめだ本店の最大の武器である、リアル店舗の体験価値提供の磨き上げ」、4つ目が「インバウンドマーケットの獲得・強化」である。

このうち国内外の富裕層戦略について詳細に言及した。今春の阪急阪神百貨店の組織改正で、阪急うめだ本店を軸に富裕層顧客の拡大を推進していくために「ロイヤルカスタマー推進グループ」を新設。同グループには、お得意様外商部、および第1店舗グループのクライアンテリング開発推進部を移管し、加えて海外顧客化推進部と、ロイヤルカスタマー戦略推進部を新設した。同戦略推進部は事業計画、顧客政策、コンテンツ開発などを担当する。阪急阪神百貨店として阪急うめだ本店を基点に富裕層戦略を推進していく組織体制が整備されたわけだ。お得意様外商部では買上げランク別のチーム編成に刷新し、さらに上位顧客へのハイタッチなサービスを提供できる体制も整備している。

国内外富裕層戦略を推進していく組織改正やサービス体制の整備と共に、具体的な活動内容についても言及した。富裕層戦略と共にミドルマーケットの開拓にも留意しており、言うまでもなく23年度(24年3月期)の売上高も過去最高の更新を目指している。


「再成長戦略」フェーズに突入へ

次いで後半は、前半の現状を受けて、24年度以降の中長期視点を踏まえ、自店の再成長ステージに移行していくための秋以降の重点施策を中心に、その方向性と具体的な事例を語っていただいた。

富裕層の「食」マーケットを開拓へ

〇阪神梅田本店 小森店長

阪神梅田本店の小森店長は、グランドオープン後2巡目に入り上昇気流に乗っているものの、まだ当初計画していた売上高とは乖離があることから、さらなる成長に向けた課題と、攻め方について言及した。

阪神梅田本店は、阪急うめだ本店と一線を画すため「ノットラグジュアリー」(中間)マーケットで勝負している。ちなみに、阪急阪神百貨店のラグジュアリー関連の売上高がコロナ禍前の18年度比で約1.5倍まで拡大しているのに対し、中間マーケットのファッションは8掛けの状態というデータを紹介し、いわば逆風下での舵取りを迫られている。

引き続き「食の阪神の磨き上げ」、「スモールマスマーケットを捉えた共感型コンテンツの開発と新しい体験価値の創造」、「OMOで実現するファンコミュニティの形成」に留意していくが、新しいマーケット開拓にも積極的にチャレンジしていく方針で、そのポイントとなるテーマを紹介した。

1つ目が富裕層を対象にしたフードマーケットだ。阪急阪神百貨店では国内外の富裕層マーケットの拡大戦略を強化しているが、阪神梅田本店では強みである食にフォーカスして、このマーケットを攻めようとしている。稀少価値のウイスキーやワインなど、「富裕層のデイリーや特別な日の食ニーズ」に対するメニュー開発を進めている。加えて、単なるメニュー提案だけでなく、「食のデリバリーサービス」も検討中だ。

次に、注目しているマーケットとして「リユース・ヴィンテージ」を挙げた。同店では既に「質流れ品大バザール」が有名催事となっているが、今後はサステナブルな視点を重視したリユース・ヴィンテージマーケットを開拓していきたい意向だ。

そして3つ目が「Web3(ウェブスリー)時代」への対応を挙げた。VR(バーチャル)イベントへの出展などにトライアルしている現状を紹介した。

「毎日が幸せになる百貨店」の2巡目は、順調な滑り出しである。コロナ禍が落ち着き、当初計画していた数値に着々と近付きつつある。

インバウンドとサステナビリティ軸に

〇大丸心斎橋店 小室店長

大丸心斎橋店の小室店長は、「インバウンド戦略」と「サステナビリティへの対応」、「パルコや周辺の商業施設との連携強化によるエリア戦略」について言及した。

同店のインバウンド(免税売上高)はコロナ禍前に全国の百貨店でトップ水準の売上げを誇っていただけに、今期以降、大幅な回復が見込めるマーケットと位置付けている。その戦略を4つの視点で推進している。1つ目が「国・地域(エリア)ごとにタッチポイントのあり方や提案する商材を変えていく取り組み」、2つ目が「心斎橋店に来店するメリットや優位性の提供」、3つ目が「VIP顧客とのコミュニケーション」、そして4つ目が「国内顧客との共存」である。例えば、心斎橋エリアへの来街を促すために、今春より外国人観光客向けの専用のホームページを開設した。このほか、南館の第2化粧品売場の復活、海外VIP顧客に対する国内VIP顧客と同様のサービスや特典を提供できる体制の整備など、それぞれ具体的な対応策について言及した。

次いで「サステナビリティの推進」については、フェアトレード、エシカル、ローカリティ、地産地消などを意識した商品提案や売り方にシフトしていく様々な取り組み事例を紹介した。同店は大丸松坂屋百貨店のサステナビリティのモデル店舗と位置付けられており、館のLED化、再生可能エネルギー100%使用の電力、外商営業車のEV化など、ハード面で先行している。大丸松坂屋百貨店が推進している「エコフ」活動にも積極的に取り組んでいる。ローカリティの一環として、地元のジャズミュージシャンの演奏会を地下2階のフードホールで定期的に開催しているが、ここでは「投げ銭」ができる顧客参加型の仕組みも取り入れている。

パルコとの連携では、若手社員による共同イベント企画、「大丸・松坂屋アプリ」活用による共同販促などの取り組みを紹介した。いずれにしても喫緊では25年の「大阪・関西万博」を見据え、御堂筋エリアの価値を高めていくための活動に注力している。

「ハルカスタウン」魅力最大化に傾注

〇あべのハルカス近鉄本店 千原店長

あべのハルカス近鉄本店の千原店長は、24年度を最終年度とする近鉄百貨店の中期4カ年経営計画に基づく同店の重点施策について言及した。

中期計画では「くらしを豊かにする共創型マルチディベロッパーへの変革」を事業戦略として掲げている。「これまで数多くの品物を揃えていた『百“貨”店』から、数多くの価値を提供する『百“価”店』に変わっていく」ための事業戦略であり、顧客の暮らし方が大きく変わっていく中で、その変化に寄り添い、新たな価値を創造し提供する事業者を目指している。

基本指針では、「あべの・天王寺エリア『ハルカスタウン』の魅力最大化」、「地域中核店・郊外店のタウンセンター化」、「百貨店の強みの収益事業化」、「成長を支える機能と基盤強化」の4項目を掲げている。

このうちあべのハルカス近鉄本店の最大のミッションは、あべの・天王寺エリア「ハルカスタウン」の魅力最大化である。「あべの・天王寺エリアのグローバル化に向けて、国内外の超広域から集客できる魅力ある店づくりの確立」を目指した重点施策について言及した。近鉄百貨店では、近鉄本店と、隣接する「Hoop(フープ)」と「and(アンド)」の館の特徴・役割をさらに明確化し、将来的に新しい商業施設を加えた4館体制で「ハルカスタウン魅力最大化」を推進していく。フープは「ファミリー層や若年層向けの飲食、ファッション、スポーツ、アミューズメントを提案する『自分スタイル編集館』を目指す」。アンドは「近隣生活者に対して機能的なサービスを提供する『上質な暮らしのサポーター館』を目指していく」。

あべのハルカス近鉄本店は、「都市型百貨店として、引き続きタワー館を中心にラグジュアリーブランドを拡充すると共に、衣・食・住を混在させたスクランブルMDも拡充していく」方針で、スクランブルMDでは地域の名産品を揃えた地方創生型の売場も開設していく。このほか、登録者数が60万人を超えた「近鉄百貨店アプリ」を中心としたデジタル活用による顧客の囲い込み策などについても言及した。

来年の24年は同店が核店舗である「あべのハルカス」が開業10周年を迎える。同店では10周年記念プロジェクトを立ち上げ、そこには若手社員を抜擢した。「感謝の気持ちを表現し、今後の意気込みが伝わるような、過去、現在、未来が融合した記念企画を打ち出していきたい」意向だ。24年は中期経営計画の最終年度に当たる。今期は10周年への準備と共に、次期中期計画で「成長戦略」を描いていくための「近鉄百“価”店」への変革を加速させていく重要なフェーズでもある。

好きが溢れるマーケット創造を積極化

〇高島屋 中村副店長

高島屋の中村副店長は、25年の「大阪・関西万博」を絶好の商機に転換していくため、「25年春に『どのような店でありたいか』を起点に、お客様のライフステージでの接点拡大と利便性の向上に向けて、大阪店ならではの品揃えとサービスを具現化していく」下期以降の留意点について述べた。

大阪・ミナミという地域性に着目。「お客様との距離が近く『みなさんの高島屋』として、好きが溢れるマーケットの創造」と「『世界のみなさんに愛される高島屋』のおもてなしとSDGsの創造」に注力していく考えを示した。いわば成長基盤となる営業施策だ。好きが溢れるマーケット創造とは、「自分たちが好きと思えるスモールマスマーケットを深掘りして、売場づくり、品揃えやサービスで具現化していくこと」だ。

この成長基盤では、「品揃え改革」を重要な要素に位置付けている。「成長マーケットをさらに伸ばしていく観点」でポイントに挙げたのが、「上質・逸品」と「美・健康」のマーケットだ。上質・逸品マーケットでは、特選と宝飾・時計売場を軸に引き続き拡充していくが、「インテリアや、現代アートを含めた美術・工芸、食品を含めて衣・食・住の全てにおいてライフタイムバリューに資するコンテンツ開発に取り組んでいく」考えだ。さらに既存MDの進化策として、「デパ地下」と、ファッション関連など自主編集並びにアイテム平場の魅力アップも品揃え改革の重点ポイントに挙げた。これらはインバウンド顧客の利用頻度が高まってきている領域や売場であり、昨今、「若手デザイナーのファッションが展開できる自主編集売場やこだわりの逸品をフレキシブルに揃えることができるアイテム編集平場が復活してきている」からである。

一方の「世界のみなさんに愛されるおもてなしとSDGs」に関しては、地域との連携によるエリア活性化策が中心になる。高島屋グループが総力を挙げて推進している「まちづくり戦略」に基づき取り組んでいる。

「自分たちがワクワクするエリアや館にしていくこと、少し昭和で親しみやすい雰囲気を魅力として発信していくことで、エリアで輝き、高島屋グループでも次世代型の品揃えとサービスで唯一無二の個性を持った館として輝ける存在価値を確立していきたい」意向だ。

成長領域の磨き上げと組織力・人材育成カギ

〇阪急うめだ本店 佐藤店長

阪急うめだ本店の佐藤店長は、「人と人との触れ合いや臨場感といったリアル店舗ならではの体験価値が貴重になっている」ことから「阪急うめだ本店でしか味わえない、これまで以上の質の高い没入体験を提供していく」ことが持続的成長に欠かせないと強調。その上で、好評だった同店ならではの体験価値(スペシャリティコンテンツ)の事例、サステナビリティの推進、インバウンドマーケットの獲得・強化について言及した。

同店でしか味わえない体験価値の提供では、9階の祝祭広場を拠点に展開しているクリスマスマーケット、バレンタインチョコレート博覧会が過去最高売上げを更新した事例を紹介。さらに「令和4年度青少年の体験活動推進企業表彰」(文部科学省主催)で、百貨店として初めて審査委員会優秀賞を受賞した「HANKYUこどもカレッジ」の活動、大阪の街を巡りアートやデザインに出会える周遊型エリアイベント「大阪アート&デザイン」(5月31日~6月13日)に参画した事例を紹介した。

次いでサステナビリティの推進では、「社会課題の解決と事業活動を融合して新しい価値を創造し、収益源を生み出していくことは、中長期的視点で欠かせない大きな取り組み」と位置付けている。この活動を象徴する拠点の1つが、4月12日に8階に開設した「GREEN AGE(グリーンエイジ)」。「人と自然の共生」をコンセプトに掲げた新しいワールド(対象顧客の関心事を軸に構成した売場の単位)で、約2300㎡にも及ぶ百貨店の中でも類を見ない独自の編集ゾーン。ミレニアルファミリーをコアターゲットに、高感度なファッションだけでなく、食品、雑貨、化粧品、インテリアなどを含めたライフスタイルを提案する。パートナーや仲間との絆を大切にする都市生活者に向けた新しい自然共生型ライフスタイルを提案することで、「人と社会と環境が調和した豊かな未来を共創していく」ワールドを志向している。新たな顧客層を集客しており、売上高も計画を上回る順調な滑り出しだ。また地域との協業によるCSV活動も強化しており、岡山・真庭市との取り組み事例を紹介し、他の地域に広げて新しい価値創造に取り組んでいる。

インバウンドマーケットの獲得・強化については、春の組織改正で、海外顧客化推進部を再編して、企画から品揃えやサービス、コンテンツ開発、販促まで、並びに一般ツーリストからVIP顧客まで一気通貫で対応できるようにチーム化した。「海外のお客様の要望を聞き、さすが日本の百貨店と喜んでいただけるような取り組みを進めていく」体制を整備した。

同店のストアビジョンは「世界へ、次世代へ発信する楽しさ世界No.1の劇場型百貨店」で、国内外を問わず、「お客様の暮らしを楽しく、心を豊かに、未来を元気にすること」を事業の大きな目的として掲げている。言うまでもなく阪急うめだ本店はその旗艦店だ。「成長性の高いマーケット領域に対して提供するコンテンツを磨き上げ続け、それを支える組織能力向上と人材育成に取り組むことを根底にして、サステナビリティと事業活動を融合させていくことを戦略の柱にして持続的成長につなげていきたい」と締め括った。